再発見、プロ野球タイトルホルダーに多い「1字の姓」

菅谷齊

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プロ野球の記録を見ると、1字姓の選手の好成績が目立つ。昨年の柳裕也投手(中日)は防御率1位、最多奪三振、ベストナイン。堀瑞輝投手(日本ハム)は最優秀中継ぎ。新人だった牧秀悟二塁手(DeNA)は打率3位。日本シリーズではオリックスの宗(むね)佑磨三塁手が注目されたように。1字姓といえば世界最高の868本塁打の王貞治だが、ここは彼を除く選手に焦点を絞ってみた。

MVPと新人王をダブル受賞した“若大将”時代の原

そのシーズンのナンバーワン選手とルーキーを表彰するのがMVP(最優秀選手)と新人王。ともに記者投票で選出される伝統の賞である。MVPは何度もチャンスがあるが、新人王のチャンスはキャリアで1回だけという特別な価値を持つ。

最初の1字姓選手のMVPは戦前の43年、巨人時代の呉昌征外野手。戦後になってからは巨人の原辰徳三塁手(1988年)中日の郭源治投手(88年)西武の郭泰源投手(91年)巨人の丸佳浩外野手(2017-18年)西武の森友哉捕手(19年)。

新人王は巨人の78年の角(すみ)三男投手と81年の原辰徳。続いて94年に阪神の藪(やぶ)恵市投手、21世紀に入って06年の広島の梵英心(そよぎ・えいしん)遊撃手、そして18年にDeNAの東(あずま)克樹投手。

出色は原。MVPと新人王を獲得している。この両方を持つ選手は少ない。ワンチャンスの新人王に選ばれることが絶対条件だからである。原は打撃タイトルより最多勝利打点(現在はなし)を2度取っていることが示すようにチーム貢献度が高かった。巨人監督として何度も優勝している勝負強さがうかがえる。

ノーヒットノーラン投手にずらり

投手が一度は達成したいノーヒットノーラン。夢を実現したのは戦前を含めて7人を数える。1リーグ時代は41年の森弘太郎(阪急)と阪神時代の46年の呉昌征。2リーグになって52年の大映の林義一、66年に西鉄に清(せい)俊彦、85年には西武の郭泰源。その後は現役で投げる西勇輝(現阪神)がオリックス時代の12年に、さらに西武時代の岸孝之(現楽天)が14年に。

この中で特筆しておきたいのは呉。本職は打者で、首位打者に最多安打、盗塁王と実績を残している。MVPもそれを評価された。“人間機関車”の異名を取った二刀流だった。西武黄金時代のエースだった郭は“オリエンタル・エキスプレス”と呼ばれた。

獲得するなら「森」に「林」「辻」

優れた選手が多いのは「森」姓。御覧の通りである。

  • 森弘太郎投手(阪急=最多勝利、ノーヒットノーラン)
  • 森徹外野手(中日=本塁打王、打点王)
  • 森昌彦捕手(巨人=ベストナイン9度)
  • 森繁和(投手西武=最多セーブ)
  • 森慎二投手(西武=最優秀中継ぎ)
  • 森唯斗投手(ソフトバンク現役=最多セーブ)
  • 森友哉捕手(西武現役=MVP、首位打者)

森昌彦(のち祇晶=まさあき)は巨人9連覇の頭脳として知られた。のちに西武監督として黄金時代を作った。森繁和も中日監督に就いた。「森」姓は新人獲得の際に参考になるかもしれない。 続いて「林」姓。パ・リーグ最初のノーヒットノーラン達成が先に紹介した林義一。戦前の林安夫(朝日)はプロ入りした42年に71試合541.1回を投げ、対した打者2079人。32勝を挙げ、防御率1.01でタイトルを取った。翌年も20勝したが、戦死。戦後投げていたら大投手になったと惜しまれる投手だった。甲子園のヒーロー林俊彦(南海)は65年の勝率1位。

「辻」姓にも注目。現西武監督の辻発彦は93年の首位打者だが、持ち味はチャンスメーカー。秋山-清原-デストラーデの主軸で築いた西武黄金時代のリードオフマンとして暴れ回った。この姓でオールドファンは阪神の“ヒゲ辻”こと辻佳紀と“ダンプ”こと辻恭彦を思い出すだろう。

覚えておきたい「中」に珍名、やはりすごかった「王」

中日の「中」(なか)という外野手がいた。東大受験を捨ててプロ入りした秀才だったが、打者としても優れていた。長嶋茂雄、王貞治の巨人V9時代、二人を押しのけて67年に首位打者を獲得したほど。盗塁王も手にした。変わっているところがあって何度も改名した。本名は利夫で、プロ入りすると64年に三夫、それから本名に戻し、次に暁生。コーチになると登志雄、監督のときは利夫を名乗った。

この中は暁生時代に同僚の森徹、王貞治と「1字トリオ」で打撃10傑に2度。ベストナインでは王貞治、森昌彦のトリオで3度も名を連ねた。

話題を呼んだところでは柔道の『ヤワラちゃん』こと田村亮子(現姓・谷)と結婚した谷佳知(オリックス)は最多安打に盗塁王。“赤ゴジラ”と呼ばれた嶋重宣(広島)は大化けして首位打者。都(みやこ)裕次郎という劇画主人公のような名前の中日投手は勝率1位を取っている。

タイトルに関係なく珍しい1字姓を挙げると、戎(えびす)、基(もとい)、音(おと)、忍(しのぶ)、県(あがた)、畝(うね)、英(はなぶさ)、釣(つり)、屏(へい)、迎(むかえ)ら。そして極めつけは読みが1音の井洋雄(い・ひろお)という広島の投手。

こうして見てくると、改めて王貞治のすごさが際立っている。主なタイトルと回数は、MVP9、本塁打王15、打点王13、首位打者5(うち三冠王2)、ベストナイン一塁手18、ほかに記録たくさん…。


著者プロフィール

菅谷 齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。黒い霧事件、長嶋茂雄監督解任、江川卓巨人入団をはじめ、金田正一の400勝、王貞治の756本塁打、江夏豊のオールスター戦9連続三振などを取材。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め、三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団法人・全国野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、東京運動記者クラブ会友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。

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菅谷齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。著書「日本プロ野球の歴史」(大修館、B5版、410ページ)が2023年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞。