実はセリーグ随一の投手王国? ヤクルト投手陣の働きをセイバーメトリクスで紐解く

DELTA・秋山健一郎

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突然だが、セ・リーグで最もチーム防御率が悪い球団といえばどのチームを想像するだろうか。答えは東京ヤクルトスワローズだ。防御率、失点率ともにリーグワーストを記録するヤクルト投手陣に対し、「よく打たれる」イメージを持っている野球ファンも少なくない。

ところが、実は彼らは悪いピッチングをしているわけではない。統計的視点で野球を分析する"セイバーメトリクス"を用いると、むしろヤクルト投手陣は良い投球をしているということが見えてくる。

神宮球場はセ・リーグ随一のヒッターズパーク

ヤクルト投手陣の頑張りを見えにくくしているのは、本拠地・神宮球場の特性だ。

各球場の特性が成績にどれくらい影響するかは、セイバーメトリクスの世界ではかなり意識されている。同じチームがホーム球場で残した成績と、その他の球場で残した成績の比較からホーム球場の特性を探る「パークファクター」という数字などもあり、選手評価の精度を上げるために活用されている。

今季のNPBのパークファクターを見たとき、ヤクルトのホーム、神宮球場では目立った数字が出ている。とにかくよく本塁打が出ているのだ。神宮球場での本塁打と被本塁打は計117本(44試合)、その他の球場での本塁打と被本塁打は計77本(54試合)。1試合当たりに換算するとそれぞれ2.66本、1.43本となっている。

これに引っ張られ、得点の入りやすさにも大きな偏りが出ている。ヤクルトが神宮球場で試合をしたとき、対戦相手も含む両チームが記録する総得点の平均は10.98点、他球場では8.11点。ヤクルトは典型的な打者有利の球場で多くのゲームを戦っているといえるだろう。

こうした話題においては、本塁打を量産している山田哲人やウラディミール・バレンティンが球場の恩恵を受けているのか否かなど、打者のほうに目が向きがちだ。だが、成績の伸ばしにくい環境でプレーしている投手陣については「成績が低く出すぎていないか」を疑う必要もある。

実は小川やブキャナンにも劣らない投球を見せている原、ハフ、カラシティー

球場特性以外にも、ヤクルトの投手陣の成績が低めに出ている可能性を示唆する材料がある。

前述の通り、ヤクルトの投手陣の防御率は4.38、失点率(9イニング当たりの失点)は4.90とどちらもセ・リーグで最も悪いが、別の角度から成績を見ていくと、一部の投手はかなり優れた内容を示している。

例えば、74イニングを投げ3勝6敗、防御率3.89、失点率5.11という成績を残している原樹理。これだけだと特筆すべきものはないようにも見えるが、三振を奪う割合、四球や被本塁打の少なさ、ゴロを打たせる頻度など、投手の力量が明確に表れる要素については、いずれもバランスよく良い数字を残している。

そうした要素を使って計算した推定失点率(tRA/true Runs Average)は3.47と実際の失点率(5.11)を大きく下回る。これはもし原が平均的な守備力を備えたチームで同じイニングを投げていれば、大きなアンラッキーがない限り、9イニングを4点以内に抑える投球を見せていた可能性があることを意味する。今季のセ・リーグの9イニングあたりの得点が4.5点ほどであることを考えると、その価値がイメージできるだろう。

その他にも、79.1イニングを投げ2勝6敗、防御率5.33、失点率5.67のデーブ・ハフのtRAは4.32。56.2イニングを投げ6勝3セーブ、防御率3.97、失点率4.73のマット・カラシティーも3.96というtRAを記録しており、いずれも優れた投球を見せている。

小川泰弘やデービッド・ブキャナンといった一定の成績を残している投手に加え、こうした実は良い投球を見せているピッチャーがそろっているヤクルトの投手陣は、果たすべき責任はしっかり果たしている。特に被本塁打を少なく抑えることに成功している投手が多く、それはプラスに働いている。チーム全体のtRAは4.51とリーグ平均レベル。巨人や広島にも引けを取らない値となっている。

セ・リーグ投手成績

    防御率 失点率 tRA
  巨人 3.86 4.09 4.60
  阪神 4.00 4.49 4.05
  広島 4.02 4.41 4.52
  DeNA 4.25 4.64 4.62
  中日 4.34 4.62 4.80
  ヤクルト 4.38 4.90 4.51

球場特性を考慮するとさらに上がる評価

パークファクターとtRAを用いた評価(投手の力量が明確に表れる要素を用いた評価)を組み合わせると、ヤクルト投手陣の評価はさらに上がる。得点の入りやすい球場で登板しているヤクルト投手陣の不利を解消する補正を行うとtRAは以下のような値に変わる。

セ・リーグ投手tRA(球場特性を考慮)

    tRA
  ヤクルト 4.07
  DeNA 4.43
  阪神 4.45
  巨人 4.50
  広島 4.69
  中日 5.12

防御率、失点率ではワーストだったヤクルト投手陣だが、球場の特性を考慮した評価を行うと、投球内容ではリーグで最も優れていたということになる。全球団が同一環境の球場で試合を行っていたら、ヤクルト投手陣はリーグトップの成績を残した可能性があるということだ。

ヒッターズパークの恩恵を受け、派手な本塁打攻勢を見せるチームでは、投手陣の評価は上がりにくい。しかし、彼らが被っている不利を精査していくと、実は堅実な働きを見せているというケースもあるのだ。

神宮球場という環境的不利が続く限りは、ヤクルト投手陣の評価も簡単には上がらないだろう。だが、原のような内容的に十分な投球を見せている投手は、近いうちに防御率や失点率といった数字が改善されていく可能性は十分ある。

(数値は全て8月13日現在)


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