三冠王確実・村上宗隆の契約更改は…「10年・100億」の可能性も

菅谷齊

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ヤクルト村上宗隆の三冠王は確実だろう。そこで注目したいのがオフの契約更改。「10年100億円」の可能性がある(年俸は推定)。

驚くべき安定感、難関の打率クリア

このドラマが始まったのは8月20日(中日戦)のことだった。村上は打率、本塁打、打点の打撃3部門でトップに立った日である。(打率3割2分9厘、44本塁打、107打点)

村上はその日の中日戦で2本塁打を放ち、打率でDeNA佐野恵太の3割2分8厘を抜いて打率の首位を奪った。

打撃3部門のうち、本塁打と打点は積み重ねなので減ることはないが、打率は安打が出なければ落ちていく。だから三冠王の最大の難関は打率なのである。戦後初の三冠王となった南海の野村克也は、自身唯一の首位打者を獲得した1965年(昭和40年)に夢を手にした。それまで本塁打と打点のタイトルを取っていたが、打率が三冠の道を塞いでいた。

村上についても、ずっと「打率は甘くない」として三冠王の話は大きくなかった。それが3部門1位となった後も本塁打を含む安打を左右に打ち分けた。27日のDeNA戦で5打数5安打(48号本塁打)と打ちまくり、3割2分8厘から一気に3割3分7厘に上げ、翌日も2打数2安打で3割4分に乗せた。9月に入っても好調で、3日の中日戦で3安打し、3割4分1厘を記録した。

佐野は逆に徐々に打率を下げ、中日の大島洋平が打率2位に上がり、村上のライバルに名乗りを上げた。村上と大島、佐野とは1分以上の差があり、残り試合を考えると、逆転は難しい。村上は四球が増える可能性が高いし、大島と佐野は安打を増やさなければ打率は上がっていかない、という大きな条件の違いがある。

意外な三冠王のお値段

野村は三冠王を取ったオフ、1300万円で1966年の年俸更改を終えた。なんと前年より200万円アップしただけである。前年まで本塁打と打点の二冠を取り続けていたから、もう一つのタイトル分を乗せたという内容だったのだろう。

もっと驚くのは巨人の王貞治のケースである。

1973年=4800万円…初の三冠王
1974年=5200万円…2年連続三冠王
1975年=5260万円

2年連続三冠王を獲得して最初は400万円アップしたが、2度目は40万円しか上がっていない。野村同様、それまでの二冠の打率のタイトル分を加えた形だった。王はその後も本塁打を打ち続け、1978年に7000万円台、翌年の8000万円台となったが、1億円に乗ることはなかった。

三冠王の価値を認めさせたのはロッテ時代の落合博満だった。

1982年=1600万円…初の三冠王
1983年=5400万円
1985年=5940万円…2度目の三冠王
1986年=9700万円…3度目の三冠王
(この年のオフ、中日にトレードで移籍)
1987年=1億3000万円…球界初の1億円プレーヤー

落合は1991年に2億円、翌年3億円を経て、巨人に移った1994年に3億8000万円と頂点に達した。三冠王を獲得する度に大幅アップの契約を勝ち取り、球界に1億円プレーヤーが続出するきっかけとなった。

“村神様”に10年100億円!

村上が三冠王を獲得した場合、日本球界の歴史を変える契約が成立すると見ている。22歳の年齢を考えると、ヤクルトは「10年100億円」を提示してもおかしくない。10年経っても32歳である。全盛時代だろう。ホームランも600本台まで伸びているだろうし、王の持つ868本塁打の更新も見えてくる。なによりも二人と現れない打者の一人ということが大きい。村上の年俸推移は次の通りである。

2018年=700万円…ルーキー
2019年=800万円…新人王
2020年=4500万円
2021年=1億円…本塁打王
2022年=2億2000万円

順調すぎる昇給である。「10年100億円」が夢のような話ではない、という例がある。ダイエー時代にもっとも新しい三冠王(2004年)となった松中信彦は、それから2年後に2006年から2012年までの「7年契約」を交わしている。2009年までが5億円、10年4億円、後の2年間は2億円ずつ、計28億円となっている。

松中が大型契約を結んだのは32歳のとき。村上の10年後の年齢である。それから考えたら村上の超大型契約は不思議ではないし、可能性は大、と思う。村上がメジャーリーグ行きを目指していると言えば、話は違ってくるけれども、ヤクルトの出方が注目されよう。

村上のバットはヤクルトの優勝を確実にするだろうし、文句なしの2年連続MVPに選ばれることも間違いない。まさに“村神様”である。ちなみに村上が三冠王になったらドラフト入団のセ・リーグ最初の三冠王(パ・リーグは落合)となる。年俸ライバルはもはや大谷翔平しかいない。

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菅谷齊

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菅谷齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。著書「日本プロ野球の歴史」(大修館、B5版、410ページ)が2023年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞。