【NFL】“膝突き抗議”のキャパニック、QB難のジェッツに振られるも最後のチャンスを求めてカナダ行きか

David Suggs

石山修二 Shuji Ishiyama

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欲しいのはたった一度のチャンス。元サンフランシスコ49ersのクォーターバック(QB)コリン・キャパニックが望むのはそれだけだ。

彼のフットボールにかける情熱は今も変わっていない。だからこそ、ニューヨーク・ジェッツが開幕戦でエースQBアーロン・ロジャースを故障で失い、後釜に苦心していると、キャパニックはチームの軌道修正に力を貸したいと自らコンタクトした。

キャパニックが現役生活を離れてから、すでに5年以上の歳月が経っている。だが、今のNFLを見渡しても、正直キャパニックと比べたら見劣りするのではないかと思われるような選手も少なくない。それだけに、キャパニックがこの機会に過去のトラブルを精算し、最後の挑戦をしたいと考えることに何ら不思議はないだろう。

ここでは、キャパニックのこれまでのキャリア、NFLを離れた経緯、そしてNFL復帰の可能性を紐解いていく。

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キャパニックが書いた手紙

人気ラッパーのJ.コールがインスタグラムにあげた手紙は、キャパニックがジェッツのゼネラルマネージャー(GM)ジョー・ダグラスに宛てたもの。アーロン・ロジャースのアキレス腱断裂後に出された手紙には、キャパニックが今どのようなトレーニングを続けているか、経験のあるベテランQBとして何をチームにもたらすことができるか、特に今NFLを席巻している「走れるQB」への対応をする上で、自分がどう役に立てるかを説明している。

「プラクティス・スクワッドを率いる機会が得られるなら、これほど光栄なことはなく、心から感謝します。もしチームに加われるなら、ディフェンスを毎週準備万端に仕上げること、これが自分に課せられた使命だと考えています」

そう、キャパニックが求めているのは、スタートQBとしてプレーすることではなく、あくまでもプラクティススクワッドの一員として、第3QBのポジションだ。

キャパニックは、ジェッツ・ディフェンスの準備役として自分がいかに適しているかを次のように掘り下げている。プラクティス・スクワッドでの契約であれば、ジェッツはわずかなリスクでキャパニックの今の力を推し量ることができる。そして、キャパニックの言う通り、評価の高い「ギャンググリーン」のディフェンスが翌週のゲームへの準備をする上で、特にモバイルQB対策を考える上でうってつけの相手でもある。ウィン-ウィンのシチュエーションだとキャパニックは言う。

「ザック・ウィルソンがペースを取り戻し、あなたが作り上げたチャンピオン・クラスのチームをスーパーボウルまで導いてくれることこそジェッツにとっての理想でしょう。しかし、そうならなかったときのために、ローリスクな代替案として自分を使って欲しいと考えているのです」

結局、キャパニックの思いはジェッツに届かず、ジェッツは9月26日にバックアップQBとしてNFLでプレーしてきたトレバー・シーミアンをプラクティススクワッドの一員に加えた。これで、ジェッツのQBのデプスチャートは、ウィルソンを筆頭に、ティム・ボイルとシーミアンがバックアップを務めることに。正直なところ、目を引くラインアップだとは言い難い。

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なぜキャパニックはNFLを離れたのか?

キャパニックはNFLで数々の成功を収め、2012年にはスーパーボウルにあと一歩のところまでチームを導いている。その強肩と機動力を武器に、2010年代にはNFLを席巻する「ダブルスレット(パス能力とラン能力の両方を持った)QB」の先駆け的存在として活躍した選手だ。

サンフランシスコ49ersのスターティングQBとしての戦績は28勝30敗。決して安定したプレーヤーというわけではなかったし、通算のパス成功率は60%にも満たない。だがそうした数字以上に、2012年のプレーオフ、グリーンベイ戦で見せたような、ここ一番の勝負所で光るビッグプレー・メイカーとしての能力がキャパニックには備わっていた。

順風満帆に思われたキャパニックのキャリアが壁にぶち当たったのは2016年のこと。キャパニックが警官による暴行事件、組織的な人種差別に抗議すべく、試合前の国歌斉唱で起立せず、片膝をついたことに端を発している。そのシーズン終了後、プレーオフ経験を持つダブルスレットQBとして新天地を求めるべく、1年残っていた契約からオプトアウトした。だが、リーグ内での反応は皆無。キャパニックよりも見劣りするQBが契約を手にしていく一方で、キャパニックにはどこからのオファーも来なかった。

各チームのフロント・オフィスは、キャパニックを獲得することに猛反対しているという報道もされていた。フロントスタッフはいわば支配者層、キャパニックが抗議の声を挙げた相手である警察や国といった組織に守られている立場だと考えれば、それも不思議はないと考えられる。

結局、キャパニックがどれだけ頑張ってもその元にオファーが届くことはなく、月日だけが過ぎ去っていった。その間リーグは、あらゆる手をつくしてこの問題を消し去ろうとしていた。Jay-Zのような存在を隠れ蓑にしながら、平等やインクルーシビティ(包括性)を実現していく組織としてのNFLをアピールしたのもその一例だ。だが、世の中の印象は変わらず、キャパニックの一件は、いまだリーグに大きな汚点を残している。

