全豪オープン4回戦、錦織圭に敗れたバブロ・カレノブスタは、審判に暴言を吐きながらテニスバッグを放り投げ、怒りあらわにコートを去った。これに会場のファンはブーイング。27歳のスペイン人にとっては、なんとも後味の悪い大会となってしまった。
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カレノブスタの怒りは、ファイナルセットのタイブレーク中に下された判定に向けられたものだったのは間違いない。とはいえ、普段はマナーも良く穏やかな彼が、ここまで怒るのは珍しい。
一体、何が彼をキレさせたのだろうか?映像とともにプレーを振り返り、その理由を検証する。
チャレンジが認められた不思議
まずは問題の判定を検証する。ファイナルセットのタイブレーク、8-5でカレノブスタのリードで迎えたシーンだった。順を追って事実関係を整理したい。
- カレノブスタのショットがネットイン
- 錦織が打ち返すとほぼ同時に線審が「アウト」をコールし、ポイントは錦織へ
- カレノブスタは抗議し、チャレンジを要求
- ボールはライン上に落ちており、インだったと判明
- コールはプレーに影響しなかったとして、ポイントは錦織のまま変わらず
【カレノブスタの主張】
動画を見てわかるように、カレノブスタは主審に向かって、「彼(錦織)がボールを打つ前に線審がアウトをコールした」と言っている。つまり、アウトのコールがなければ、ボールを返すことができたかもしれないと主張していたのだ。
【主審の判定】
主審は、どちらにしてもカレノブスタがボールを触れることはできなかったと判断し、ポイントのやり直しを認めなかった。たしかに、錦織が打つ瞬間、カレノブスタは画面右側に走っており、アウトがコールされなかったとしても、逆側に放たれたボールには届かなかったかもしれない。
上記の2つは、どちらも「かもしれない」という憶測の上で成り立つ話であり、アウトのコールがなかった場合、実際にどうなっていたかは誰にもわからない。このシーンで唯一はっきりしているのは、チャレンジによって立証された、“ボールはインだった”という事実だ。
しかし、カレノブスタが試合後に、「もしあれが錦織のポイントなんだと決まっていたなら、なぜチャレンジが認められたんだ?」と話したように、いずれにしても錦織のポイントだったのであれば、ボールはインでもアウトでも関係なかった。つまり、チャレンジは必要なかったのだ。
チャレンジによって、「アウトだったから錦織のポイント」が「コールがプレーに影響がなかったから錦織のポイント」に変わっただけで、これはカレノブスタにとっては何の意味もないことだった。
カレノブスタが我を忘れた3つの要因
このプレーで集中力が切れたカレノブスタは、ここから錦織に4連続ポイントを許して敗戦した。
今大会、錦織との対戦の前に、シングルス3試合とダブルス3試合を戦っており、連日のプレーで疲労も溜まっていた。そんな中で迎えたこの試合で0-2から追いつかれ、体力的にも気力的にも限界に近づいていたに違いない。
ファイナルセットでは、最後の力を振り絞ってタイブレークまで持ち込み、勝利まであと2ポイントというところまで迫った。そこで不可解な判定が下され、極限状態でプレーしていたカレノブスタは全ての限界を迎えた。流れは完全に錦織に傾き、ベスト8を目前にして大会を去ることとなった。
カレノブスタは決して短気な選手ではないが、今回は状況が違いすぎた。このような判定による"いざこざ"が、第1セットや第2セットで起きていたなら、ここまで激昂することはなかっただろう。現地の実況はこの行動を「これは本来の彼の性格ではありません」と説明し、本人も試合後に「あれ(怒った姿)は僕ではない」と反省した。
普段はマナーを守る冷静なテニスプレーヤーでも、5時間5分も走り続け、極限状態で集中力を保ち、それでも結果に恵まれなかったとなると、一瞬だけ頭に血が上っても無理はない。ましてや、初めての全豪ベスト8が、あと少しで手の届くところまで見えていたのだから、なおさらだ。
極限状態と夢の実現、そしてどうにもやりきれない判定という3つの要素が重なってしまったからこそ、カレノブスタは我を忘れてしまったのだ。
状況を考慮すれば、あの一場面だけを切り取ってカレノブスタが批判されるのはややアンフェアにすら思える。確かにあの一場面だけを切り取ればスポーツマンシップに反する行動だった。しかし、背景には3つもの、それだけで我を忘れておかしくない要因があったのだ。
何より、この5時間5分におよぶ壮絶な試合の最大の注目点があの場面というのは、テニス界にとって大きな損失ではないか。試合後にカレノブスタが自身のツイッターで記したように、「パブロ・カレノブスタという選手は、最後の5秒間だけではなく、5時間もコートにいた選手なんだ」。
カレノブスタと錦織が繰り広げた死闘は多くのファンの心を打ったはずだ。今大会のベストモーメントの一つに数えられるだろうし、全豪オープンの歴史に残る素晴らしい試合だった。
10年後に2019年全豪オープンのカレノブスタ対錦織が語られるとき、思い出されるのは二人のクオリティであり、熱量であり、必死さのはずだ。判定にまつわる一連の出来事は、あくまでも試合の“単なる一場面”に過ぎない。
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