渡邊雄太 独占インタビュー「それがあるからこそ今の僕がある」

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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2月16~17日(日本時間17~18日)の2日間にわたり、メンフィス・グリズリーズの2ウェイプレイヤー、渡邊雄太選手に話を聴いた。NBAオールスター2019が開催されたノースカロライナ州シャーロットを訪れた渡邊は、体調が思わしくなく、ひどい風邪声。そんななかでも、嫌な顔ひとつ見せず、プロフェッショナルな態度で、根気強くロングインタビューに応じてくれた(聞き手: 杉浦大介)

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”自分の立場上、ある程度どんな状況でもスタッツを残してコーチ陣にアピールしなければいけないというのはあるんですけど、それよりも僕はやはりチームの勝ち負けを大事にしていきたい”

――まず初めにNBAプレイヤーとしての1年目のシーズン前半戦を総括していただけますか? 

渡邊: 自分にとっては本当に良い経験を毎日させてもらっています。2ウェイ契約選手ですけど、NBAの試合にも10試合立たせていただいて、長いときは20分以上出た試合もありました。最初からものすごく良い経験をさせてもらっているなという感じです。

――オールスターブレイク前に風邪を引いてしまったということで、今日は声が少しかすれていますね。2ウェイ契約選手ということでNBAとGリーグを往復し、やはり少し疲れが出たんでしょうか?

渡邊: もしかしたらそれもちょっとあるのかもしれません。正直、2ウェイ契約でのプレーというのは、僕が予想していたより体力的にもかなり負担がかかるものでした。とにかく先のスケジュールがわからない。次の日のスケジュールがギリギリまでわからないということもあったりします。ただ、それも含めてすごくありがたい経験だなと思っています。なかなかほかの人ではできない経験です。これを当たり前と思わずに、こういう経験も自分を成長させてくれていると考えて、しっかりやっていきたいです。

――前半戦の中でもフェニックス・サンズ戦でのデビュー、ゴールデンステイト・ウォリアーズ戦での初フィールドゴール成功、オクラホマシティ・サンダー戦での10得点と多くのハイライトがありました。そんななかで、最も印象に残っていることは何ですか?

渡邊: 僕のなかでは(2月5日の)ホームでのミネソタ・ティンバーウルブズ戦です。プロ入り以降では初めて両親が生で観てくれたゲームでした。チームも勝つことができましたし、僕も活躍したとまでは言えなかったですが、第4クォーターの大事な場面でレイアップ、3ポイントシュートを決めたり、チームの勝ちに多少は貢献できたのかなと思っています。そういった理由で、NBAではあのゲームが一番心に残っています。

 

渡邊雄太 Yuta Watanabe Grizzlies

――渡邊選手はこれまで自分が優れた数字を残したゲームよりも、チームが勝った試合を特筆することが多かったと思います。今回も日本人としては初めて二桁得点をあげたサンダー戦より、やはりチームが勝ったウルブズ戦のほうが位置付けは上なんですね。

渡邊: 負けた試合での自分のスタッツって正直ほとんど気にならないんですよ。自分の立場上、ある程度どんな状況でもスタッツを残してコーチ陣にアピールしなければいけないというのはあるんですけど、それよりも僕はやはりチームの勝ち負けを大事にしていきたいんです。サンダー戦の10得点は両親もすごく喜んでくれました。ただ、それよりも、5得点でしたけど、チームも勝って、僕も試合にたくさん出れて、というところでウルブズ戦のほうかなと思います。

――逆にNBA入り後で最もつらかったゲーム、あるいは期間というとどのあたりになりますか?

渡邊: (シーズン中盤以降)チームの負けが積み重なっていきました。出だしの調子が良かった分、負けが続いた際には苦しい状況になっていきました。その時期にも何回かベンチに入らせてもらったりはしていたんですけど、ただ、やっぱり勝負がまだわからない場面で試合に出れたことはほとんどありませんでした。チームが苦しんでいるのを、ただベンチで見ていることしかできなかった。それは結構つらいものがありました。

“僕みたいな選手はもう少しシュート力を身につけないと、この世界で生き残っていくのは厳しい。フィジカルとシュート力をもっとつけていきたい”

――前半戦だけでもいくつかの強豪チームと対戦し、スーパースターたちともマッチアップしました。なかでも最もすごいと思った選手というと誰になるでしょう?

渡邊: バックスのヤニス・アデトクンボ選手ですね。

――バックス戦では2度出場し、実際に同じコートで対峙しました。アデトクンボはやはり凄かったですか?

渡邊: ほかの選手もうまいなと思いましたし、インパクトもありました。ただ、アデトクンボはあの身長、身体で、あれだけ動けて、何でもできるという部分で、個人としてもチームとしても止め方がちょっとわからなかったという感じでしたね。

――この数か月間で見えてきたNBAプレイヤーとしての自身の課題というと?

渡邊: NBAに入る前からずっと言い続けてきたことなんですけど、まずフィジカルはもっと強くならないといけません。あとはシュート力ですかね。僕みたいな選手はもう少しシュート力を身につけないと、この世界で生き残っていくのは厳しい。フィジカルとシュート力をもっとつけていきたいなと思っています。

――2ウェイ契約で残っているのはあと7日間ということですが、その間と、Gリーグのシーズン終了後はまたNBAでプレーする機会があると思います。そういったなかで、NBAプレイヤーとして何を成し遂げたいですか?

