NFL各チームのクォーターバック(以下QB)を巡る動きはどうやら一段落したようだ。
2022年シーズンではQBに関して多くの動きがあった。トレードや契約更新など、上手く行ったものもあるし、そうではなかったものもあった。たとえば昨年デンバー・ブロンコスがラッセル・ウィルソンをトレードで獲得したときは、NFL史上最高のトレードのひとつになるかと思われたが、実際にはそのように事は運ばなかった(訳者注:ブロンコスはシーズン5勝12敗でAFC西地区最下位だった)。
机上の計算とフィールドでの結果には違いが常に生じる。だからこそゲームなのである。選手の移籍にはそれぞれ意図があり、上手く行くときも行かないときもある。
今年もQBに関して多くの動きがあった。デレック・カーがニューオーリンズ・セインツに移り、その代わりにジミー・ガロポロがラスベガス・レイダースへ向かうことになった。インディアナポリス・コルツはアンソニー・リチャードソン(2023年NFLドラフト全体4位指名)にチームの命運を託すという大きな賭けにでた。そしてニューヨーク・ジェッツはアーロン・ロジャースをトレードで獲得してス―パーボウルを狙っている。
もちろん、そうしたQBの変動は評価が分かれる。『スポーティングニュース』のABC評価は以下の通りだ。
2023年NFLクォーターバック(QB)変動評価
▼サンフランシスコ・49ers【評価C-】
2022年第1週先発QB:トレイ・ランス
2023年第1週先発QB予想:ブロック・パーディ?
49ersはこのオフシーズンに目立ったQBの補強を行わなかった。サム・ダーノルドと契約したが、おそらく三番手QBの役割になるだろう。しかし、本来ならこの最も重要なポジションの選手層を充実させることが求められているチームは49ersである。
昨年大ブレークしたブロック・パーディに頼るべきではないと言うわけではない。しかし、49ersが今年もプレーオフでの戦いを視野に入れるのであれば、少なくとも控えQBには信頼がおけるベテラン選手を確保するべきであっただろう。ドラフト入団後2シーズンを過ごしたトレイ・ランスの実力は未知数のままであるし、ダーノルドはおそらくこれが現役最後のシーズンになると思われている。
パーディは昨シーズンに49ersがNFCチャンピオンシップゲームに進出する原動力となった。しかし、それが真の実力であったのか、あるいは僥倖であったのか、現時点では不明のままだ。ヘッドコーチのカイル・シャナハンとそのコーチ陣が今シーズンをパーディだけに頼るのはギャンブルに過ぎるのではないだろうか。
▼タンパベイ・バッカニアーズ【評価C】
2022年第1週先発QB:トム・ブレイディ
2023年第1週先発QB予想:ベイカー・メイフィールド
トム・ブレイディが正式に引退したが(今度こそ)、バッカニアーズはドラフトで新QBを獲得することや、現行の控えQBを昇格させることをしなかった。その代わりとしてベイカー・メイフィールドに先発QBの座を託すことを決めた。メイフィールドはクリーブランド・ブラウンズ在籍時の成績が本来のものではなかったことを証明し、先発QBに戻るチャンスがこれまでにも何回かあった。
ベテランの域に入ったメイフィールドにとって、バッカニアーズは最良の、そして最後のチャンスになるだろう。NFLの先発QBに相応しいことを証明しなくてはならない。今年から攻撃コーディネーターの任に就くデイブ・カナレスは新人をよく起用することで知られている。ヘッドコーチのトッド・ボウルズは師匠筋のブルース・エリアンス(前ヘッドコーチ)とは違い、高いリスクをかけて大物を使った攻撃陣を編成することを好んではいない。
バッカニアーズはチームとして微妙な位置にある。所属する地区の他チームは補強に成功しつつあるが、戦力では依然として優位にある。サラリーキャップのためにQB補強に大金を費やすことができなかったうえ、ボウルズ自身がヘッドコーチとしての力量が未知数だ。
