プレミアリーグの『収益性と持続可能性に関する規則』(PSR)とは?

Dom Farrell

山下晴輝 Haruki Yamashita

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2023年11月、欧州サッカーのプレミアリーグが『収益性と持続可能性に関する規則』(Profit and Sustainability Rules。以下PSR)に違反したとして加盟クラブのエバートンを告発し、独立委員会が同クラブに勝ち点10の剥奪処分を下したことは、リーグ全体に衝撃を与えた。

エバートンは抗議によって処分を軽減できたとはいえ、この件を機に予想外の歯がゆさが明らかになった規則を遵守することに躍起になっているクラブもあるようだ。

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「この件はプレミアリーグ内で、当規則が現実的なものである、と多くの人々の注目度を高めただろう」

ニューカッスルのCEOダレン・イールズは2024年1月、クラブの直近の決算についての説明会でそう述べた。

1月15日、プレミアリーグは「エバートンとノッティンガム・フォレストは、それぞれリーグのPSRに違反したことを認めた。これは、2022-2023シーズンまでの評価期間において、許容限度を上回る損失を計上したことに伴う結果である。リーグの規則に則って、現在これらの件は司法委員会の委員長に付託されており、委員長は適切な処分を決定するため別の委員会を指名する」との声明を発表。そして、両クラブは独立委員会によるヒアリングの結果、勝ち点剥奪の処分を受けた。

では、この規則はどのように機能し、果たして公平であるのか? また別の事例、とりわけリーグのトップに君臨するマンチェスター・シティにかけられた115件の疑惑とどのように関係しているのか?

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プレミアリーグの『収益性と持続可能性に関する規則』(PSR)とは?

プレミアリーグの『収益性と持続可能性に関する規則』(PSR)は、各クラブが特定期間内で計上できる損失額を規定する。また、それぞれの収入と支出のバランスを取るため、移籍金などにいくら使えるかも決定する。

類似点はあるものの、この規則はチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに出場するチームに適用されるUEFA(欧州サッカー連盟)の財政健全化を目指す規則『ファイナンシャル・フェア・プレー』(Financial Fair Play。以下FFP)とは異なる。

最も簡潔に言えば、PSRは、各クラブ3シーズンを通して1億500万ポンド(約200億円。1ポンド=190円換算、以下同)、1シーズンで3500万ポンド(約67億円)までの損失を許容するというものだ。

これは、融資の代わりに株式を買い増すなど、9000万ポンド(約171億円)をオーナーからの確実な資金調達で賄うという条件付きで、このような保証がない場合の3年間の損失許容額は1500万ポンド(約29億円)となる。

これらの計算には、ユース育成やインフラ事業など免除対象の支出は含まれない。さらに、2019-2020シーズンと2020-2021シーズンはコロナウイルスの流行に大きく影響されたため、プレミアリーグはパンデミックに起因する損失を帳消しにする措置をとった。

もし安定した資金を持たないクラブが1500万ポンドの損失額を超えた場合、財政状態を建て直すため、そのクラブはリーグによって予算を限られ選手の移籍も制限される。

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しかし、1億500万ポンドという数字に固執する理由は、これがほとんどのクラブに適用される金額であり、大きな一線であるからだ。この額を超えると、エバートンのように独立委員会に付託され、より厳しい処分を受けることになる。

プレミアリーグへの抗議の中でエバートンはPSRの基準額を超えたことを認めたが、新スタジアム『ブラムリー・ムーア・ドック』建設のため借り入れたローンの利子、パンデミックによる影響、そして2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴い当時のオーナーであったファラド・モシリの盟友でオリガルヒ(ロシアの新興財閥)のアリシェル・ウスマノフが制裁を受けたことによるスポンサー収入の減少、などを理由として挙げている。

結局エバートンはこれらの主張を十分に立証することができず、2021-2022シーズンまでの3年間の損失が1億2450万ポンド(約237億円)であり、PSRの基準額を1950万ポンド(約37億円)上回っているとして、独立委員会はプレミアリーグの主張を支持。これに対しエバートンは勝ち点10の剥奪を不服とし正式な上訴を申し立て、結果勝ち点6の剥奪に軽減された。

それからエバートンは3月31日に財務状況を公開し、2022-2023シーズンの赤字額が前年度の約2倍となる8910万ポンド(約169億円)に上ることを明らかにした。その結果、その後の告発に至り、さらなる勝ち点2の剥奪処分が下されたのだ。

記録によると、当クラブの負債は3億3060万ポンド(約628億円)まで急増し、6シーズン連続の赤字となった。なおエバートンは、この膨らんだ負債は2025年に完成予定の新スタジアム『ブラムリー・ムーア・ドック』に関する投資によるものだと説明している。

ノッティンガム・フォレストは3月18日、クラブを降格圏内まで引き下げる勝ち点4剥奪の処分を受けた。これに関して当クラブは、ブレナン・ジョンソンを当初の交渉価格より高値でトッテナムに売却するため、6月の財務報告期限後まで移籍を先延ばししたことが原因だと主張。また、3年間の評価期間のうち2年間はチャンピオンシップ(2部リーグ)に所属していたため、損失許容額が1億500万ポンドではなく6100万ポンド(約116億円)であるという点も他のクラブに比べて不利な状況だと述べている。

1週間後、ノッティンガム・フォレストはこの処分に対して上訴を開始した。

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規定違反で過去処罰を受けたクラブは?

