スーパーボウル7回制覇のトム・ブレイディ(44歳)を見て、彼がテニスプレイヤーの大坂なおみ(23歳)とオリンピック体操選手のシモーネ・バイルス(24歳)が苦しんでいるメンタルヘルスの問題を理解できるとは想像し難いかもしれない。
ブレイディは米大手全国紙『USA Today Sports』の取材に応じ、彼女たちの年齢で成功することによって引き起こされるプレッシャーと向き合うことの大変さどのようなものかを理解していると述べた。
「あるレベルの成功を収めると、それによって自分の周りで様々なことが引き起こされる。それに向き合うことはとても難しい。家族との関わりも変わっていく。それでもあの年齢はまだ成長の途中なのだ。21,22,23,24歳は人間が成長していく過程で、多くのことを経験する年齢だ。そして、それを世界が見ている舞台の上で通り抜けないといけない。あの年齢には過酷すぎるほどの困難であるし、克服するには大きすぎる逆境だ」とブレイディは言った。
Tom Brady showed Naomi Osaka some love for making the tough decision to take a break from tennis amid mental health struggles. pic.twitter.com/7iGqBXFtrS
— theScore (@theScore) June 26, 2021
今年に入ってから大坂はメンタルヘルスについての話題で何回か世間の注目を集めた。まず5月に、試合後の記者会見が自身のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすという理由で全仏オープンを途中棄権した。後にウィンブルドン大会に出場しないことを発表した。東京オリンピックには出場し、全米オープンにも前回王者として出場した。3回戦でレイラ・フェルナンデスに敗れると、試合後の記者会見で現在はテニスを楽しめていないと涙ながらに語った。大坂はメンタルヘルスを改善することに専念するため、テニスから離れることを決めた。
バイルスのメンタルヘルスは2020年東京オリンピックにおいて4つの個人種目への出場を取りやめたことで大きなスポットライトを浴びた。バイルスは現在メンタルヘルスの回復に専念しており、体操競技に復帰するかどうかは不明のままだ。
大坂とバイルスがともにスポーツにおけるメンタルヘルスについて発言すると、多くの人がトム・ブレイディを引き合いに出して、彼女たちを非難した。ブレイディがメンタルヘルスを理由にしてフットボールの試合から立ち去ることは考えられない、というものだ。確かにブレイディはそれをしたことはない。だがそれでもブレイディが彼女たちの決断を尊重する発言をしたことの意味は大きい。
非難コメントの例:「メンタルヘルスが大切だってことは理解できるけど、それがチームから離れることの言い訳にはならない。トム・ブレイディが第4クウォーターの前にチームから歩き去ることを想像できるか」I get that mental health is important but it is no excuse to quit on your team. Imagine Tom Brady walking out on his team right before the start of the fourth quarter.
— Grey (@Grey_The_Great1) July 28, 2021
ブレイディは彼女たちと多くの部分で異なっている。人種も、性別も、年齢も、そしてスポーツの種類も、他にもあるかもしれない。だが、それでもブレイディは若い年齢で成功を収めることによって注目の的になることの意味を知っている。ブレイディが初めてのスーパーボウル制覇を成し遂げたときは24歳だった。そしてそれ以来ずっとスポットライトを浴び続けてきたのだ。
「僕が24歳のとき、それまで経験したことのないプレッシャーと逆境に直面した。それを克服する方法も、もちろん知らなかった。その答えを持っている人がいるかどうかも分からない。そんな若い年齢ですべてを解決できる人はいるのだろうか。44歳になっても、それは難しいことなのだ。今では妻も子どももいるし、フィールド外でも様々なことが起きる。人生とは困難の連続だ。だからこそ、人々は彼らが抱えた問題にできるかぎり健康的な方法で向き合うべきなのだ。そうすることで人は経験から学ぶことができるし、自分自身をよく知ることもできる。シモーネ(バイルス)となおみ(大坂)がそうできることを心から願っている」
ブレイディは9月9日(日本時間10日)のダラス・カウボーイとの開幕戦で自身22年目のNFLシーズンを迎える。スーパーボウル連覇をかけたこのシーズンで、ブレイディはさらに高いスタンダードを自分に課すだろう。大坂やバイルスとの大きな違いは、タンパベイ・バッカニアーズのクウォーターバックを務めるブレイディには、仮に何かが起きたとしても、バックアップしてくれるチームメイトがついているということだ。一方で大坂とバイルスがやっているのは個人スポーツだ。ブレイディはその違いを指摘し、自分が恵まれていることを認める。
「僕には素晴らしいチームメイトたちがついている。僕が調子を落としても、きっと彼らが助けてくれるだろうし、それを頼みにしている。それがチームスポーツの良い所だ。たった1人で問題に向き合うことはとても大変だと思うし、それができる人を尊敬する」とブレイディは言った。
アメフト史上最高選手がスポーツ界を揺るがすメンタルヘルスの問題について声を上げ、その矢面に立つスターたちに共感の意を表した。メンタルヘルスについての議論が消えることは当分ないだろうし、また消えてはならない。
(翻訳:角谷剛)
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