NHLに新たな道を切り拓くアジア系選手たち:ジェイソン・ロバートソン、ニック・スズキ、マット・ダンバ

Bryan Murphy

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5月はアジア及び太平洋諸島出身の人々が米国の歴史と社会にはたした役割を認識するための月間である。 スポーティングニュースではNHLで活躍するアジア系選手たちを紹介する。

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リンク内外でインパクトを生み出しつつあるNHLのアジア系選手たち

マット・ダンバが子どもの頃に憧れた選手はポール・カリヤだった。

カリヤはマイティダックス・オブ・アナハイム(現アナハイム・ダックス)とセントルイス・ブルースでプレイした元スターで、当時では珍しいアジア系のNHL選手だった。後にアジア系としては史上初となるNHL殿堂入りもはたした。

ダンバの最も幼いときの記憶のひとつにカリヤについての本を読んだことがある。そこにはカリヤとその家族が日系人であることで受けた様々な苦難が書かれていた。

「最初の数章はカリヤの家族についてでした。彼らはバンクーバーで強制収容所に抑留されたのです。ひどい話でした」と、ダンバは2020年にNBCとのインテビューで語っている。

「その後はカリヤがメイン大学とNHLで成し遂げた素晴らしいキャリアについての話が続きました。私は15歳になるまでずっと、カリヤのようにメイン大学に行ってホッケーをやろうと真剣に考えていました。カリヤこそ真の開拓者で、ヒーローです」とダンバは続けた。

現在のダンバはミネソタ・ワイルドでプレイするディフェンスだ。カリヤに憧れたことは偶然ではない。フィリピン系であるダンバは数少ないアジア系のバックグランドをもつNHL現役選手のひとりなのだ。

ダンバや他のアジア系選手たちは、かつての立場とは逆に、今では自分自身が子どもたちの目指す目標となるチャンスを手にしている。

NHLにはアジア系選手は多くはない。しかし彼らはリンクの中でも外でも大きなインパクトを生み出しつつある。

フィリピン系のジェイソン・ロバートソンはダラス・スターズのウィングである。日系人のニック・スズキはモントリオール・カナディアンズのキャプテンだ。この2人を筆頭として、カイラー・ヤマモト(日系)、デビン・ショア(フィリピン系)、キーファーとコール・シャーウッド兄弟(日系)、ヨナス・ジーゲンターラー(タイ系)、ディラン・シクラ(日系)、そしてジュジャール・カイラ(パンジャーブ系)といった名前が挙げられる。

NHLにおけるアジア系選手はまだ大きなグループとは言えないが、その人数は着実に増えつつある。そして彼らに憧れる子どもたちも増えている。

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ジェイソン・ロバートソン

ロバートソンは2017年ドラフトで指名されたとき、彼と似たような外見を持つ子どもたちが憧れるロールモデルになるチャンスを手に入れたと思った。

「ドラフトで指名されたとき、私の家族、父母に言われました。私はロールモデルになるのだと。私にできたことで、私に似たバックグランドを持つ人たちが自分にもできると考えるだろうからです。私はそれまでそんな風に考えたことはありませんでしたが、それ以来ずっとそうなれるように頑張ってきました。それは私にとって重要で、本当に特別なことなのです」と、ロバートソンは2021年にNHL公式ウェブサイトのインタビューで語った。

ロバートソンはスターズのウィングとして、瞬く間にチームを代表とする選手のひとりに成長した。それだけではなく、NHLの若手選手の中でも指折りの存在である。

ロバートソンの名声は上がり、その恩返しをするチャンスも増えた。2021年にロバートソンは2人のファンに特別なプレゼントを贈ることができた。

ロバートソンの父であるヒュー氏が2021年にスターズの観戦に訪れた1人の父親と2人の娘のことをNHL公式ウェブサイトで語ったことがある。2人の女の子は日本人で、それまでアイスホッケーの試合を見たことがなかった。

彼女たちはすぐにアイスホッケーに夢中になった。

「ジェイソンの叔父がその父親の親友でした。だからジェイソンは観戦チケットを彼らに贈ったのです。その女の子たちはそれまでアイスホッケーを一度も見たことがありませんでした。その日のジェイソンもスターズも良い試合をしました。翌日に私たちは父親からテキストメッセージを受け取りました。12歳の子は将来NHLの選手になりたいと父親に言ったそうです。10歳の子はアイスホッケーの大ファンになって、これからもスターズの試合は全部観たいと言ったそうです」と、ヒュー氏は言った。

ロバートソンはこのときの感動を今でも忘れていない。「あのことはとても嬉しかったです。私にとって特別な瞬間でした」とロバートソンは言った。

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マット・ダンバ

(Getty Images)

