大谷翔平『50-50』達成の次に期待したい日本選手無縁のレジェンド賞

松永裕司 Yuji Matsunaga

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MLBにおいてナショナル・リーグとアメリカン・リーグが出そろったのは1901年のこと。それから123年を経た日本時間9月20日(現地19日)、これまで誰も成し遂げることのなかった「50-50」を大谷翔平が達成した。

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MLBでは多くの伝説的選手が偉大な記録を打ち立てて来た。ベーブ・ルース、ルー・ゲーリック、ジョー・ディマジオ、ジョー・ジャクソン、タイ・カッブ、テッド・ウイリアムズ、ピート・ローズ、ハンク・アーロン…思いつくだけで、綺羅星のごとく輝いたスター選手の名を数多挙げることができる。そうしたレジェンドたちが成し得なかった記録を大谷が達成したというのだから、それを見ることができた現在の野球ファンは幸せに違いない。

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歴代日本人メジャーリーガーの軌跡

MLBへの道を切り開いた野茂

いわゆる「日本人メジャーリーガー」の歴史はまだ30年ほどに過ぎない。村上雅則さんを除けば、恒常的に日本選手が活躍するようになったのは1995年の野茂英雄さん以降。この95年、注目はまだ「果たして野茂(日本選手)はメジャーで通用するのか」という点に過ぎなかった。

野茂さんは5月2日(全て現地時間)にロサンゼルス・ドジャースからメジャー・デビューを果たすがその後ひと月、6度の登板を数えても、まったく勝ち星に恵まれなかった。当時、ニューヨーク在住だった私は「あの野茂でも通用しないのだろうか」と懸念を抱いたほど。

しかしデビューからちょうどひと月の6月2日、ニューヨーク・メッツを相手に8回123球2安打1失点に抑え、初勝利記録した。実は村上さんが挙げた5勝は全てリリーフによるもので、野茂さんの初勝利はアジア出身選手としメジャー史上初の先発投手白星だった。

野茂さんはこの後、6月だけ2完封を含む6勝を挙げ、オールスターに選出され先発。当時シアトル・マリナーズのエースとして「51」を背負っていたランディ・ジョンソンとの投げ合いを演じて見せた。

野茂さんはこの年、13勝を挙げ最多奪三振を記録、堂々と新人王に輝いた。以降、2度のノーヒットノーランを記録するなど、その後の活躍はご存知の通り。つまり野茂さんは日本選手として初の最多奪三振王、新人王、オールスター出場・先発、ノーヒットノーランの称号を持つ。

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次々と海を渡る侍たち

2001年にはイチローさんがメジャーデビューを果たす。日本選手初となる首位打者、盗塁王となり、MVPに輝いた。さらに、イチローさんは2007年のオールスターにおいて史上初となるランニング・ホームランを記録し、日本人として初めてオールスターMVPも獲得した。

2009年には松井秀喜さんが、ワールドシリーズで13打数8安打3本塁打8打点、打率.615の成績を残し、ヤンキース9年ぶりの世界一に大貢献。そして、日本選手として初のワールドシリーズMVPに選出された。松井さんはポストシーズン(以下、PS)で10本ホームランを放っているが、うち3本が同シリーズで飛び出した。

2013年には当時、ボストン・レッドソックスに所属していた上原浩治がリリーフ・エースとして君臨。アメリカン・リーグ優勝決定戦においてMVPを獲得、ワールドシリーズも制覇し日本選手初の胴上げ投手にもなった。

新型コロナ・ウイルスが猛威をふるいシーズン60試合制となった2020年には、ダルビッシュ有が12試合登板、メジャートップタイの8勝(3敗)をマークし、日本選手として初の最多勝の栄冠を手にした。このシーズン、ダルビッシュは防御率2.01でリーグ2位と、惜しくも最優秀防御率は取り損ねた。

大谷は2021年、23年と2度シーズンMVPを獲得。昨シーズンは、アジア出身選手として、初のホームラン王、そしてハンク・アーロン賞を奪取した。

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ベーブ・ルース賞とは?

こうして振り返ると、日本選手が獲得していないMLBのタイトルは残り少ない。だが、これまで日本選手がまったく無縁だった賞が存在する。

それが、これまで大谷が常に比較されてきたレジェンドの名を冠した「ベーブ・ルース賞」である。これまであまりにも日本選手にとって縁遠かったせいだろうか、野球好きでも同賞を知らないという方々も少なくないのではなかろうか。

実は2002年まで「ワールドシリーズMVP=ベーブ・ルース賞」であった。この規定のままであれば、09年に松井さんが獲得していたはずだった。しかし03年以降、同賞は「ポストシーズンを通し最も活躍した」選手に与えられる賞となった。

09年シーズン、松井さんは指名打者として定着、PSを迎えた。24年の今日と異なり、当時ナ・リーグはDH制がなく、ナ主催試合では代打出場しかなかった点が響いた。また。ア・リーグ優勝決定戦では、ホームランなし、2打点だったことも影響しただろう。

松井さんの09年のポストシーズンは15試合に出場、打率.349、4本塁打、13打点、5得点。結果、15試合出場し、打率.365、6本塁打、18打点、15得点だったチームメートのアレックス・ロドリゲスがベーブ・ルース賞を獲得した。

上原さんは13年のPS、13試合に登板計7セーブを挙げ、防御率0.66だったが、同賞は16試合に出場し打率.352、5本塁打、13打点、12得点のデイビッド・オルティスに譲った。

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大谷はベーブ・ルース賞を獲得できるのか

ご存知の通り大谷はMLBで6シーズンを送っておきながら、PSとはまったく無縁。受賞チャンスのカケラさえなかったわけだがドジャースに移った2024年シーズン、50-50達成の日と同じ日に自身初のPS進出も決めた。

MLBではPSにおいて、ディビジョン優勝決定戦、リーグ優勝決定戦、そしてワールドシリーズが待ち受けている。大谷は、こうした戦いを潜り抜け、ドジャースを世界一チームへと牽引することができるのか。大車輪の活躍で、これまで常に比較の対象となってきたベーブ・ルースの名を冠した賞の獲得の夢を見せてくれるのか、期待したい。

ちなみに03年以降、同賞を獲得したのは投手が11人と多く、DHは前述のオルティスさんひとりという不利な統計がある。大谷はこのジンクスをも打ち砕くことができるだろうか。

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松永裕司 Yuji Matsunaga

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Forbes Official Columnist。MLB日本語公式サイト担当/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。