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VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は、2019年に導入されたプレミアリーグをはじめ、ヨーロッパにおいて過去5年間で制度化が進んできた。
その間、VARは多くの審判のミスを修正しようとしてきたが、中には論争を巻き起こしたものもある。VARは明らかなミスを撲滅するのに役立つ反面、かなりの複雑さがあり、判定が覆る場合は余計な恥をかくことにもなるのだ。
そんな中、あるプレミアリーグのクラブが来季からのVAR廃止を提案し、話題を呼んでいる。この提案に関しては6月の年次総会で投票が行われる予定だ。
スポーティングニュースは、VAR廃止の可能性を分析するとともに、この提案が出された背景やVARに関して近い将来起こる変化を解説する。
プレミアリーグは2024-2025シーズンからVARを廃止するのか?
現時点では、プレミアリーグ内でのVAR廃止は単なる提案であり、実現されるにはリーグに加盟する20クラブの投票を通過しなければならない。
この提案は6月6日に行われる年次総会にて投票が行われる予定だ。投票を通過するためには3分の2以上の賛成が必要であり、これは14クラブ以上の賛成票が必要であることを意味している。
ファンは断固としてVARに反対のようだが、現時点ではこの提案が可決される可能性は極めて低いだろう。ただ、VARの廃止とまではいかなくとも、今後クラブが変更や改善を推し進めやすくなるようなVARに関する議論の原動力となる可能性はある。この提案を出したクラブ自身も、「その将来について建設的かつ批判的な議論が必要だ」と述べている。
プレミアリーグは2019年以降、研究やテスト、設置、維持、トレーニング、関連の雇用などVARに対して多額の投資を行ってきた。その全てを5年で諦めるのはあまりに極端な手段かもしれない。
プレミアリーグのスポークスパーソンは『アスレティック』に「クラブは株主総会で提案を出す権利があり、我々はVARの使用に関する懸念や問題を認識している」と語った。
「しかしリーグはVARの使用を全面的に支持しており、PGMOL(プロ審判協会)と共に、サッカーとそのファンたちのために継続的な改善に取り組んでいく」
VAR廃止を提案したクラブとは?
プレミアリーグの年次総会で投票が行われるためには、それは特定のクラブによる提案でなければならない。VAR廃止を提案したクラブは、ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(ウルブス)だ。彼らは2023-2024シーズンにおいて、多くの物議を醸すVAR判定を受けた。
クラブの声明によると、彼らはVARの不具合について特定の個人や団体に非があるとは考えていないものの、この件に関して話し合いを求めているようだ。
「非難するつもりはない。私たちは皆、サッカー界にとって最善の結果を求めているだけであり、全ての関係者がVARを成功に導こうと努力してきた。しかし、VAR導入から5年が経過した今、その将来について建設的かつ批判的な議論が必要だ。我々としては、わずかな精度の向上のために支払う代償は試合に臨む態度に相反するものであり、その結果2024-2025シーズンからこれを廃止するべきだと考える」
『ESPN』の専門家によると、4月初旬の時点でウルブスは3度のVARエラーの犠牲となっており、これはリバプールとノッティンガム・フォレストに次いでプレミアリーグ3番目に多い。またその善し悪しはともかく、VARによって判定が覆ることがなかった唯一のクラブであった。さらに詳しく見てみると、ここ5年間においてVARが絡んだゴール判定のスコアは-17であり、これはリーグ最低の数字である。
2024-2025シーズンから導入予定の半自動オフサイド技術
次のシーズンに向けて確定している1つの変更点は、半自動オフサイド技術だ。もちろんVARの継続が前提ではあるが、これは2024-2025シーズンからプレミアリーグのスタジアムで導入される。
現在のところ、VAR審判団はぎりぎりのオフサイドを確認するために、スクリーンに手動で線を引かなければならないが、これは長時間がかかる上エラーの余地が大きい。『スポーティングニュース』は2023年11月にブンデスリーガのVARスタジオを見学した際、これがいかに大変で何段階もの過程を要するのかを目の当たりにした。
導入に莫大な費用がかかるため世界的にはまだ普及していないものの、この新技術は判定の精度と要する時間の両方を大幅に改善する。手動で線を引く代わりにカメラのシステムがAI技術を使って判定を下し、審判はその後リスタートの位置を定めるだけでいいのだ。
オフサイドの判定とそれに要する時間はファンのストレスの大きな一因となっており、この改善はVARの成功率を向上させるだけでなく、現在VARがサッカー界全体に与えている厄介な評判を一掃することにも役立つだろう。
VARは機能しているのか? 数字が示す有効性
VARがサッカー全体にもたらす影響については議論が残るが、審判の意思決定を向上させるという点においては有効であることを数字が示している。
2018年のFIFAの報告によると、VARなしでの審判の成功率は95%だったのに対し、VARがある場合この数字は99.3%まで跳ね上がるという。
「VARが完璧でないことは前々から言っていた通りだ。中には間違いもあるかもしれない。しかし、99.3%という数字が完璧に近いことには同意してもらえると思う」FIFA審判委員会のピエルルイジ・コッリーナ委員長はそう述べた。
『ESPN』は2月初旬、昨シーズンの25よりは減っているものの、20のVARエラーがプレミアリーグ内で起こっていたことを報道した。しかし、これらのエラーの内訳を詳しく見てみると、改善が行われていることが分かる。
VARエラーの大半(20件中17件)は、リプレー検証が介入すべき判定を見逃したことが原因であり、これらはVARがなかったとしても起こったであろう。一方、VARによる誤審は2つのみで、残りの1つは主審が判定を覆さなかったことによるものであった。
しかしこの改善に伴って、審判がスピードよりも正確さを重視するようになったため、判定までの時間も劇的に長くなった。プレミアリーグはこの事実を認めており、正確さを犠牲にすることなく意思決定のスピードを上げることが今後のカギとなる。
原文:Will Premier League scrap VAR? EPL club propose vote to get rid of video referees for 2024/25 season
翻訳:山下晴輝(スポーティングニュース日本版)
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