当のキャパニックは、というと、NFLのフィールドを離れても立ち止まることはなかった。書籍の出版やドキュメンタリー、Nerflixドラマ「コリン・イン・ブラック・アンド・ホワイト」など様々なメディアを通じて自らのストーリーを伝える一方、オークランドの人々のニーズに応えるニューアフリカン(黒人)による社会主義活動団体「People's Program」をはじめ、黒人解放に取り組むいくつもの団体と共に活動してきた。また、2016年にNIKEの広告に登場した際には、同社の売り上げが急上昇するなど、彼に対する世の中の支持には根強いものがある。

それでもフットボールはキャパニックにとってはやはり特別なもの、彼のフットボールに対する愛情は未だ衰えていない。2017年以降、すっかりNFLとは疎遠になっていたが、昨年5月にはラスベガス・レイダーズの練習にも参加。チャンスがあればプレーしたい意向は強く持ち続けている。

そんなキャパニックの思いに呼応するように、9月29日にはCFL(カナディアン・フットボール・リーグ)に所属するブリティッシュコロンビア・ライオンズがキャパニックを契約リストに載せたとのニュースが飛び込んできた。CFLでは、サインする前段階として契約リストに載せることが必須であり、ライオンズ側のキャパニック獲得への関心をうかがうことができる。

過去を見ても、CFLからNFLへのジャンプアップというルートがないわけではない。キャパニックのダイナミックなプレーが脳裏に焼き付いているファンとすれば、11月のグレイカップまで続くCFLのシーズンの中で現在の力をアピールし、NFL復帰の切符を勝ち取って欲しいという思いもあるだろう。

だが、これまで何度も指摘されてきたように、キャパニックのNFL復帰を阻むものがその実力の評価ではなく、リーグの意向だとすれば、キャパニックがどれだけ活躍したところで、本当にそのチャンスが巡ってくるかどうかは疑問が残るところだ。

いずれにしても、最後の挑戦に向け、キャパニックに残された時間も選択肢も決して多くない。NFLへの扉をこじ開けるべく、カナダ行きを決断するのか、その動向が注目される。

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キャパニックのNFL最後の試合

キャパニックが最後にNFLでプレーしたのは2017年1月1日、パス22本中17本成功で215ヤード、1タッチダウンを獲得したが、25-23でシアトル・シーホークスに敗れた。サンフランシスコでプレーしたこの年、パス・ランを合わせたスクリメージラインからの獲得ヤードは計2,700ヤード、18タッチダウン(パス16、ラン2)、喫したインターセプトは4本のみだった。

49ersにとっては厳しいシーズンだった。キャパニックがプレーした試合は1勝10敗と大きく負け越していたし、報道によれば、GMジョン・リンチはこれまでスターターを務めてきたキャパニックを放出し、よりチームにフィットする新しいQBを探そうとしていたという。

キャパニックがNFLを離れて以降、キャパニックがNFLでの契約を提示されないのは、組織的人種差別に対する彼の抗議、それがNFLのビジネスに与える潜在的影響が原因だという意見が大勢を占めた。NFLのコミュニケーション部門元副社長ジョン・ロックハートも2020年、CNNの特別コラムで次のように書いている。

「コリン・キャパニックの事件でNFL全体が疲弊してしまった。キャパニックほどの才能を持った選手であっても、問題を巻き起こす選手、ビジネスに悪影響を与える選手であれば、サインしたいと考えるチームはなかった」

キャパニックの年齢

かつてはリーグ屈指のダイナミックなQBと恐れられたキャパニックも今や35歳、今年11月には36歳になる。NFLに復帰したとすれば、マット・ライアン(インディアナポリス・コルツ)の3個下、リーグでも上から数えたほうが早い高齢のQBとなる。

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キャパニックのキャリア・スタッツ

現役時代のキャパニックの活躍ぶりは確かなもので、シーミアンには申し訳ないが、スタッツ的にも比べ物にならない結果を残している。主だったスタッツは以下の通り(Pro Football Reference 提供) 

シーズン パス獲得ヤード TDパス インターセプト ラン獲得ヤード TDラン
2011 35 0 0 -2 0
2012 1,814 10 3 415 5
2013 3,197 21 5 524 4
2014 3,369 19 10 639 1
2015 1,615 6 5 256 1
2016 2,241 16 4 468 2

NYジェッツ QB デプス・チャート

アーロン・ロジャースの負傷後、現時点まではザック・ウィルソンがジェッツのナンバー1QBで、ティム・ボイル、トレバー・シーミアンが続いている。

1 ザック・ウィルソン
2 ティム・ボイル
3 トレバー・シーミアン

※この記事はスポーティングニュース国際版の複数の記事を基に日本向けに一部編集を加えたものとなります。
参考1:Colin Kaepernick letter: Blackballed QB asks Jets to add him to practice squad amid Zach Wilson struggles
参考2:Is Colin Kaepernick returning to football? CFL team adds former NFL QB to negotiation list
翻訳・編集:石山修二(スポーティングニュース日本版)

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David Suggs is a content producer at The Sporting News. A long-suffering Everton, Wizards and Commanders fan, he has learned to get used to losing over the years. In his free time, he enjoys skateboarding (poorly), listening to the likes of Stevie Wonder, Marvin Gaye and D’Angelo, and penning short journal entries.

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スポーティングニュース日本版アシスタントエディター