1月15日、エバートンとノッティンガム・フォレストがPSRに違反した疑いがあることが確認された。その後独立委員会によるヒアリングを受け、両クラブには勝ち点剥奪の処分が下された。エバートンは上訴によって10ポイントから6ポイントまで処罰を軽減し、ノッティンガム・フォレストは4ポイントの剥奪に異議を唱えている。

ノッティンガム・フォレストは昨シーズンにプレミアリーグに復帰したばかりのため、損失許容額は6100万ポンドと低い金額になっている。

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オーナーのエバンゲロス・マリナキスの下、フォレストは約2億5000万ポンド(約475億円)を費やしてプレミアリーグ復帰初年度だけで30人もの選手を獲得するなど、昇格以来多額の資金を投じてきた。

『ジ・アスレティック』や『ガーディアン』が詳しく報じているように、ノッティンガム・フォレストは会計期間終了後ウェールズ代表FWブレナン・ジョンソンを4750万ポンド(約90億円)でトッテナムに売却しており、それを処分回避の材料として提示した。この理論の緩やかな概略は、もしフォレストがジョンソンをより安い金額でもっと早い時期に売却していればPSRを遵守できていたというところだが、独立委員会はこれを認めなかったようだ。

評価期間が3年間であるということは、前回処分を受けたエバートンは常に危ない立場に置かれる可能性が高いことを意味する。プレミアリーグのより強固な財務規制がもたらす可能性がある訴訟という点では、エバートンが最終日に勝ち点2差で降格を免れた2022-2023シーズンが評価期間の最終年度という点が非常に重要かもしれない。

4月8日、エバートンはさらなる勝ち点2の剥奪処分を受けた。これに際しプレミアリーグは、「2022-2023シーズンまでの評価期間におけるPSR違反に伴い、独立委員会はエバートンに勝ち点2の剥奪処分を下した。同クラブが1660万ポンド(約31億円)の違反を認めたことに関して、2度にわたる以前の告発の影響も含め、独立委員会は先月3日以上にわたってさまざまな潜在的な処分の軽減要因について事情を聴取した。その結果、独立委員会は適切な処分を勝ち点2の剥奪だと決定し、即時発効した」との声明を発表。また、「独立委員会は、PSRの違反は重大であり、スポーツ的な制裁を正当化、現実的には必要とすることを再確認した」とも綴っている。

なお、この処分によってエバートンは16位まで順位を落とし、降格圏内のわずか2ポイント上という苦しい状況に陥っている。

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マンチェスター・シティの規定違反について

ジョーダン・ピックフォードの守備陣に対する指示と同じくらい繊細な動きだが、エバートンは勝ち点10剥奪の処分に対する声明の中に次の一節を入れた。

「我々は、プレミアリーグの収益性と持続可能性に関する規則について、他のケースで下される決定も注意深く監視していく」

これは、マンチェスター・シティについて話しているのだ。

昨年2月、プレミアリーグは王者マンチェスター・シティを100以上の規則違反があるとして告発した。その大半は、2009年から2018年にかけてリーグに正確な財務情報を提供しなかったという疑惑に関するものだ。ただこのケースは、審査が必要な期間が長いことを考慮する以前に、他のケースよりはるかに複雑で深刻である。

誰もエバートンやノッティンガム・フォレストによる報告の信憑性を疑っているわけではない。帳簿上で申告された損失は、全ての関係者によって受け入れられている。プレミアリーグと独立委員会の決定は、これらの損失がPSRのもとで受け入れられるかどうかにかかっているのだ。

マンチェスター・シティは基本的な3年単位の審査でPSRに引っかかったことは一度もない。しかしながら、PSRに合格するために提供した数字が事実上詐欺であるという疑惑がある。そのため、2015-2016シーズンから2017-2018シーズンまでのPSR違反の疑いは、プレミアリーグのマンチェスター・シティに対する告発理由の一部となっている。

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もしこれらに聞き覚えがあるとしたら、それは内部告発サイト『フットボール・リークス』により暴露された情報に端を発して、全く同じ疑惑でUEFAに裁かれているからだ。2018年にドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』がこの情報をもとにした一連の記事を掲載し、UEFAとプレミアリーグがシティの財務状況を調査することになった。

かつて在籍していたロベルト・マンチーニ監督と選手(ヤヤ・トゥーレと広く推測されている)への報酬の全詳細が正確に開示されておらず帳簿外支払いに相当するとの主張に加え、シティに対する主な疑惑は、アブダビを拠点とする企業エティハドとエティサラットからのスポンサー収入がオーナーであるシェイク・マンスールと彼のアブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)によって上乗せされている、というものだ。