自分が歓迎されていないと感じるスポーツに参加することは容易ではない。

アイスホッケーは主に北米とヨーロッパで白人中心のスポーツであることで知られている。ダンバは子どもの頃からそのバリアを感じてきた。

「相手チームの選手から人種差別的な言葉を投げかけられたことも、私がアイスホッケーに相応しくないと言われたこともあります。私はそうしたことを自分の中に溜め込んできました。誰に相談すればよいか分からなかったし、家族にいつも心配をかけたくなかったからです」と、ダンバは子どもの頃に受けた人種差別について語った。

残念なことに、そうしたことは現在でも起こっている。アイスホッケー界のあらゆる場所で人種差別に関するニュースは後を絶たない。

ダンバはそれを変えたいと思っている。

ダンバの家庭環境は極めて多様性に満ちていた。母は7人の養子のひとりとして育ち、彼らはすべて人種もバックグランドも異なっていたのだ。彼ら家族が乗り越えなくてはならなかった差別や不正義をダンバはその目で見てきた。

「私が今でも人種差別に立ち向かう理由はそこにあると思います。私が(祖母から)受け継いだものなのです」

ダンバが『アイスホッケー多様性連盟』(Hockey Diversity Alliance)の共同創設者のひとりになったのはそのためだ。アイスホッケーのなかにある人種差別と闘うことを目的として、現役選手と元選手たちが作った組織である。2020年に設立され、他のメンバーにはナゼム・カドリ、アンソニー・デュクレア、イベンダー・ケイン、ウェイン・シモンズといった有色人種のNHL選手が含まれている。

連盟は多くの会社や組織と連携して、アイスホッケーの発展に力を注いでいる。それまでアイスホッケーが行われていなかったコミュニティにも働きかけ、新たな多様性のある選手やファン層を育てようとしている。

「私はこの連盟を通して声を上げたかったのです。かつての私と同じように苦しんでいる子どもたちに届くように。彼らと同じように苦しみ、そして彼らのために声を上げ、味方になる人間がここにいることを知らせたかったのです」と、ダンバは『スポーツネット』とのインタビューで語った。

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ニック・スズキ

(Getty Images)

スズキもまたNHLのスターダムを駆け登っている若手選手のひとりだ。2022年の秋にはカナディアンズの第31代目となるキャプテンに任命された。"Habs"の愛称で呼ばれるこのチームは現在再建の途上にあり、スズキはその中心となる存在だ。

スズキは日本人の子どもたちにとってロールモデルとなる役割も担えるようになった。

2020年にスズキは日本の少年アイスホッケー選手たちと出会う機会を得た。日本選抜チーム『ジャパン・セレクト』がナダのケベックシティーで毎年開催されるケベック国際ピーウィー・ホッケー・トーナメントに選手を派遣したときのことだ。

スズキはその若い選手たちと交流する機会を持ち、日本から海外へとやってきた彼らに強い影響を与えた。

「あの子たちが目を輝かせて私を見てくれたことはとても特別な出来事でした。彼らがNHLでプレイする日が来ることを願っています。彼らに影響を与えることができたなら嬉しいです。若い世代の手本になれたらと思います。日本には私と同じラストネームを持つ人がたくさんいることを知っています。子どもたちも私に気づきやすいでしょう。彼らのロールモデルになれることは大きな意味を持ちます」と、当時スズキはNHL公式サイトに語っている。

「子どもたちは日本にルーツを持つニック(スズキ)に会えたことでとても興奮していました。彼は日本人コミュニティの誇りです。子どもたちはカナディアンズの帽子とスズキのTシャツを買って帰りました。皆がNHL選手になることを夢見ていて、たくさんの質問をしたかったようです」と、ジャパン・セレクトのヘッドコーチである黒川太郎氏は言った。

NHLはアジアへ広がろうとしている。2017年と2018年には、中国でプレシーズン戦を開催した。

NHLが北米以外の地域へと発展を続けるなか、スズキはアジアでその役割を担いたいと考えている。現地へ赴き、ファンと直接会うことも、スズキが関わりたいと思う活動の一部だ。

「将来、多くの(日本から来た)子どもたちと氷の上に立ちたいと思います。そこで彼らの役に立ちたいのです。日本だけではなく、アジアのあらゆる場所で、子どもたちがアイスホッケーをしている動画を見ました。このスポーツは確実に成長しています。そしてNHLは中国で試合をすることを続けるでしょう。そのことは多くの変化をもたらすと思います」と、スズキは言った。

原文: How Jason Robertson, Nick Suzuki and Matt Dumba are paving a path in the NHL for players of Asian descent
翻訳:角谷剛

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Bryan Murphy

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Bryan Murphy joined The Sporting News in 2022 as the NHL/Canada content producer. Previously he worked for NBC Sports on their national news desk reporting on breaking news for the NFL, MLB, NBA and NHL, in addition to covering the 2020 and 2022 Olympic Games. A graduate of Quinnipiac University, he spent time in college as a beat reporter covering the men’s ice hockey team.