テニス男子シングルス世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、新型コロナウイルスワクチン接種義務化の可能性がある全豪オープン関連して、「出場したいが、ワクチン接種強制には応じない」という態度を明らかにした。それに対して開催地の首長は「ウイルスにはランキングもグランドスラム勝利数も無意味」と痛烈なメッセージを送った。
全豪OP開催地となるメルボルンを擁するビクトリア州は、州内のプロスポーツ選手に対し、新型コロナウイルスのワクチン接種を義務化したが、州外・海外籍の選手に対しても同様の扱いを検討。現時点で確定とはなっていないものの、州首相のダニエル・アンドリュース氏は「ワクチン未接種の選手がビザを取得できる可能性は低い」と主張している。
以前ワクチン接種拒否を公式に表明していることから、全豪OP出場危機にあるとされるジョコビッチだが、メディアに対して予防接種の状況を明らかにすることを明確に拒否したと地元セルビアの日刊紙『Blic』が伝えた。
「ワクチン接種の有無について明かすことはないよ。これはプライベートな問題であり、不適切な質問だ。最近、人々(記者)が好き勝手に質問をしたり、誰かを判断したりする行為が行き過ぎていると思う。『はい、いいえ、私はそれについて考えています』と話せば、メディアはその言葉を利用するだろう?」
ワクチン接種の有無はあくまで私的な個人情報であり、そうしたことを根掘り葉掘り聞き、勝手に論議することはプライベートの侵害だと話し、立ち行かない現状のイラ立ちの矛先をメディア批判に結びつけた。ただ、本音としては当然「出たい」ようだ。
「(ワクチン接種義務化濃厚の)現状のままでは、メルボルンに行くかどうかはまだわからない。もちろん行きたいよ。全豪OPは私の最も得意とするグランドスラムトーナメントだからね」
出場はしたいが、ワクチン接種を強制されるのは御免だ、というのがジョコビッチの所見だ。
ワクチン未接種でも入国できるのではないかという希望的憶測は今もあるようだが、ジョコビッチのそうした発言を受けてか、受け入れる側のビクトリア州政府は"特例は許さない"という強硬姿勢を打ち出す。アンドリュース州首相の記者会見での強烈なコメントを英スポーツメディア『Sky Sport』が伝えた。
「(メディア)あなた方が名指しした選手(ジョコビッチ)や他のテニス選手たちを特別視しないでください。ここぞとゴルファーやF1ドライバーがここ(ビクトリア州)に来るためのビザを取得しようとするでしょうから」
さらにはジョコビッチ当人に直接呼びかける言葉が続いた。
「(コロナウイルスに対して)あなたのテニスの世界ランキング、あなたのグランドスラム勝利数なんて無意味です。あなたは自分自身と第3者を(ウイルスから)安全に守るため、ワクチン接種を受ける必要があります」
ビクトリア州としては新型コロナウイルスとの戦いにおいて、スーパースターであろうが"特例はない"という断固とした表明だ。
正式な決定をくだしていないオーストラリア連邦政府やオーストラリアテニス協会の判断で、今後もしビザが取得できたとしても、今年の全豪OPのようにホテルでの不自由な数週間の隔離期間を強いられることになるとされている。ただ、このケースにおいてもジョコビッチは「(今年と対応内容が同じであれば)制限が多すぎる」と話し、選手の立場として緩和を求めている。
ジョコビッチはこうした発言を切り取って対立構造をつくられることを嫌っているが、テニス界のみならず、世界のスポーツ業界全体がワクチン接種前提の体制になりつつある。NBAではニューヨーク州がワクチン接種を義務化したことから、接種を拒否するカイリー・アービング(米国)がブルックリン・ネッツのホームゲーム出場不可となり、結果としてチームから外された。
ワクチン接種をするかしないかは個人裁量であり、それが差別につながるようなことは許されるべきではないが、ウイルスにはその個人の意志に関係なく第3者を巻き込む危険性がある以上、こうした展開になるのは否めない。
豪連邦政府は、国民および永住権所持者に対する(往復を旨とする)海外旅行を11月1日から再開すると発表しているものの、他のビザ保有者への許可は未定だという。それでもジョコビッチは、ワクチン未接種での全豪OP出場の可能性を探っている。
「オーストラリアテニス協会と連絡を取っている私のマネージャーは、ワクチン接種を受けた人と受けていない人の両方の状態を改善するため働きかけている」
2022年の1月までに未接種者に道が開かれるのか、それともジョコビッチにとって最悪のシナリオとなるのか、しばらく情勢を見守る必要がありそうだ。
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