全日本総合バスケットボール選手権の女子は1月8日、Wリーグ8連覇中で、今季も22勝0敗という無敵の強さを誇るJX-ENEOSサンフラワーズが4連覇を達成し、通算で21度目の皇后杯獲得となった。
なかでも渡嘉敷来夢の活躍は別次元だった。2015年からWNBAシアトル・ストームでもプレイする日本のエースは、大会1位となる平均18.8得点、10.3リバウンドを記録し、7年連続で大会ベスト5に選出された。
WNBAでは周りに長身選手が多くウィングでプレイすることの多い渡嘉敷だが、JXではインサイドでプレイすることが多い。プレイするリーグでスタイルを変えねばならない大変さは、常人どころかその他大勢の選手にすらわからないところだが、その置かれた環境に文句を言うこともなく、高い目標を持ってプレイに取り組んでいる。
決勝の富士通レッドウェーブ戦では34得点、18リバウンドのパフォーマンスで91-67の圧勝を呼び込む要因となった。しかし、フィールドゴール成功率が50%「しか」なく、「50点は取れた」と悔やんだ。
WNBA2年目の昨季は、ドラフト1位指名で新たに加わったブリアナ・スチュワートの活躍もあってプレイタイム(平均20.6分→13.0分)や得点(同8.2点→5.3点)など数字を落とした。よりレベルの高いWNBAでこれからやっていくためにも、また東京オリンピックでのメダル獲得へ向けて、日本代表チームのエースとして牽引するためにも、日本国内ではコートを支配するような存在でなければならない――そういう意識があるからこそ満足がいかなかったのだろう。
渡嘉敷だけに限ったことではなくJX全体に言えることだが、これだけ毎年のようにタイトルを総ざらいしても現状に満足しない姿勢が感じられる。今季、アシスタントからヘッドコーチに昇格したトム・ホーバス(渡嘉敷のWNBA行きにも助力)は、どれだけ相手に点差をつけるかは関係なく、常に自分たちのゲームの実行を選手に厳しく求める。渡嘉敷も同指揮官の指導について「めっちゃ細かいですよ」と苦笑するほどだ。
しかしそういった環境でプレイすることが、アメリカや五輪といった大舞台での活躍も求められる彼女の糧になっていることは間違いないだろう。
一方で、日本ではその強さから常に「倒すべき存在」であるJXでプレイすることで受ける精神的重圧はいかほどのものかとも思う。
勝ち続けねばならないというプレッシャーは感じていないのか――。準決勝後のミックスゾーンでそう聞いた。
「いやあ」と渡嘉敷が口を開こうとすると、準決勝の対戦相手・トヨタ自動車アンテロープスの司令塔で以前はJXで渡嘉敷のチームメイトだった大神雄子が「向こう(WNBA)でガンガン鍛えられてるから」と、25歳の後輩の気持ちを代弁する。
自身もWNBA(2008年にフェニックス・マーキュリーでプレイ)を経験しているからこそ、渡嘉敷の気持ちや成長ぶりがわかる。JXでの重圧も、WNBAで精神的にも鍛えられてきた渡嘉敷にとっては十分コントロールできるそれでしかない。
国内では敵なしの渡嘉敷。ともすれば日本の環境では成長曲線が緩やかになっていただろうが、WNBAという厳しい場所に身を置くことで、その曲線の角度は跳ね上がった。
文:永塚和志(ジャパンタイムズ) Twitter: @kaznagatsuka