カタールで開催された2022年のFIFAワールドカップ決勝戦は史上最高の試合だったのか? アルゼンチン代表がフランス代表と接戦を演じ、PK戦の末に36年ぶり3度目の優勝を遂げたこの試合の素晴らしさを本誌のマイク・デコーシー記者が振り返る。
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2022年ワールドカップ決勝が史上最高の試合だった理由
ピッチを走るキリアン・エムバペのような速さで、30分の間に議論は変容していった。
ワールドカップ史上最高の決勝だったのか? 限定的すぎる。
ワールドカップ史上最高の試合だったのか? これでも同じだ。
では、サッカー史上最高の試合だった? あるいは、人類によるあらゆるスポーツ史上最高の試合だっただろうか?
アルゼンチン代表とフランス代表が延長を含む120分間を終えて3-3と引き分け、PK戦の末に4-2でアルゼンチンが優勝を果たしたFIFAワールドカップ・カタール2022決勝は、試合後からこのように議論できたに違いない。
この試合は、ワールドカップ史上最高の試合だった。その理由を10点あげてみよう。
1. リオネル・メッシのW杯初優勝
2005年にアルゼンチン代表デビューを果たしたメッシは、翌年初めてワールドカップに出場した。大会最多出場の記録を更新し、2014年大会で戴冠に迫ったメッシだが、これまで出場した4回のワールドカップで優勝を果たせていなかった。
2014年のワールドカップ、2015年のコパ・アメリカ、2016年のコパ・アメリカ・センテナリオと、3年連続で決勝に勝てなかったフラストレーションから、メッシは代表引退を発表した。だが、その年のうちに復帰し、2021年にはコパ・アメリカ優勝を成し遂げる。だが、まだワールドカップの優勝トロフィーを手にすることはできていなかった。
35歳という年齢にもかかわらず、7試合すべてで1分も休むことなくプレイしたメッシは、そのスキルと創造力で決勝を支配し、アルゼンチンの3ゴールのうち2ゴールをあげた。そしてワールドカップ決勝トーナメントの全試合で得点をあげた史上初の選手となり、ワールドカップのゴールデンボール(最優秀選手賞)を2回受賞した史上初の選手にもなったのだ。
試合後、メッシはチームメイトやアルゼンチンのファンに担がれてルサイル・スタジアムを一周した。現代スポーツにおいて最も記憶に残る瞬間のひとつとなる光景だろう。
Si, ES REAL pic.twitter.com/F6IahbUNkE
— La Scaloneta 🇦🇷⭐️⭐️⭐️ (@LaScaloneta) December 18, 2022
2. 伝説の領域に入ったキリアン・エムバペ
エムバペの評価をスポーツ史上最高レベルの選手に高めるのは時期尚早だ。だが、あの年齢でそれらの選手たちが成し遂げていなかったことを彼が達成したと言うことはできる。彼は最高級の部類に加わる途上にあるのかもしれない。
エムバペは23歳時点のメッシよりも代表でゴールを決めている(そして今のメッシの代表通算得点数は歴代3位だ)。
2度目のワールドカップ本大会出場を果たしたとき、マラドーナは30歳だった。
また、エムバペはこの年齢でのワールドカップ優勝回数でペレにまで並びかけた。今大会で2位だったエムバペだが、2018年大会では優勝の原動力となっている。一方のペレは、大会序盤で負傷したものの、ブラジルが2回目の優勝を果たしたときの一員だった。
8ゴールでゴールデンブーツ(得点王)を受賞したエムバペは、1966年決勝で4-2と勝利したイングランドのジェフ・ハースト以来、ワールドカップ決勝史上2人目となるハットトリックを達成した。
3. 素晴らしかった延長戦
重要な試合が同点のまま延長に突入し、選手たちの疲労から停滞し始めることは多い。
交代人数が5人までとなり、延長に入ってからは6人目の交代も可能となった今大会のルール変更は、この点で良かったかもしれない。最後の30分に臨んだアルゼンチンとフランスは、ピッチでさらなるエネルギーを見せた。
延長に突入した過去4回のファイナルで生まれた得点は、2ゴールだった。4試合のうち2試合はPK戦にもつれ込み、そのほかの2試合も決着がついたのは最後の10分間で決まったゴールによってだった。今回は延長で2ゴールが生まれている。それも素晴らしいドラマとなった。
メッシのお膳立てからラウタロ・マルティネスがシュートを放つと、フランスの守護神ウーゴ・ロリスが止めたが、コントロールできず。こぼれ球に反応したメッシが右足を上げて押し込む。そしてボールはゴールラインを割った。
その後、コーナーキックのこぼれ球をボックス内左サイドで拾ったエムバペがパワフルなシュートを放つと、ゴンサロ・モンティエルの右腕に当たってPKに。そしてエムバペが自らこのPKを決めた。
4. 確実なリードはない
フランスは延長突入前に0-2のビハインドから追いつき、延長戦で2-3とされながら追いついた。
1954年のワールドカップ決勝では、西ドイツが有力視されたハンガリーを相手に0-2のビハインドから逆転勝利している。だが、そういったことはなかなか起きない。最終的にPK戦で敗れたとはいえ、今回のフランスは歴代の偉大な挽回劇のひとつとして記憶されるだろう。
5. 息を呑む守護神たちの好セーブ
2-2の同点で迎えた後半アディショナルタイム7分、メッシはボックス外の中央から左足で強烈なシュートを放ち、勝ち越しゴールに迫った。ボールはクロスバーのわずか下、ゴール中央へと向かう。だが、フランスの守護神ロリスがジャンプし、左腕を伸ばして、ボールを枠外にはじき出した。
この時点で試合は残り約30秒。ロリスがこのシュートを止めていなければ、試合終了だった。
