プロ野球2023年前半戦監督通信簿|明暗分かれた昨季王者の高津・中島

菅谷齊

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さすがオリックス、対してヤクルトは…。「あっぱれ」は広島とロッテ。話題満載の阪神と日本ハムは天と地に。巨人、ソフトバンクは「喝っ」。前半戦の12球団監督の通信簿である。

明暗くっきり、中嶋と高津

ここ2シーズン、日本一を争ったオリックスとヤクルトだったが、全く予想外の形となっている。

オリックス 49勝32敗2分け、6割5厘=パ1位
ヤクルト 35勝46敗2分け、4割3分2厘=セ5位

両チームは2021年そろって前年最下位から優勝し、ヤクルトが日本シリーズを制した。22年はともに優勝し、今度はオリックスが日本一に。今年はともに3連覇を目指しての戦いだったのだが、前半戦は対照的で、オリックスは7月9日に首位に立ち、安定した戦いで独走の勢いを感じさせる。対するヤクルトは5月の12連敗(1分け)のほか7連敗、6連敗と信じられない状況にある。

オリックスは山本由、宮城、山下ら投手陣が万全。このため大きな連敗がない。中嶋聡監督の堅い作戦がそれを支えている。「オールスター戦の日程が厳しい」と物申すなど発言にも自信がうかがえる。ヤクルトの高津臣吾はマジックが空回り。昨年の三冠王村上がウソのような不振のうえ投手陣が落ち込んだ。

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「見たか、聞いたか」と新井、吉井

前半戦の“最優秀監督”はセが広島の新井貴浩、パの吉井理人である。ともに1年生監督で、ちょっとした旋風を巻き起こしている。

広 島22年5位→今季2位(47勝38敗、5割5分3厘)
ロッテ22年5位→今季2位(42勝32敗4分け、5割6分8厘)

新井はベンチで絶えず声を出している。「これほど声を張り上げる監督は珍しい」といわれるほどである。選手とのコミュニケーションがよく取れているのに加え、選手の特徴を引き出しての起用がいい。また田中広輔を再生させ、坂倉将吾を捕手に専念させた手腕も高い評価を受けている。「監督を胴上げしたい」と選手に思わせる典型的な監督である。

片や吉井は独特な選手起用をしている。「試合数と同じくらい打順が異なる」「これほどの猫の目打線は見たことがない」という指摘通りなのだが、自軍の選手と相手を見抜く“眼力”がチームを優勝戦線に押し上げた。

吉井はかつて近鉄の仰木(彬)マジックと呼ばれたころの選手で、その仰木は“魔術師”三原脩(西鉄)時代の秘蔵っ子だった。自由奔放の戦いはそのDNAを受け継いでいるのだろう。

開幕前の予想はBクラスが多かっただけに、両監督は「見たか、聞いたか」の思いだろう。後半戦のダークホースである。

堅実岡田と突飛新庄、地獄のPLOBの立浪と松井

話題の監督といえばセの阪神岡田彰布、パの日本ハム新庄剛志である。
「アレ(優勝)」の一言で一躍“時の人”になった岡田は、まさに第二の野村克也といっていいほど巧みな言葉遣いがウケている。各スポーツ紙がインタビューの言葉をそのまま掲載するという特別扱いで、それが面白く、勝負の厳しさをほのかにしている。関西特有の雰囲気は関東にはない含み笑いを誘う。

試合運びは巧みである。勝負どころの人選が首位にいる大きな理由といっていい。「当たり前のこと(基本)をやれ」というのが岡田流。たとえば打者に「ボールを振ったらアカン」と言い、その結果が昨年より四球が80個ほど増え、それが得点に結びついている。投手には「ストライクをほうればいいやんか」。その結果がオールスター戦ファン投票で9人当選に表れた。

かつて阪神でプレーした新庄は岡田とは対照的なさい配を振るっている。いわゆる“その日暮らし打線”。昨年と同じ最下位にファンからは「カンで試合をするな」とお叱りを受けることが多い。昨年は「優勝は狙わない」と球界をあ然とさせた。今シーズンは「優勝を狙う」とぶち上げたものの、10連敗で前半戦を終えた。エスコン新球場も色あせた感じで、怒りのファンから「マスクを取れ」と八つ当たり気味の指摘も。後半戦もこの状態だと「辞めろ」コールが本格化するだろう。

セの最下位の中日立浪和義とパの5位の西武松井稼頭央はともに高校球界の名門PL学園のOB。そろって不振にあえいでいる。指揮2年目の立浪は昨年の最下位に続いて大苦戦。明らかに戦力不足で、シーズン中にトレードでテコ入れをしているものの成果は低い。松井の場合は4番の山川穂高が不祥事の疑いで戦列を離れ、打力が非力にあえぐ。FAで次々と有力選手が去って行ったのが響いており、今後の展望は厳しい。日本ハムとの最下位争いとなるだろう。

勝負の三浦、原、石井、藤本

残る4監督はさまざまな勝負に挑戦している。優勝のチャンスなのはDeNAの“ハマの番長”こと三浦大輔なのだが、前半戦は広島に抜かれて3位に。打力はリーグトップクラス、投手陣は今永昇太、東克樹に加え大リーグのサイ・ヤング投手トレバー・バウアーが加わり、これもリーグ1といっていい。監督さい配を問われる後半戦で、失速したら進退問題の危険性をはらんでいる。

いいいのか悪いのか、とにかく中途半端なのが原辰徳の巨人。6月中旬に6連勝して貯金5としたときはファンに希望を持たせた。ところが5連敗で前半戦を終えると借金2の4位。低調な打線に加え、菅野智之が不振で投手陣も戸郷翔征頼りという有様で、後半戦の戦いは不安だらけである。昨年に続くBクラスだと往年の“若大将”に「交代」の声が大きくなるだろう。

予想外はソフトバンク。昨年2位だったこともあって今季は優勝候補筆頭だった。それが7月の七夕から9連敗のまま前半戦を終え3位に沈んだ。首位を争っていたオリックスとの差は5.5と開いた。藤本博史のさい配批判が出始め、優勝を逃せば進退は免れない。後半戦は正念場となる。

楽天の石井一久は後半戦に向けてコーチ陣を入れ替えた。最低Aクラスでなければ交代という危機感がうかがえる。「3位はBクラス」の発言が足かせになっている。田中将大、浅村栄斗ら高額獲得のベテラン選手に頼るしか手がないようだが、真夏に期待通り働いてくれるかどうか。まさに勝負の夏である。

通信簿 A=新井、吉井(大健闘) B=岡田、三浦、中嶋、藤本(戦力から当然) C=原、石井(中途半端) D=立浪、新庄(予想通り) E=高津、松井(期待外れ)。

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菅谷齊

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菅谷齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。著書「日本プロ野球の歴史」(大修館、B5版、410ページ)が2023年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞。