新型コロナワクチン接種を拒否したヘッドコーチを解雇ワシントン州立大学が下した決断の背景

Edward Sutelan

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ワシントン州立大学のアメフトチームでヘッドコーチを務めていたニック・ロロヴィッチは新型コロナウイルスのワクチン接種に反対する立場を公にしていた。同州では公立教育機関に勤務するすべての職員にワクチン接種を義務つけていたため、ロロヴィッチは同州職員ではなくなった。

ロロヴィッチと4人の部下であるアシスタント・ヘッドコーチのジョン・リチャードソン、攻撃コーディネーターのクレイグ・シュトゥッツマン、攻撃ラインコーチのマーク・ウェーバー、守備タックルコーチのリッキー・ロゴは10月18日付で解雇された。

オレゴニアンのジョン・カンザーノ記者は、ワシントン州がロロヴィッチを正当な理由によって解雇したと報じた。

ワシントン州立大学アスレチック・ディレクターのパット・チュンは記者会見の席上で下のように語った。

「今日ここにいるのは残念です。私たちのフットボール・チームは傷ついています。私たちの大学コミュニティーは混乱しています。私たちのチームにいる選手と残ったコーチ、そして関係者たちには忘れられない日になるでしょう。私はこのアスレチック部門のディレクターとして、2020年1月にその時点で私たちが持っていた情報を基にして、ニック(ロロヴィッチ)を雇い入れた全責任を負います。その情報にはフットボール専門家たち多数からの推薦や会話も含まれていました。私たちはワシントン州立大学フットボールを長い将来に渡って任せられる最適の人物を見つけたと信じていました。残念なことに、私たちは今日ここでその方針を変えざるを得なくなりました。多くの意味合いにおいて、この状況はワシントン州立大学の学生アスリートたちが享受するべきものではありません。世界中に散らばった、私たちの大学に誇りを持つ在学生と卒業生に対して、この数か月間に起きた混乱を招いたことを大変申し訳なく思っています」

ワシントン州立大学はシーズンここまで4勝3敗(カンファレンス内では3勝2敗)の戦績で、現在はパシフィック12カンファレンス北地区の3位につけている。今週の土曜(10月23日)にはブリガムヤング大学との対戦を控えている。スポーティングニュースはロロヴィッチ解雇の背景を探ってみた。

 

なぜワシントン州立大学はニック・ロロヴィッチを解雇したのか?

理由は明白である:ロロヴィッチと4人の部下は10月18日の期限までにワクチンを接種しなかったからである。

『アクション・ネットワーク』のブレッド・マクマーフィーがシェアした大学側の声明には、10月18日以降、すべての州立機関は新型コロナウイルスのワクチン接種が完了していない職員を職務に就かせることを禁止されている、とある。

ワシントン州立大学は守備コーディネーターであるジェイク・ディッカートを臨時ヘッドコーチに昇格させた。

ワシントン州立大学アスレチック・ディレクターのパット・チュンは大学の声明の中で、「今日は私たちのフットボール・プログラムにとって残念な日になりました。 私たちの優先事項は、常に私たちのチームとメンバーの健康と安全でありましたし、これからもそうです。 私たちのフットボール・チームの指導者陣は、私利私欲がなく、不屈の精神をもつ人格者たちで占められています。これからも彼らがこのプログラムを力強く前進させてくれることを私たちは確信しています」と述べた。

ロロヴィッチには守らなくてはならない期限が与えられていた。ワシントン州のジェイ・インスリー知事は公立高等教育機関を含む州職員にワクチン接種を義務つけた。

同州のウェブサイトによると、州職員たちは10月18日までにワクチン接種を完了することが義務付けられた。その対象は外部契約者、ボランティア、その他に州機関で働く全員にも及んだ。ロロヴィッチはそれに該当していた。