シティは2020年2月、FFP違反で有罪となり、UEFAの大会から2シーズンの出場停止処分を受けた。しかし同年7月、スポーツ仲裁裁判所(CAS)は「ほとんどの規定違反疑惑は立証されていないか、時効である」との判決を下した。シティはUEFAの調査に非協力的だったことから1000万ユーロの罰金を科せられたものの、チャンピオンズリーグの出場停止処分は覆され、昨年クラブ初の優勝を飾った。

シティは同様の理由でプレミアリーグからも告発されている。

UEFAのルールに記載されている時効の要素はプレミアリーグと関係なく、もし調査が行われたとしてもシティはCASに頼ることはできない。しかし、シティが技術的な理由で無罪となりその報復が待っていると望む人々は少し休憩をとったほうがいいだろう。

エティサラットからのスポンサー収入がマンスールとADUGの株式資金を偽装したものであるという申し立ては、CASによって時効であると判断された。シティのメインスポンサーでありスタジアムのスポンサーでもあるエティハド航空に対する同様の申し立ても、ほとんどの裁判官が「シティがUEFAの主張するような違反を犯したと結論づけるには十分な証拠がない」と判断した。

一方でフットボール・リークスが公開したメールは、CASによって証拠として認められた。対してシティは、これは「文脈を無視しして取られたもの」であり、「クラブの評判を傷つけようとする試みは明確である」と反応して事態を防ごうとした。プレミアリーグで7度の優勝を誇る同クラブは、「自分たちの立場を支持する反論の余地がない証拠の包括的な集合体を公平に考察する」ために召集された独立委員会を歓迎している。

また2014年のケースでは、シティはFFPに違反したとしてUEFAから6000万ユーロの罰金が科され、チャンピオンズリーグの登録人数削減や移籍金の制限などの処分が下された。同クラブは「この処分に異議を唱えたい気持ちはあるが、そうするという決断に関してはファンやパートナー、商業活動の利益という現実とのバランスを保たなければならない」と述べ、結果的に処分を受けることで合意した。

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チェルシーの規定違反について

もしノッティンガム・フォレストの出費が贅沢に見えるなら、チェルシーを若々しい中堅チームに変革しようとしたトッド・ボーリーの10億ポンド(約1900億円)計画も注目されるだろう。

ボーリーと彼の組織による大胆な行動の動機は、サッカー市場の非効率性を利用することであった。PSRに関して言えば、プレミアリーグはその一部を解消しようと動いている。

チェルシーはエンソ・フェルナンデスとミハイロ・ムドリクを8年半契約、さらにモイセス・カイセドを8年契約で獲得したが、これらの移籍金の会計費用はその期間全体で分散されることになる。

CBS

プレミアリーグは現在、当規則をUEFAのファイナンシャル・フェア・プレーと足並みを揃え、各クラブが費用を償却できるのは最長5年までとしている。

チェルシーにとって好都合なことに、この規則変更は遡及適用されなかった。つまり、フェルナンデスやムドリクのような選手たちがこれ以上帳簿を苦しめることはない。今のところ、チェルシーはPSRを遵守できているようだ。

しかし、ファンにとっても管理者にとっても興味深い件であることに変わりはない。特に、2シーズン連続で欧州サッカーの舞台を逃すことになればなおさらだ。先発MFコナー・ギャラガーへのオファーに前向きであるという最近の報道も、当規則を遵守しなければならないプレッシャーを浮き彫りにしている。

クラブのユースアカデミー出身者であるギャラガーの売却は、受け取る移籍金の全てが当該年度の純利益として計上されるため、魅力的である。もし他クラブから獲得した選手を売却した場合、既存の償却要件が考慮され費用は分散される。

これはPSRにまつわるいくつかの側面の1つであり、各クラブは自分たちが投票したルールが全体的に望ましい効果をもたらしているかどうかを疑問視しながら、それぞれの目指す方向で考えなければならない。

原文:What are Premier League Profit and Sustainability Rules? Everton handed fresh points deduction for financial fair play breach
翻訳:山下晴輝(スポーティングニュース日本版)

Dom Farrell

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Dom is the senior content producer for Sporting News UK. He previously worked as fan brands editor for Manchester City at Reach Plc. Prior to that, he built more than a decade of experience in the sports journalism industry, primarily for the Stats Perform and Press Association news agencies. Dom has covered major football events on location, including the entirety of Euro 2016 and the 2018 World Cup in Paris and St Petersburg respectively, along with numerous high-profile Premier League, Champions League and England international matches. Cricket and boxing are his other major sporting passions and he has covered the likes of Anthony Joshua, Tyson Fury, Wladimir Klitschko, Gennadiy Golovkin and Vasyl Lomachenko live from ringside.

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スポーティングニュース日本版アシスタントエディター