今日のNFLでは、ハードヒットを行うセーフティの選手は絶滅危惧種となっているのだろうか? カム・チャンセラーの半公式の引退発表によって、その考えはGM、コーチ、スカウト陣の中で更に強まったことだろう。
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崩壊した“リージョン・オブ・ブーム”(編注:シーホークスのセカンダリーの愛称)の一員で、最も驚異的な選手であったチャンセラー。彼によると、最近撮影したCTスキャンで、昨年11月のカーディナルス戦で負傷した首のケガがまだ完治していないことが分かったという。シーホークスのコーチを務めるピート・キャロルが、4度のプロボウル出場経験を持つセーフティである彼のキャリアが幕を閉じる可能性について、今オフ中に何度も言及していたが、このニュースはそれを裏付けることとなった。
チャンセラーのような力強く屈強な選手は負傷しにくいという考え方が一般的だ。身長191センチメートル、体重105キログラムの彼の近くでは、対戦チームのレシーバー、タイトエンド、ランニングバックたちは近年の他の選手と対戦するときと比べて走行ルートに注意を払っていた。
彼は、リーグで最もスピードがあったり、身体能力が優れていたりするセーフティではなかった。シーホークスの2名のセーフティの中ではアール・トーマスの方が常に滑らかで洗練されていた。チャンセラーのプレースタイルは、創設初期のフットボールの方がうまく順応できたかもしれない。当時はレイダーズのジャック・テイタムのような激しいヒッターがセカンダリーを巡回しており、ベアーズのディック・バトカスやスティーラーズのジャック・ランバートが持ち場であるラインバッカーのポジションから強烈なヒットを行っていた。チャンセラーは、そうしたラインバッカーに非常によく似ていたのだ。
今日のフットボールは、当時とは異なる。選手の安全性という面では向上したが、チャンセラーのような選手にとっては困難な状況を作り出している。
チャンセラーのような選手に起こっていることを考慮すると、もし私が今もGMを務めていたら、ハードヒットを行うセーフティをドラフトで指名することや契約することに臆病になっていただろう。現在のルールは、規則違反のヒットを理由にこうした選手に出場停止処分を下す傾向がある。また、彼らはケガのために時間を無駄にすることが多い。選手の不在はチームに悪影響を及ぼし、選手のキャリアを縮めることになるだろう。
近年のNFLでハードヒットを行い、形勢を一変させることができたセーフティの選手を考えると、チャンセラー以外には2名の選手が思い浮かぶ。スティーラーズ時代のトロイ・ポラマルと、コルツ時代のボブ・サンダースだ。両者はともに身長177.8センチメートル以下と、チャンセラーよりも小柄だ。だが、彼らはフィールド全体を駆け回り、対戦相手を激しいヒットで痛めつけてきた。プロボウルへの複数回出場者であり、スーパーボウル覇者でもある。
しかし、彼らの絶え間ないアプローチは、彼ら自身にも身体的被害をもたらしていた。ポラマルはキャリア終盤の6年間で26試合に欠場している。そして、サンダースが7試合以上出場したのは全キャリア8シーズン中でも2シーズンのみだ。ポラマルの向こう見ずなプレースタイルが、必ずしも彼のキャリアを縮めたとは言えない。彼は12シーズンもプレーしているからだ。しかし、サンダースに限って言えば、まさにそれが当てはまるだろう。あのトーマスでさえ、この2シーズンはケガの影響を受けるようになってきている。
シーホークスのジョン・スナイダーGMや、ハードヒットを行うディフェンシブバックの選手たちと契約した他のチームの重役たちにとっては、こうしたリスクとそれによって得られる見返りとを計算することが難問となる。チャンセラーはドラフト5巡目指名の無名選手としてNFLに入ってきたが、ヒットの技術と高い評価を武器に、偉大な選手へと成長を遂げた。
彼がもっと受動的なタックラーだったら、彼は違ったセーフティになっていただろうか? 今のような攻撃的なプレースタイルでなかったら、1年間当たり1200万ドルも稼ぐセーフティになれていただろうか?
今年で30歳になったチャンセラー。彼のキャリアを終わらせたケガが彼を襲った瞬間に、昨年交わした3年間の契約延長は施行されないこととなった。彼の正式な引退は、負傷者用の補償金が支払われてからとなる。彼にとっては幸運なことに、その額は2018年に680万ドル、2019年に520万ドルにもなる。
これらの数字はスナイダーGMにとってまた別の難問となるだろう。これから2年間に渡って、この予期していなかったサラリーキャップの問題に対処していかなくてはいけないのだ。
期待されているのは、すべての選手が高校や大学のレベルから適切なタックルの技術を習得してトレーニングを行えることだ。この技術はNFLに入ってから更に重要視されることになる。しかし、進入角度が悪かったり不運に見舞われたりして、適切な技術をもってしても時としてケガにつながることはある。
チャンセラーがケガをした場面では、カーディナルスのランニングバック、アンドレ・エリントンの9ヤードのレセプションの後に通常通りのタックルを仕掛けたように見えた。しかし、チャンセラーはゆっくりと立ち上がり、その後のワンプレーを終えるとフィールドから去った。試合後、焦点が当てられたのはリチャード・シャーマンのシーズン終了を告げるアキレス腱断裂だった。
チャンセラーとシーホークスは、その後すぐにケガが壊滅的な度合いであることを知る。
「11月に医師からケガの程度を知らされた時、心臓が落ちたようにすら感じた」チャンセラーは最近、自身のツイッターにてそう語った。「首の凝りと、医師に見せてもらった画像は、僕をどん底に突き落とした。自身の選択によって現役を退くのと、マヒの危険を理由に退くのとでは意味合いが異なる。次の章へと進む時間だ」。
皮肉にも、キャロルコーチが指揮するシーホークスは、講義とビデオによって選手とフットボール界へ安全なタックルを広めていた最初のチームの一つだった。しかし、彼らのスター選手の一人が、持ち前の性格に応じて攻撃的にプレーしたため、道半ばで引退することとなってしまった。
現時点でスナイダーGM、キャロルコーチ、他チームとNFLの重役たちにできることは、チャンセラーに起きたような事態を防ぐためにも、選手たちを可能なかぎり負傷させない努力を続けることだけだ。
筆者プロフィール
ジェフ・ダイヤモンド:ヒューストン・テキサンズの元プレジデントで、ミネソタ・バイキングスの元副プレジデント兼GM。NFL最優秀役員賞を1998年に受賞。現在、ビジネスとスポーツのコンサルタントを務める傍ら、テレビやネット上のメディアでも活動。法人や市民団体への公演活動や、「交渉とスポーツビジネス/スポーツマネジメント」について大学での講義も行っている。ザ・イングラム・グループの元会長兼CEO。
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原文:Kam Chancellor among last of dying breed in NFL
翻訳:日本映像翻訳アカデミー