ロロヴィッチは期限前に宗教上の理由による例外免除措置を申請していた。10月16日のスタンフォード戦で勝利した後、ロロヴィッチはESPNのインタビューに応じ、申請書の状況について何も知らされていないと言った。

「私は明日もここに来て働きます。この問題は私の手を離れたと思っています。私は長い間同じ状況に置かれています。物事が正しい方向に動くことを信じています」とロロヴィッチは言った。

ロロヴィッチの解雇についてはこれ以上の情報は公開されていない。10月18日以降、ロロヴィッチはワクチン未接種であり、かつ例外免除措置の申請が認められていないことを理由に、高等教育機関施設に立ち入ることを禁じられた。そのことにより、ロロヴィッチの解雇は正当事由に基づくものだと解釈できる。

ワシントン州立大学経営側は以前からロロヴィッチがワクチン接種を拒否していたことに不満の声を上げていた。同大が学生にもワクチン接種を義務つけてからは尚更だった。先週、カーク・シュルツ学長は、ロロヴィッチの姿勢が「私たちが発したメッセージへの理解」を歪めたとニューヨーク・タイムズ紙に語っている。

「多くの人々は大学の学長、フットボールのコーチ、バスケットボールのコーチ、そしてアスレチック・ディレクターの発言を、その大学を代表するものとして耳を傾けます。それが現実です。彼らは高給取りですし、その行動には大きな注目が寄せられます。私たちの方針に反対する人をそうした位置に就けておくことは良い結果をもたらしません」

ニューヨーク・タイムズ紙の10月10日付の記事によれば、ワシントン州立大学職員から437件の宗教的理由による例外免除措置が申請され、そのうち98件が認められた。

 

なぜニック・ロロヴィッチは新型コロナウイルスのワクチン接種を拒否したのか?

ロロヴィッチは7月に自身のツイッターでワクチン接種に反対する姿勢を初めて明らかにした。そのなかで拒否することを決断した理由は「私的なもの」であるとしている。そのためにパシフィック12カンファレンスのメディア・デイに出席できなかったとも述べた。

ロロヴィッチはツイート内で自身の姿勢についてそれ以上のコメントはしないと書いた。USA Today紙が10月9日付の記事で、かつての上司であるハワイ大学のジューン・ジョーンズ元ヘッドコーチがロロヴィッチは例外免除措置を申請したと語ったと報じるまで、沈黙を守っていた。

オレゴン州立大学との試合後、ロロヴィッチは「満足な状況ではない」と言った。

「私が指導する選手の誰にも、私が今朝起きたときに感じたことを経験してほしくない。悪意があったとは考えていないが、正直に言って、朝一番に起きてほしいことではなかった」

 

ニック・ロロヴィッチのワシントン州立大学との契約内容

シアトル・タイムズ紙によると、ロロヴィッチの契約書には解雇を可能にする条項が明白に含まれている。

「職員は与えられた職務に全力を尽くし、また大学が課すすべてのルール、規則、方針、そして決定に従うことに合意する」(契約条項1.2)

契約書はまた「契約条項1.2の故意かつ重大な違反、あるいは非協力や拒否の姿勢は、正当な理由に基づく契約解除に繋がる」と明記してある。

正当な理由に基づく解雇とは、大学側がロロヴィッチの契約に残された報酬を支払わないことを意味する。AP通信とシアトルのテレビ局『KING』は訴訟が起きることを予想している。

シアトル・タイムズ紙はロロヴィッチの年俸は200万ドル(約2億2708万円)であり、契約はあと3シーズン残っていると報じた。ロロヴィッチが正当な理由に基づいて解雇されたとすれば、360万ドル(約4億870万円)が未払いになるということだ。

(翻訳:角谷剛)

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Edward Sutelan

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Edward Sutelan joined The Sporting News in 2021 after covering high school sports for PennLive. Edward graduated from The Ohio State University in 2019, where he gained experience covering the baseball, football and basketball teams. Edward also spent time working for The Columbus Dispatch and Cape Cod Times.