帰ってきた「神の子」田中将大、注目はギータとの対決

Sporting News Japan Staff

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24勝無敗のままメジャーリーグに行った田中将大が戻ってきた。そのピッチングを再現できるか。注目は同じパ・リーグの王者ソフトバンクとの顔合わせで、その中でも柳田悠岐との対戦は最大の見ものである。

 

優勝、日本一はソフトバンクに勝つこと

「まさか戻ってくるとは」。田中復帰に驚く声が少なくない。「2ケタ勝利は間違いない」から「15勝はいける」。さらに「20勝も」と期待はエスカレートするばかりである。

改めて思い出すのは「マー君、神の子、不思議な子」の呼び名。田中が楽天に入団して間もないころ、監督の野村克也に命名された。勝ち運を持っているとの感想からだった。初々しかった少年投手もいまや三十路の大投手として戻ってきた。

田中への期待は優勝、日本一。それにはソフトバンクに勝つことである。その見どころは3点。

  1. 柳田の対決
  2. 左打者軍団との対戦
  3. 高給取り勝負

ソフトバンクは王貞治会長が「連覇の条件は田中攻略」。楽天の田中ではなく、ヤンキースの田中として攻略を仕掛ける、意識ということである。

これほどチャンピオンチームに警戒される投手は久々に見る。思い出すのは巨人9連覇の時代、川上哲治監督は阪神の剛速球エース江夏豊を徹底マークしたこと。バント攻撃で動かしてスタミナを消耗させる戦法を取ったり、全セ・リーグの監督を務めたときはオールスター戦で3試合に登板させて投球過多にさせたりした。そんなシーンが再現されるかもしれない。

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“神の子vsギータ”は最高のイベント

ソフトバンクといえばギータこと柳田。パワーチームの象徴である。昨年の最多146安打で2度目のパ・リーグMVP。打率3割4分2厘は2位、29本塁打と86打点はともに3位。加えて5度目の最高長打率を記録した。

昨年の巨人との日本シリーズ第4戦の本塁打は柳田の本領だった。1点先行された1回裏、逆転の2ランを右翼席に叩き込み4年連続日本一を呼び込んだ。高め、低め関係なく全方向へかっ飛ばし、パの投手を粉砕した。

このNO1 打者を田中がどう封じるか。ボール1つ分のコースが勝負の分かれ目となる対決である。“神の子vsギータ”-。お代に沿う最高のイベントになるだろう。

この柳田を軸とした左打者軍団も田中にとってやっかいな存在になるだろう。昨年の日本シリーズでMVPになった栗原陵矢(りょうや)、柳田とともに優秀選手に選ばれた中村晃(あきら)、盗塁王の周東佑京(しゅうとう・うきょう)らである。パワーにスピード、勝負強さを兼ね備えたメンバーがぞろり。

高給取り対決も興味の一つ。ソフトバンクはここ数年、球団別年俸(推定、外国人選手を除く)はトップ。昨年は総額42億円、平均7100万円。2位の巨人は36億円、6100万円。注目は楽天で31億円、5100万円の3位。前年9位からの大盤振る舞いだった。

選手個人に焦点を合わせると、田中は年俸9億円。巨人菅野智之の8億円をアッという間に追い抜き、日本球界の最高給取りに。対する柳田は野手最高年俸6億円超。一投一打の単価は信じられない高額となる。この柳田を頂点とした球界一の高給取り集団ソフトバンク相手とはいえ、大リーグ最高年俸チームのヤンキースに在籍した田中だけに腰が引けることはないだろう。

 

明暗のカギ握る日米ストライクゾーンの違い

田中がキャンプの調整でもっとも神経を使っているのがストライクゾーンの確認。こんな場面があった。投球練習で際どい低めの変化球が「ボール」と審判に判定された。捕手が「捕球が拙くて…」と恐縮すると「いや、ボールはボールだから」と反応した。

