アーロン・ロジャース(グリーンベイ・パッカーズ)は直近2シーズン連続で最優秀選手賞(MVP)を順当に受賞した。しかし、2022年の様相は異なってくるかもしれない。かつてパッカーズには3年連続でMVPを受賞したブレット・ファーブという名選手がいたが、それは25年も前の話だ。ロジャースがその偉業に並ぶにはあまりにも多くの競争相手が立ちはだかっている。
ロジャースは次のシーズンでも依然としてMVPの有力候補ではある。しかし、2018年同賞受賞者のパトリック・マホームズ(カンザスシティ・チーフス)に加えて、2人の若い選手が初受賞を狙っている。ジョシュ・アレン(バッファロー・ビルズ)とジャスティン・ハーバード(ロサンゼルス・チャージャーズ)である。
ほとんどのスポーツブックメーカーで、アレンが最有力候補に挙げられている。しかし、ライバルのハーバードを推すサイトもある。『FanDuel』のオッズを見ると、アレン(+700)の次にマホームズとトム・ブレイディ(タンパベイ・バッカニアーズ)が+800で並び、ハーバードとロジャースがともに+1000で、トップ5を構成している。
アレンやマホームズに比べると投資対効果が高いというだけではなく、ハーバードを有力な候補者とするだけの要因は数多くある。なぜハーバードがこの両人よりMVPに近いかを詳細に説明していこう。
ジャスティン・ハーバードを最有力候補に留める2つの大きな数字
ハーバードは2021年に5014パッシング・ヤードを記録した。これはブレイディに次いで2位である。タッチダウン・パスは38個で、これはブレイディとマシュー・スタッフォード(ロサンゼルス・ラムズ)に次ぐ3位だ。
2022年はハーバードがパスの主要カテゴリー2つでトップになる可能性は高い。あるいは40タッチダウン・パスの大台に到達するかもしれない。ブレイディとスタッフォードはどちらもパスの得点能力は下り坂であると考えるのが妥当だ。
ハーバードは昨シーズンのパス平均ヤードは7.5だった。それを上回ったのはロジャースのみである。マホームズ(7.4)とアレン(6.8)より上だったのだ。
NFL専門メディア『Pro Football Focus』の評価では、ハーバードは4位のクォーターバック(QB)である。ジョー・バロウ(シンシナティ・ベンガルズ)、ブレイディ、アレンに次ぎ、ロジャースよりひとつ上の位置にある。米スポーツ専門メディア『ESPN』によるQB総合評価指数(QBR)では、ハーバードの数値は65.6で、それを上回るのはロジャースとブレイディだけだ。
ハーバードの2021年をどのように見ても、リーグ屈指のパッサーであることに疑いの余地はない。
ジャスティン・ハーバードの評価をさらに高めることができる2つの大きな数字
ロジャースが2年連続で受賞し、ブレイディが2位だったことには大きな理由がある。2人ともインターセプトされた数が一桁だったのだ。ロジャースは37個のタッチダウンに対して4個のインターセプトだった。ブレイディは43個のタッチダウンに対して6個のインターセプトだった。2020年のロジャースはタッチダウン48個に対して5個のインターセプトという驚異的な比率で、文句なしの受賞を果たした。
元パッカーズで現在はチャージャーズに所属するコーリー・リンズリー(センター)が最近ラジオ局のインタビューでハーバードとロジャースを比較し、周到な準備と完璧さを求める意識において、2人には多くの類似点があると述べた。
ハーバードのインターセプト数は15個で、これはアレンと並んでNFLで3番目に多かった。アレンのタッチダウン・パス数は36個である。マホームズは37個のタッチダウンに対して13個のインターセプトだった。ハーバードは1試合に2個以上のインターセプトを喫したことが昨シーズンに4回あり、これを無くすことがターンオーバー比率を下げるために必要である。
もうひとつの鍵となる数字はパッサー・レイティングだ、ロジャースはこの分野でリーグトップだったことが、2年連続のMVP受賞に繋がった。2019年にMVPを受賞したラマー・ジャクソン(ボルチモア・レイブンズ)の数値は113.3であったし、マホームズが2018年に同賞を受賞したときの数値は113.8だった。2017年受賞のブレイディの数値はやや低めの102.8だった。
