セ・パの首位チームに共通する強打の捕手の存在。會澤、森の活躍は捕手評価の基準を変えるか?

DELTA・秋山健一郎

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強打の捕手が生み出す「差」

「強打の捕手」がなぜ重要か。それは、プロ野球では平均的に捕手の打力が低いため、強打の捕手の存在は他球団に対し大きな差をつける決め手となり得るからだ。今季の各ポジションについて、打者の攻撃力を計る指標である”OPS”(On-base Plus Slugging/出塁率と長打率を合算した指標)の平均を見ていくと、一塁手が最も高く、捕手は最も低いことがわかる。

<NPBにおけるポジション別平均OPS>

  一塁手 0.821
  右翼手 0.801
  中堅手 0.793
  左翼手 0.782
  指名打者 0.759
  三塁手 0.758
  二塁手 0.714
  遊撃手 0.664
  捕手 0.624

 

もしOPSが.900の選手がいたとして、その選手が一塁手だった場合、平均につけられる差は.079に過ぎないが、捕手だった場合には.276の差がつけられる。こうした点から「強打の捕手」は「強打の一塁手」より大きな意味を持っているといえる。會澤(OPS .929)や森(OPS .901)を擁する広島や西武は、このメリットを存分に得ているのだ。

他のポジションに比べ捕手の打撃が振るわない理由は、捕手に求められる守備技術の高さにあるとみられる。選手の獲得、起用において、守備のスキルが打撃技術の良し悪しよりも優先されているのだろう。また他のポジションでは行われる外国人選手による補強がほぼ発生していないことの影響もありそうだ。

強打の捕手の不在。失われた15年

捕手の打撃が平均的な打者のレベルを割る状況は長期的に続いているが、その度合いは年度によって異なる。過去15年の捕手の打撃成績を振り返ってみる。

<捕手のOPSの推移>

  年度 捕手 NPB平均
  2004 .766 .784 .018
  2005 .667 .744 .077
  2006 .639 .716 .076
  2007 .667 .720 .053
  2008 .656 .726 .070
  2009 .636 .724 .089
  2010 .683 .742 .059
  2011 .567 .651 .084
  2012 .611 .655 .044
  2013 .639 .705 .066
  2014 .592 .716 .124
  2015 .582 .689 .107
  2016 .591 .703 .113
  2017 .599 .702 .102
  2018 .624 .731 .107

 

2004年は平均に迫る数字を記録している。この年は打者が全体的に好成績を残したシーズンだったが、捕手も阿部慎之助(巨人)、城島健司(ダイエー)、古田敦也(ヤクルト)、矢野輝弘(阪神)、高橋信二(日本ハム)といった面々が活躍を見せ、捕手を貧打のポジションとは呼ばせない状況をつくり出していた。

しかし、その後は2005年をもって城島がシアトル・マリナーズへ移籍。2007年には古田が、2010年には矢野が引退し、強打の捕手は徐々にNPBから姿を消していく。一方で、それに代わる存在は台頭せず、捕手の打撃レベルは下がっていった。

そして、強打の捕手の看板を一人守ってきた阿部が一塁手としての出場を増やし始めた2014年からは、さらに捕手の打撃レベルは下がった。その結果、ここ数年は得点力を高める上で、捕手の好成績が効果を生み出しやすいシーズンが訪れていたのである。そんなタイミングで、捕手の配置に成功し、他球団を出し抜いたのが広島と西武だったというわけだ。

會澤、森の今後次第では、捕手の打力への再評価も

広島も西武も強打者を揃えており、石原慶幸、炭谷銀仁朗という打撃以外の部分で定評を得ている捕手もいる。そのため、キャッチャーの打力にこだわらずに戦うこともできる状況にあった。森については指名打者に固定して起用するという選択肢もある。

しかし両チームの首脳陣は、強打の捕手で差を生み出すことを選んだ。こうした判断を下したチームがペナントレースを優位に進めている事実は今後、他のチームの意思決定にも影響を与えるかもしれない。會澤と森が優勝戦線、またポストシーズンで残すインパクト次第では、長らく守備偏重だった捕手に対する求めに変化がもたらされる可能性もある。

(数値は全て8月21日現在)

DELTA・秋山健一郎