7年間離れていた日本のコースを1球ごとに検証している。さすがヤンキースの開幕投手だ。

24連勝(前年から28連勝)したときのような投球の再現を多くのファンは望んでいる。田中が先発する試合の観客が増加することも間違いない。他球団は入場料収入を見込んで自分のホームゲームで登板してくれ、と願っているだろう。メジャーリーグではそういったことを相手球団に要求するチームもある。

昨年の田中は3勝。これをどう判断するか。一休みか、下り坂なのか、と。キャンプでの練習を見ると、心配無用との雰囲気である。

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出戻り投手の成功と期待外れ

日本人メジャーリーガー投手は戻ってからどんな働きをしたか。田中の今季に参考になるかも知れないので振り返ってみよう。

確実に戦力になったのは、まず本格先発型の伊良部秀樹。ヤンキースなど3球団を経て星野仙一監督の阪神に入った2003年、13勝を挙げて優勝に貢献した。ロッテ時代は何度もタイトルを獲得。1997年にパドレスを経てヤンキース入り。初の三角トレードでの渡米だった。強い個性を星野がうまく乗りこなした。

優勝貢献では黒田博樹が記憶に新しい。やはり先発専門。ドジャース、ヤンキースの名門チームで計79勝を挙げた後、15年に古巣の広島へ。翌年、優勝を決める巨人戦に先発して10勝目。「感動の投球」を残し引退した。帰国して名球会入り。

田中はこの黒田タイプといっていい。メジャーリーガーを打ち取った低めの変化球を持っている。

先発ではもう一人いる。ソフトバンクの左腕和田毅。16年に復帰すると、すぐ16勝。昨年は8勝1敗の好成績で日本一4連覇をもたらした。

ちなみに日本人初の大リーガー村上雅則はジャイアンツで2シーズン救援した後、21歳で南海復帰。3年目の1968年には主に先発で18勝、最多勝に輝いている。

対照的に期待外れだったのは松坂大輔。レッドソックスで18勝をマークしたことで知られる。16年にソフトバンクに入団したものの登板なし。18年に中日に移って6勝。20年の西武は登板ゼロ。日米通算170勝、名球会まであと30勝の道のりである。復活のカギは故障克服だ。

マリナーズで63勝、ノーヒットノーランも記録した岩隈久志は、19年に巨人に入ったが、2シーズンで登板ゼロ。故障が回復しなかった。これで近鉄に在籍していた選手はすべて球界から消えた。

このほか、先発を守ったのは石井一久(現楽天監督)ぐらい。あとはリリーフで高津臣吾(現ヤクルト監督)、佐々木主浩、岡島秀樹、上原浩治、藤川球児、楽天で現役の牧田和久、今季からオックスに戻った平野佳寿らがいる。

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ビデオ確認に情報合戦、そして名球会入り

プロ野球の情報収集は盛んである。もっとも分かりやすいのはビデオによるチェック。田中はフルスイング柳田のあらゆる画面を、柳田はじめソフトバンクの面々は、ヤンキース時代の田中の投球を研究。そうやって対策を練っていく。

さらに他球団から得る話。元の同僚、出身校など、意外な付き合いをみんな持っている。スコアラー、スカウトらも貴重な情報源で、ちょっとした癖など小さな弱点が大きな効果を生む例は常にある。

田中はいよいよ円熟の域に向かってのピッチングである。日米通算177勝(日本99勝、米国78勝)。名球会まであと23勝。32歳の年齢からすれば2シーズン目の夏には到達する距離だろう。

日本球界は“神の子効果”で最近にない盛り上がりとなる。


「略歴」

菅谷 齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。

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日本を拠点に国内外の様々なスポーツの最新ニュースや役に立つ情報を発信しているスポーティングニュース日本版のスタッフアカウント。本家であるスポーティングニュース米国版の姉妹版のひとつとして2017年8月に創刊された日本版の編集部員が取材・執筆しています。