チーム成績を左右する最高給選手たちの働き…6億の千賀、9億田中将ら明暗

菅谷齊

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チームの成績は高給取りの活躍にほぼ比例する。「額面通り」か「額面割れ」か。投手と打者の最高給取り(外国人を除く)を見ると、なるほど、となる。

セ、パ両リーグ12球団の投手と打者の最高給取りを紹介しておく。

  投手 打者
ヤクルト 小川泰弘=1億6千万 山田哲人=5億
阪神 西勇輝=2億 近本光司=1億5千万
巨人 菅野智之=6億 坂本勇人=6億
広島 大瀬良大地=1億8千万 菊池涼介=3億
中日 大野雄大=3億 大島洋平=2億5千万
DeNA 山崎康晃=2億8千万 宮崎敏郎=2億
オリックス 山本由伸=3億7千万 吉田正尚=4億
ロッテ 益田直也=2億 福田秀平=1億2千万
楽天 田中将大=9億 浅村栄斗=5億
ソフトバンク 千賀滉大=6億 柳田悠岐=6億2千万
日本ハム 宮西尚生=2億5千万 近藤健介=2億6千万
西武 増田達至=3億 森友哉=2億1千万 

「球界の盟主」の看板を下ろした巨人

気になるのはやはり巨人。「ペナント奪回」を旗印に新たに原辰徳監督と3年契約を結んだが、雲行きは怪しい。7月13日の阪神戦から8月3日の同じく阪神戦までの10試合で1勝9敗したのがもろに響き、ヤクルトを追うどころか勝率5割を目指すのに必死といううっとうしい日々を送っている。

その大きな原因の一つが投手陣と攻撃陣の最高給取りが働いていないこと。ともに年俸6億円のエース菅野智之とリーダーの坂本勇人が不振や故障で額面とはかけ離れた状態にある。

打線のテコ入れに着手し、8月11日の中日戦では3シーズン4番に座ってきた岡本和真を外し、中田翔を代わりに据えた。巨人の4番は長嶋茂雄、王貞治に代表されるように「聖域の打順」といわれてきたが、とうとう一、二軍を行き来していた外様選手に91代4番を与えた。岡本が坂本の代役を果たせなかったからである。「球界の盟主」の看板を下ろした、とOBをがっかりさせるほどなりふり構わない状況にある。

投手に関してもOBを臨時コーチに招き、二軍でくすぶっている昨年11勝の高橋優貴らを鍛え直している。

この巨人の例は、どんなチームでも最高給取りが活躍しなければ成績は芳しくない、ということを表している。

ヤクルトは真逆の後半戦

ヤクルトの負けっぷりも予想外である。コロナに襲われたとはいえ、7月中旬の6連敗から1勝2敗のペースで、8月には7連敗も。独走状態だった前半戦がウソのような弱さだった。

エース小川泰弘(1億6千万)が勝ったり負けたりで落ち着かないし、山田哲人(5億)に至っては打率が下がりはじめ、本来の怖さが見られない。怪物村上宗隆がホームランをがんがん打って支えている状態が続く。

面白いのはそれでも首位は安泰という現象である。負けても2位が入れ替わり立ち代わりしており、2位チームに負けなければゲーム差はそこまで縮むことがない。巨人、阪神、広島、DeNAはクライマックスシリーズ進出にカジを切っているだろう。したがって、依然としてヤクルトの優勝の可能性は高い。

失速楽天、勝てない9億円エース

楽天は見事なスタートダッシュで5月中旬まで勝率7割台を維持していたが、ソフトバンクの追い上げにあう。気温が上がるのとは反対に負けが増え始め、ずるずると順位が下がり、8月にはBクラスに落ちた。

その原因に田中将大(9億円)の不安定さが挙げられる。8月13日の西武戦で9敗目を喫すると同時に貯金ゼロになった試合が象徴的だった。勝利が敗戦を追いかけるという信じられない状況が続く。大将が勝てなくなると他の投手もおかしくなっているというのが後半戦の現状といえる。打者のリーダー浅村栄斗(5億円)は打点を稼いで本来の勝負強さを示し、この頑張りがなんとか優勝争いの一角にいるといっていいだろう。

じわり、とソフトバンク、オリックス

パ・リーグの首位争いは真夏8月に入って一層面白くなった。安定しているのはソフトバンクで、エースの千賀晃大(6億)と柳田悠岐(6億2千万)がチームを引っ張っており、本来の形が整った。同時に機動力を使った試合運びがよく機能しており、大きな連敗はないだろう。

オリックスはいつの間にか投打両輪がそろい、連覇の可能性が出てきた。エース山本由伸(3億7千万)は10勝をマークしたし、吉田正尚(4億)は首位打者を狙える打撃を見せている。2勝1敗で戦える形ができ、ソフトバンクとの一騎打ちになると思われる。

抑えが最高給取りチームの明暗

オリックス、ソフトバンク、楽天を除くパ・リーグ3球団を見ると、救援投手が最高給取りなのに驚く。

この中で西武が7月下旬から首位に立ったが、8月9日からの日本ハム3連戦(札幌)に2敗1分け。敗戦はいずれもサヨナラ負けというから気味が悪い。第1戦は抑え増田達至(3億)が近藤健介(2億6千万)にサヨナラ3ランを浴びた。首位チームが最下位チームに負けたわけで、こういう取りこぼしが今後に影響するケースが多い。

ロッテは開幕前の予想では優勝候補の一つだった。ところが8月の声を聞いた途端、ずるずると後退し、上位どころか勝率5割が遠くなってしまった。抑えの益田直也(2億)がバテ気味だし、打者の最高給取りはレギュラーではない福田秀平(1億2000万)という珍しいケースに象徴されるように、超貧打に泣いたまま。

日本ハムは宮西尚生(2億5千万)が投手の最高給取り。登板数が減っており、毎試合多くの投手をつなぐ数でこなしているのがBIGBOSS采配となっている。

貧打の阪神と広島、DeNAは不気味

阪神の戦いを見ていると、どうしても開幕戦から9連敗が引っかかってしまう。7月24日に借金を完済して勝率5割にたどり着き、西勇輝(2億)をはじめとする投手陣が踏ん張っていささかの貯金をしたと思ったら8月9日から連敗。13日の中日戦では今季21度目の完封負けという有様だった。投手陣に比べ打線の貧弱さが明らかで、チャンスメーカーの近本光司(1億5千万)が打者の最高給取りの実態が現状を表している。

広島も同じようである。大瀬良大地(1億8千万)らが好投するのだが、打線に迫力が欠ける。犠打でリーグのトップクラスの菊池涼介(3億)が打者の最高給取りというところに打力の弱みがうかがえる。

DeNAは抑えの山崎康晃(2億8千万)が投手陣の最高給取り。打者の最高給取りはベテラン宮崎敏郎(2億)。やはり常勝となる形ではないが、地味に安定しているので不気味な存在といえる。

残る中日はエースの大野雄大(3億)がすっかりおとなしくなってしまった。8月に入っても勝利が敗戦数を追っかけている。打者の大島洋平(2億5千万)がコツコツと安打を積み重ねているのだが、失点に得点が追いつかない惜しい敗戦が多く、この症状は変わらないだろう。

最高給取りを抑えれば勝てる、ということが分かる話である。

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菅谷齊

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菅谷齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。著書「日本プロ野球の歴史」(大修館、B5版、410ページ)が2023年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞。