国枝慎吾が引退会見「最高のテニス人生を送れた」 車いすテニス世界王者10度、現行四大大会優勝50回のレジェンド

及川卓磨 Takuma Oikawa

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ウィンブルドン優勝後『あ、これで引退だな』

2月7日、ユニクロ有明本部(東京都江東区)で車いすテニス男子の国枝慎吾が引退会見を開いた。ユニクロのグローバルブランドアンバサダーを務める国枝は、1月22日、自身のツイッターで引退を宣言。16日後のこの日、ユニクロの柳井正 代表取締役会長兼社長とともに記者会見の壇上に上がり、メディアからの質疑に応じた。

国枝は、会見の冒頭で「このたびは本当に多くの方々にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」と切り出し、自らの引退について改めて以下のように説明した。

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「1月22日付けで引退をすることになりました。東京パラリンピックが終わってから、ずっと僕自身引退について考えておりまして、昨年はシングルスのグランドスラムのタイトルを4つのうち3つ獲得して、すごく調子も良かった。最後に残された(2022年7月の)ウィンブルドンの優勝が決まったあとに、チームとみんなで抱き合っていたんですけど、そのときに実はあの芝生のコートの上で一番最初に出た言葉が『あ、これで引退だな』というものでした」

「そのあとに全米オープンがあったので、そのままのモチベーションでいけたんですけど、やっぱり全米が終わってから、僕自身ももう十分やりきったなというのが、ふとした瞬間に口癖のように出てしまった。全米オープンのあとは、このままテニスをしていていいのかという気持ちになってしまって、これはそういうタイミングなのかなと思って(引退を)決意しました」

国枝が1月22日に投稿したツイート:

「最高のテニス人生を送れた」と言いきって

引退の決断に至る経緯を説明した国枝は続いてスポンサー、家族、コーチ陣などに謝意を述べると、最後にファンに向けて「最高のテニス人生を送れた」ことを感謝した。

「プロ転向してから長い間、所属スポンサーであるユニクロをはじめ、今日も多くのスポンサーの方々に同席していただいていますが、本当にありがとうございました。日頃から一番身近で支えてくれている妻、テニスをするきっかけを与えてくれた母、天国で見守ってくれている父、今まで関わってくれたコーチ、トレーナー、マネージャー、車いすテニスの先輩方や関係者の皆様。本当に僕自身を支えてくださってありがとうございました」

「最後になりましたが、応援してくださっているファンの皆様には、最高のテニス人生を送れたと言いきって、締めの挨拶とさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました」

「世界一のグローバルアンバサダー」(柳井氏)

国枝の挨拶に先立って会見の口火を切った柳井氏は、長年サポートしてきた国枝について、「世界一のグローバルアンバサダー」と最大級の賛辞を送り、新たな人生の始まりを祝福した。

「引退おめでとうございます。少しだけ寂しくなるんですけど、プロのアスリートとしてやるべきことはすべてできました。しかもこの絶妙なタイミングで引退宣言。素晴らしいです。新しい国枝慎吾の誕生という意味で、今日はめでたい日であります」

「2009年4月、日本の車いすテニスとして初めてプロに転向されたその直後、僕は『大丈夫かな』『車いすテニスがプロのスポーツになるかな』(と思っていた)。でも、立派なプロのスポーツになりました」

柳井氏は、国枝は「地頭がいい」とし、「人間として尊敬できる」とその人柄を絶賛。これからも応援し続けることを宣言した。

「(国枝は)非の打ち所のないグローバルアンバサダー、僕は世界一のグローバルアンバサダーだと思っています。素晴らしい人格と生活態度、あらゆるタイトルを獲り、世界中の人に温かい声援を受けて、そして、本人を前にして言うのもなんですが、地頭の良さ。これは、超一流の選手というのは地頭がいいんです。国枝選手はその中でも飛び抜けて地頭がいい。ロジャー・フェデラー選手が我々のグローバルアンバサダーになってくれたのも、国枝選手がいたおかげです」

「今までは助走。これからが本番」(柳井氏)

「国枝選手の強みですけど、勝つことに徹底的にこだわる。絶対にやる、がむしゃらさ。明るさ。肉体とか精神ではなくて、一人の人間として尊敬できる(そういう人間)。これからが人生の本番です。今後も最大限応援していきたいと思っています」

「今までは助走。過去のことは全部忘れてください。必要ないんです過去は。これからが本番、今日がスタート。一緒に日本を、そして世界の中の日本をより良くしていきましょう。日本は残念ながら今、閉塞状態です。本当にもうお金が全然ありません。借金だけは莫大にある。それなのにバンバンお金を配っている。インフラは古くなって(この先)使えないかもしれない。そんななかで若い人が将来に希望を持ってやっていけるように、ロールモデルとして、これからの国枝くんに僕は期待しています。がんばってください」

現行四大大会優勝50回、世界王者10回、パラ単金3回…政府は国民栄誉賞授与も検討

9歳のときに脊髄腫瘍による下半身麻痺のため車いす生活となった国枝は、11歳のときに車いすテニスを始めた。2004年のアテネ・パラリンピックで斎田悟司と組んだダブルスで金メダルを獲得すると、その後、2008年北京、2012年ロンドン、2020年東京パラリンピックのシングルスで金メダルを獲得し、北京と2016年のリオデジャネイロではダブルスで銅メダルを獲得した。

また、現行グランドスラムと呼ばれる車いすテニスの現四大大会、全豪、全仏、ウィンブルドン、全米では、シングルス28回、ダブルス22回と、史上最多となる合計50回の優勝を飾っている(※2008年まで採用されていた車いすテニス独自の四大大会である、全豪、ジャパンオープン、ブリティッシュオープン/全英オープン、USTA全米車いすテニス選手権における旧グランドスラムでの優勝を合わせるとシングルス32回、ダブルス24回の合計56回の優勝)。

年間グランドスラム(年間の四大大会完全制覇)も5度達成(2007、2009、2010、2014、2015年。2007年は旧四大大会。ウインブルドンのシングルス導入は2016年から)し、さらに、10度の世界王者(年間最終世界ランキング1位。2007~2010、2013~2015、2018、2021、2022年。2020年も1位だったがコロナ禍のためITFが世界王者を認定せず)にも輝いた国枝は、車いすテニス史上最高の選手のままその偉大なキャリアに幕を閉じた。

2月3日には、日本政府が国民栄誉賞の授与を検討していることが明らかになり、7日の引退会見で国枝自身もそれを認めている。

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及川卓磨 Takuma Oikawa

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スポーティングニュース日本版編集長。千葉県生まれ、茨城県育ち。2000年日本大学卒。大学在学時を含めて丸14年間バスケットボール専門誌の編集者として企画立案・取材・執筆・編集・誌面制作・マルチメディア運営等に携わる。2013年秋にNBA日本公式ウェブサイト『NBA Japan』編集長就任。サイトやNBA日本公式ソーシャルメディアの新規開設に携わると同時にメディア運営を主導。2022年4月より現職。主な競技経験はバスケットボール、野球、サッカー。