メイフィールドを獲得したことは急場しのぎの策とも言えなくもない。控えQBには2021年ドラフト2巡目で獲得したカイル・トラスクもいるのだが…。
▼ラスベガス・レイダース【評価B-】
2022年第1週先発QB:デレック・カー
2023年第1週先発QB予想:ジミー・ガロポロ
ガロポロはふたたび大きなチャンスを手にした。
レイカーズのヘッドコーチを務めるジョシュ・マクダニエルズはデンバー・ブロンコス時代に何人かの大物選手(ジェイ・カトラー、ブランドン・マーシャル)を放出したことで知られている。2023年シーズンを前になぜかデレック・カーに見切りをつけ、フリーエージェントから獲得したガロポロを代わりに据えたことは、その手法を繰り返しているようにも見える。
ガロポロはマクダニエルズの攻撃戦略を熟知している。そのことはプラスに働くはずだ。しかし、QBとしての力量はカーより落ちる。その意味ではレイダースはQBの補強に成功しているとは言い難い。とくに所属するAFC西地区のQBは多士済々だ。大物QBを避けて、チームのまとまりを重んじた意図は功を奏するだろうか。
▼ニューオーリンズ・セインツ【評価B】
2022年第1週先発QB:ジェイミス・ウィンストン
2023年第1週先発QB予想:デレック・カー
デレック・カーをチームに迎えたことで、セインツはドリュー・ブリーズが引退してから探し続けた「まあまあのレベル」以上のQBをついに手に入れた。
カーにとっても正念場のシーズンになる。2022年のレイダースから2023年のセインツへの移籍がどれだけのアップグレードをチームにもたらせるだろうか。クリス・オラーベ、マイケル・トーマス、そしてアルビン・カマラと、セインツ攻撃陣の戦力は充実している。ダレン・ウォーラー、ダバンテ・アダムス、そしてジョシュ・ジェイコブスといった2023年のレイダース攻撃陣に引けを取らない布陣である。
セインツが所属するNFC南地区は平均より弱い。カーを獲得したことで、セインツは短期的には十分な補強に成功したと言えるだろう。費用は多少高くついたが、それは大きな問題ではない。このチームがス―パーボウルに進出するとは思えないが、カーを加えたことで地区制覇は狙える位置についた。
▼テネシー・タイタンズ【評価B+】
2022年第1週先発QB:ライアン・タネヒル
2023年第1週先発QB予想:ライアン・タネヒル?
2023年のドラフト前まで、タイタンズはQB市場に参入すると噂されていた。トレードで二番手か三番手のQBを獲得するか、あるいはドラフト1巡目でQBを指名するか、どちらにしてもライアン・タネヒルに頼った現状に満足していないと思われていたからだ。
新GMのラン・カーソン氏はドラフト2巡目の8番目でウィル・レビスを指名した。レビスは1巡目で指名されてもおかしくない逸材だが、契約上5年目のオプションはつかなかった。従って、一日も早くフィールドで結果を出す必要がある。2023年シーズン開幕はタネヒルの控えQBとして迎えるだろうが、シーズン中に先発QBを任されることになっても不思議ではない。
▼ニューヨーク・ジェッツ【評価A-】
2022年第1週先発QB:ザック・ウィルソン
2023年第1週先発QB予想:アーロン・ロジャース
ジェッツはこのオフシーズンで「意味のある」QB補強しかしないと明言していた。その言葉の通り、市場で最高のパッサーを手に入れた。
このトレードに不安がないというわけではない。ロジャースが2023年シーズン終了後も現役を続行するかは不明だからだ。それによって、ジェッツの2024年ドラフト戦略は大きく左右されるだろうが、ロジャースを獲得したことでジェッツは大きな資金をすでに使ってしまった。それでなくても、39歳のロジャースはここ数年故障に悩まされている。2022年の成績もロジャースにしては不本意なものだった。
