大坂なおみは、全仏オープン開幕前、試合後の記者会見について「精神衛生上のケア」を理由に拒否を表明。パトリチア・マリア・ツィグ(ルーマニア)との1回戦勝利後の会見をボイコットしたことで、主催者は1万5000ドル(約165万円)を科すと発表していた。
この会見拒否問題はテニス業界を超えて大きな議論が起こった。業界内からはノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダルやアシュリー・バーティらトップランカーたちが「会見も自分たちの仕事の一部」という論調で大坂の言動を非難。フランステニス連盟のジル・モレトン会長は「絶対的な誤りだ」と強く批判した。4大大会の主催者も今後の4大大会出場停止の可能性も言及していた。
そうした中、6月1日、大坂は会見拒否やその後のTwitterを通して全仏2回戦の棄権と、2018年の全米オープン以来、うつ病に苦しんでいることを告白した。
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) May 31, 2021
2018年の全米オープンといえば、当時20歳の大坂が元世界女王セリーナ・ウィリアムズを制して自身初の4大大会制覇を成し遂げた。この決勝では、セリーナがジャッジを巡り主審と言い争い、ラケットを破壊してペナルティが科せられたことで大荒れ。ところがニューヨークの観客はセリーナを支持。表彰式では大会運営サイドにブーイングが浴びせられ、祝福の場面とは程遠い状況に大坂は涙をこぼした。
セリーナ自身が観客に理解を求め、大坂を慰めたことでその場を収めた。だが、大坂はその後の会見でセリーナの言動について見解を求められるなど、答えに窮する場面もあった。以降、試合直後コートでのインタビューを受けたとしても、会見を拒否することや、途中で泣き出して退出したこともある。興奮状態にある試合直後と、一旦時間をおいた会見では精神面でのシチュエーションが異なるだろう。試合終了後30分以内というルールがあるため、さらに精神的に落ち着きを得られるだけの時間を置くべきという声もある。
テニス外でもBLMや政治的な発言に賛否両論が起き、大坂なおみという存在が、いちテニスプレーヤーの枠に収まらない形になったことはある意味、諸刃の剣だった。苦手なクレーコートでの4大大会ということもあり、普段以上にナーバスな精神状態に追い込まれていた可能性もある。4大大会からの排除の動きが出てくると、意味深なSNS投稿でフェードアウトを示唆していた。
anger is a lack of understanding. change makes people uncomfortable.
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) May 30, 2021
こうした経緯を経て発信された大坂のTwitterでの英語の長文声明には、自身の精神面の脆さと同時に、記者会見の古いルールや負けた選手に対する精神面の考慮を訴えたかったという意図が伺えた。会見拒否の表明について「そのメッセージ(や真意)が伝わっていない」と指摘するビクトリア・アザレンカのような声もあったため、詳しい意図や告白が綴られたのだろう。
ただ、今回の全仏棄権・うつ病告白を受け、各界では擁護の声に変わりつつあるようだ。
It’s incredibly brave that Naomi Osaka has revealed her truth about her struggle with depression.
— Billie Jean King (@BillieJeanKing) May 31, 2021
Right now, the important thing is that we give her the space and time she needs.
We wish her well.
また、当初理解を示しつつも困惑していた同じくテニス界の重鎮ビリー・ジーン・キングは、「うつ病との戦いについて真実を明らかにしたことは信じがたいほど勇敢なこと。今、重要なのは彼女にとって必要な場所と時間を与えること。彼女の快復を祈るよ」と、大坂をおもんぱかった。女子テニスのレジェンド、マルチナ・ナブラチロワ氏は当初、会見では気持ちを割り切ることを勧めていたが、大坂のうつ病告白後、「アスリートは体のケアについて教わっても、精神面や感情面は軽視されがちですね。これは記者会見以前の問題です」と翻意するツイートをしたため、若干炎上している。
You shouldnt ever have to make a decison like this-but so damn impressive taking the high road when the powers that be dont protect their own. major respect @naomiosaka https://t.co/OcRd95MqCn
— Stephen Curry (@StephenCurry30) May 31, 2021
業界外からも多くの反応があったが、NBAのスーパースターのひとりステフィン・カリーは、こんな決断を迫られるべきではないとしつつ、「権力者たちが守ってくれない中では正攻法といえるだろう」と支持している。
そして2018年の全米オープン決勝の相手であるセリーナ・ウィリアムズは、当初から大坂の意思を尊重。告白を受け「ハグしたい」と思いやった。「私自身もそういう立場にいた。人はそれぞれ異なります。物事の扱いも人それぞれです」「彼女が望むように、できると思う最善の方法をとってほしい。私が言えるのはそれだけです。彼女は最善を尽くしているわ」と労った。
大坂を激しく非難したフランステニス協会モレット会長も「棄権したのは残念。快復して来年のトーナメントに戻ってくることを楽しみにしている」と文書で伝えた。大坂の会見拒否を非難したモレット氏本人はこの件で会見を行っていない。
直近の4大大会は6月28日から7月11日にウィンブルドン選手権が行われるが、大坂は出場について明かしていない。また、テニス競技は7月24日から8月1日に予定される東京五輪についても触れていない。