ハーバートは1年目の数値が98.3、2年目は97.7とかなり低い。昨シーズンはマホームズに次いで11位だった。しかしアレンは16位だったのだ。ジョー・ロンバルディ(チャージャーズの攻撃コーディネーター)のシステム下で、インターセプト数を10くらいに減らし、そしてパス成功率を68%まで高めることは可能である。そうすれば、タッチダウン・パスの数を大幅に増やすことを云々する前に、MVPに相応しいパッサー・レイティング数値を得ることができるだろう。
アレンはもっとラン攻撃を増やすことに意欲をもっている。ジャクソンやキャム・ニュートン(カロライナ・パンサーズ)のようにもっとランを多用するQBもいる。しかし、MVPは受賞者のほとんどがQBであり、依然としてパッサーをより高く評価する賞である。
ジャスティン・ハーバードへ有利に働く連続性
マホームズはタイリーク・ヒル(ワイドレシーバー)とマイク・カフカ(元QB・コーチ)を失ったことからの影響は免れないだろう。アレンもまたブライアン・デイボール(元攻撃コーディネーター)を失い、ビルズの攻撃ライン陣には不安材料がある。
ハーバードは主要な攻撃メンバーをひとりも失っていない。ロンバルディ指揮下での2シーズン目に臨み、ラショーン・スレイター(タックル)に率いられた攻撃ライン陣は強力だ。ハーバードをサポートする布陣はこれ以上望むことはできないだろう。
MVPは個人賞ではあるが、それと同時にチームのサポートは重大な要素だ。ジャクソンとマホームズが受賞した過去4回はいずれも理想的なチーム環境にあった。それと同じような状況が2022年のハーバートには期待させる空気がある。そのことがハーバードのMVP受賞を完成させるために残ったただひとつの要素である。
ジャスティン・ハーバードに必要とされるチームへの貢献
ハーバードのチャージャーズは昨シーズンを9勝8敗で終え、プレーオフ進出を逃した。第18週目でAFC西地区のライバルであるラスベガス・レイダースに負けたことが大きく響いた。この結果はハーバードがMVP候補にならなかったことの大きな理由でもあった。
チャージャーズはスーパーボウル57の優勝予想オッズはNFLで6位である。AFCチームとしては3位だ。容易に予想がつくだろうが、チャージャーズの上を行くのは、アレンのビルズとマホームズのチーフスである、
ロジャースのパッカーズは直近2シーズン連続で13勝である。ジャクソンのレイブンズ(14勝2敗)とマホームズのチーフス(12勝4敗)も華々しい記録だ。シーズン勝利数が10以下だったチームに所属する選手がMVPを受賞した最後のシーズンは10年前になる。ミネソタ・バイキングスのランニングバックだったエイドリアン・ピーターソンはシーズン2,097ヤードのラッシュを記録し、クォーターバックに偏重したMVPを受賞した。
チャージャーズの勝利数は10.5と予想されている。チーフスと同じ予想だ。ビルズはそれより1勝多く予想されている。AFC西地区にはラッセル・ウィルソンを擁するデンバー・ブロンコスとデレック・カーを擁するレイダースがいる厳しい地区でもある。チャージャーズが仮に11勝6敗であっても、この地区を制することができれば、ハーバードのMVP受賞を大きく後押しするだろう。
AFC西地区を制することはマホームズからMVPを遠ざけることにも繋がる。そうなるとハーバードのライバルはアレンに絞られる。ラッシュ攻撃でアレンに大きく差をつけられないようにできるかが焦点になる。
オッズから見ると、ロジャースの連続受賞を予想する声は少ない。そうなるとほかに最高の価値を持つQBを探した方がよいだろう。しかし、バロウとダック・プレスコット(ダラス・カウボーイズ)のオッズは+1200ではっきり見劣りするし、トレイ・ランス(サンフランシスコ・49ers)は人気者だが、オッズは+4000で問題にならない。
ハーバードは才能、数字、可能性、そしてオッズのどれをとってもMVP最有力候補である。ロジャースとの比較で優位に立つための究極のステップはMVPの後継者になることだ。
(翻訳:角谷剛)
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