そうは言っても、何人かのドラフト2巡目レベルの選手(あるいは1巡目レベルでも)と引き換えに、将来の殿堂入りが確実視されているQBを短期間の傭兵として獲得し、スーパーボウルを狙う。悪くはない取引だとは言えるだろう。
▼ヒューストン・テキサンズ【評価A】
2022年第1週先発QB:デービス・ミルズ
2023年第1週先発QB予想:CJ・ストラウド(2023年NFLドラフト全体2位指名)
ドラフト指名に関して、熱心なファンの間では常に賛否両論が巻き起こる。それでもテキサンズが2023年NFLドラフトで2つのポジションを極めて有効に補強したことは評価されるべきだ。
QBがドラフト前に多くの批判にさらされることはよくある。しかし、CJ・ストラウドが全体2位指名を受けるに相応しい逸材であることには異論の余地はない。ストラウドを獲得したことで、2023年のテキサンズは大方の予想より戦績を上げるのではないだろうか。
たしかにテキサンズの戦力が充実しているとまでは言えないが、2023年はデイミオン・ピアースのラン能力にも期待できる。その間にストラウドがNFLでのパス攻撃に適応していけば言うことはない。
▼カロライナ・パンサーズ【評価A】
2022年第1週先発QB:ベイカー・メイフィールド
2023年第1週先発QB予想:ブライス・ヤング(2023年NFLドラフト全体1位指名)
パンサーズは全体1位指名で躊躇しなかった。指名権を獲得し、そしてそれに相応しい最高の逸材を手に入れたのだ。
ヤングはQBに求められるすべてを兼ね備えた有望株だ。リーダーシップに長け、パス能力は抜群で、優れた戦力眼を持っている。QBとしては小柄(身長約177.8cm、体重約88.5kg)なことは気がかりではあるが、これほどまでにオールラウンドな才能をもった新人QBは滅多に現れることはない。
ヘッドコーチのフランク・ライクは攻撃に重点を置くタイプの指導者だ。さらに再建が済んだ攻撃陣(まだエリートレベルとは呼べないが)にヤングを加えることで、パンサーズは2023年に大きな躍進を遂げるかもしれない。
▼インディアナポリス・コルツ【評価A+】
2022年第1週先発QB:マット・ライアン
2023年第1週先発QB予想:アンソニー・リチャードソン(2023年NFLドラフト全体4位)
NFLチームは天性の才能を重視する。そしてリチャードソンはNFL屈指のQBになり得るすべての才能を備えている。先発QBとしての実戦経験は限られているが、それは問題にするべきではない。
コルツのヘッドコーチに就任したシェーン・スタイチェンはフィラデルフィア・イーグルスでジェイレン・ハーツを育てた実績を持つ。リチャードソンにとっても得難い指導者になれる。
コルツが忍耐することを選べば、さらにチャンスは広がる。今オフシーズンに控えQBとしてガードナー・ミンシューも獲得したことは懸命な判断だった。ミンシューはNFLでの経験はいくらかあるが、チームの顔になれるほどの大物QBではない。それでもコルツが危機に陥ったときは頼りになるだろう。もともと、今年のコルツにはプレーオフ進出は期待されていない。それよりもリチャードソンの育成が重要課題だ。
リチャードソンはランとパスの両方に抜群の才能を秘めている。しかし、大学での経験が少ないことから、NFLのスピードと防御力に適応するまでには時間がかかるかもしれない。シーズン開幕からリチャードソンを先発QBに起用するか、あるいは控えQBにするかは、これからチーム内で慎重に検討されるだろう。
コルツが2023年シーズンの先発QBが誰に起用するかは興味深いところだ。とくにオーナーであるジム・アーセイ氏の意向が大きなカギになる。
いずれにしても、コルツが将来のNFLを引っ張るかもしれないリチャードソンを獲得したことは評価されるべきだ。リスクのないところには成功もない。コルツの賭けはどう転ぶだろうか。