その後、延長戦残り1分には、フランスのランダル・コロ・ムアニがアルゼンチンの守護神エミリアーノ・マルティネスと1対1の状況となる。マルティネスは少し前に出て、できるだけ自分を大きく見せた。コロ・ムアニはボールをコントロールして相手をかわすのではなく、シュートを選択。マルティネスはボールの軌道に左足を出して阻んだ。ワールドカップ史上有数のセーブとなるだろう。
My Man of Match is @emimartinezz1 …..if he does not make THIS save deep in extra time …..no penalties and no history for #Messi𓃵 #WorldCupFinal pic.twitter.com/fpAA3gSqE2
— Joe Morrison (@joefooty) December 18, 2022
6. ドラマチックなPK戦
チャンピオンを決めるのに理想的な方法ではないが、公正なやり方だ。コインを投げて決まるのは、どちらが先攻で、どちらのゴールでPK戦を行うかのみ。どちらのチームにも勝つチャンス、そして負ける可能性が等しくある。
ワールドカップ決勝史上3回目となったPK戦はプレッシャーがあった。それをアルゼンチンは見事に抑えたのだ。特に、パウロ・ディバラである。
2017-2018シーズンにユヴェントスで22ゴールをあげ、かつては若き新星と言われたディバラだが、翌シーズンは5ゴールにとどまり、以降は浮き沈みを経験。その彼が、アルゼンチンの2人目のキッカーを務めた。マルティネスがフランスの2本目をセーブしたばかりのことだった。
アルゼンチンがリードを奪えるかは、ディバラが成功できるか次第だったのだ。
ディバラはロリスが左に動くのを待ち、ロリスが空けた中央に蹴りこむ。そしてアルゼンチンはリードを手にした。
関連記事:FIFAワールドカップ決勝戦の歴史とデータ:延長戦・PK戦・観客数ほか
7. 試合を台無しにしなかったVAR
決勝ではすべてのPKがすぐに見直された。延長でメッシが自身2点目となるゴールを決めた際、ラインを割っていたことはゴールラインテクノロジーが即座に教えてくれた。
オフサイドがあったかを審判団が確認するリプレイのレビューも迅速かつ簡潔で、アルゼンチンは決勝点になるかと思われたゴールを祝福できた。
This is the moment of the whole tournament for me. A goal awarded in a World Cup Final due to the size of a man's arse pic.twitter.com/yfXc0E95DS
— Nooruddean (@BeardedGenius) December 18, 2022
8. 内容盛りだくさんの一戦
決勝は両チームとも攻撃志向だった。アルゼンチンはそれが普通のアプローチで、フランスは2点ビハインドを背負ったからだ。そのため、双方に多くのチャンスが生まれた。
『FotMob.com』は、アルゼンチンの「ビッグチャンス」が5回で、フランスは3回だったとしている。アルゼンチンのシュートは20本で、フランスは10本。アルゼンチンのクリアは21回で、フランスは18回あった。試合がどちらかに傾いておかしくない瞬間が、本当にたくさんあったのだ。
9. ダイナマイトだったアンヘル・ディ・マリア
過去20年で最も偉大な選手のひとりであるディ・マリアは、2021年のコパ・アメリカ決勝で決勝点をあげ、代表で129キャップを記録し、レアル・マドリードではラ・リーガやチャンピオンズリーグを制した。パリ・サンジェルマンではリーグ・アンで5回優勝している。
ワールドカップの17試合に出場してきたディ・マリアは、メッシとほぼ同じ期間にわたって優勝を目指してきた。それを達成する上で、彼はメッシと同じくらいに重要だった。
これまでのワールドカップでは、準々決勝までしか戦った経験がなかった。アルゼンチンが勝ち上がれなかったり、勝ち上がってもディ・マリア自身がケガをしていたからだ。
2014年のブラジル大会では、開幕から最初の5試合で先発出場したが、太ももを負傷。準決勝と決勝に出場できなかった。そしてアルゼンチンは決勝で延長戦の末に0-1で敗れている。
今回のディ・マリアは、当初ワールドカップ欠場も懸念されたハムストリングのケガに10月から煩わされた状態で開幕を迎えた。最初の3試合で先発出場したが、グループステージ最終節のポーランド戦で再び太ももを負傷。オーストラリアとのラウンド・オブ・16を欠場し、オランダとの準々決勝では終盤からの途中出場だった。クロアチアに勝利した準決勝は再び欠場している。
ディ・マリアでなければ、アルゼンチンがスタメンを発表した際、そこに彼の名前があったことは大きなショックだっただろう。だが、彼は先発出場にふさわしい出来だった。先制点となったPKを獲得し、追加点を奪取。PK戦のときはすでにベンチに下がっていたが、勝利に大きく貢献した。
10. 勝者の涙
延長でメッシがゴールを決め、アルゼンチンの優勝が確実視されたとき、ディ・マリアはベンチで涙した。
エムバペが同点弾をあげたときも泣き、タオルで顔を覆って落胆する表情を隠した。
そしてすべてが終わったとき、彼は喜びの涙を流した。
15分間でこれほどの感情の起伏があった。試合を通じて、まさにそういう感じの一戦だった。
原文:Explaining why Argentina World Cup final win vs France was the greatest game in FIFA men's history
翻訳・編集:スポーティングニュース日本版編集部
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