渡邊: 今までとやることは変わらないです。コートに立ったときは、チームのために何ができるのかというところ。スタッツに残る数字というのも大事なんですけど、それに残らない部分でもしっかり貢献して、コーチ陣やフロント陣にアピールできたらなっていう風に思っています。

“小学校のときは母親が僕のコーチでずっと教えてくれて、父親はその練習外で僕を1対1で鍛えてくれました。本当に感謝していますし、それがあるからこそ今の僕があるんだと思っています”

――ところで今回はオールスターゲームの舞台に来て、イベントをご覧になっての感想はいかがですか?

渡邊: 実際に生で見るのは初めてです。会場に行って観ると、やはりテレビの前で観るのとでは違いますね。生で観ると雰囲気を感じられますし、本当にすごい活気があって楽しかったです。

――渡邊選手はもちろんダンクもしますが、ロングジャンパーが得意とあって、サタデーイベントではどちらかといえば3ポイントコンテストのほうが気になったのではないですか?

渡邊: 印象に残ったというか、観ていて最も楽しかったのは3ポイントコンテストでしたね。スキルズチャレンジもマイク(コンリー)が勝ってくれればもっと良かったんですけど。ダンクコンテストも身体能力は素晴らしかったです。ただ、昨日はやはり3ポイントが最も競争率が激しくて、(豪華メンバーなので)見ていても楽しかったです。

――オールスターに選ばれたわけではないですが、現地での注目度は高く、かなりの数のメディア対応やイベント登場をこなしていました。様々な形で注目されるこういった状況にはもうだいぶ慣れましたか?

渡邊: そうですね。あまり気にならないというか、注目されても自分自身を見失うことはありません。そういった意味では慣れてきているのかなと思います。

――話は変わりますが、渡邊選手にとっては両親が非常に大きな存在であることが伝わってきます。それほどのリスペクトの気持ちを生み出しているのは、ご両親のどのような部分なんでしょうか?

渡邊: まず当然、産んでくれて、育ててくれたことに感謝しています。小学校のときは母親が僕のコーチでずっと教えてくれて、父親はその練習外で僕を1対1で鍛えてくれました。自分たちも仕事があって、忙しくて、休みのときはおそらく休みたかったと思うんですけど、それでも僕のために身体を動かしてくれたんです。僕が10kmを走るときも、父親は自転車に乗って後ろからずっと追いかけてくれました。1日1000本シュートを決める練習もしましたけど、打っている僕よりもリバウンドを取ってバスを出してくれる父親のほうが大変だったと思います。そういったことを一切嫌がらずに、自分から進んでやってくれていました。本当に感謝していますし、それがあるからこそ今の僕があるんだと思っています。

――何度か話させていただいて、お父さんは活発で、優しく、そして厳しい人という印象です。お母さんは温かく包み込んでくれる人。そんなイメージを持っていますが、実像に近いですか?

渡邊: はい、僕にとってもそんな感じです。昔はよく父親には怒られたりしていました。母親も厳しかったんですけど、怒られたときは優しくフォローしてくれたり。バランスいいじゃないですけど(笑)、本当にうまくやってくれていたなと思います。

――家族全員がバスケットボール選手というのはアメリカではあることですが、日本では珍しいのではないかと思います。以前、“遊びに来た友人から「おまえの家はバスケの話ばかりだな」と言われた”というエピソードを話してくれたことがありましたね。そんなバスケットボールファミリーに育つなかで、この競技に飽きたり、やめたいと思ったことはなかったですか?

渡邊: それは本当にないです。僕は昔から本当にバスケットボールが大好きでした。10km走って、シュートを1000本決めるとか、中学生にとっては並大抵の練習ではなかったのは確かです。厳しかったんで、ちょっと休憩したいなとか思ったことは正直ありました。ただ、それが嫌でやめたいと思ったことは一度もなかったですね。

“八村選手の活躍、存在は凄く刺激にはなるんで、ある意味、ライバルなのかもしれないと思います”

――こうして渡邊選手が新たな道を切り開き、来季はゴンザガ大学の八村塁選手もNBA入りが期待されています。アメリカでも評価の高い八村選手というプレイヤーをどう見てますか?

渡邊: もう文句無しというか、あのレベルであれだけ活躍しているので、ドラフト指名は間違いないと僕も思っています。僕も大学4年間やって、NCAAディビジョン1のレベルがどれだけ高いかっていうのはわかっているつもりです。そこであれだけの数字を残し、いとも簡単にやり遂げているのは本当にすごいですよね。

――とてつもない身体能力が目立ちますが、それ以外の長所というと?

渡邊: 身体の使い方が上手いです。身体能力が高いのは当然そうですけど、それを上手く生かしてプレーしている。自分の身体のことをよく知っているなというのを見ていてすごく感じます。

――個人的にもかなり仲が良いと思いますが、渡邊選手にとって八村選手はどんな存在なんでしょう? 友人、ライバル、それとも?

渡邊: どうなんですかね、それは僕もよくわからないですけど……。彼の活躍、存在はすごく刺激にはなるんで、ある意味、ライバルなのかもしれないと思います。仰る通り、仲はすごく良いので、本当の友人でもあります。だからこれといった明確なものはないですかね。

――2人で日本バスケットボールの将来について話したりすることは?

渡邊: いや、そんな熱い話をするような2人じゃないんで(笑)

――今回のバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズでは会場に来場し、日本人選手たち(富永啓生、林未紗、田中力)のプレーをご覧になっていました。田中力選手とは面識があったと思いますけど、プレーを見てどうでしたか?

渡邊: あまり長い時間は見れなかったんですけど、要所要所で見せる彼のボールハンドリング能力だったりとかには感心しました。まだまだ若いのにあれだけ堂々とプレーしていて、先が楽しみだなと。

“昔は試合前、音楽聴いていたんですけど、今はYouTubeで「すべらない話」とか聴いてます”

――いくつかこれまでにしたことがないバスケットボール以外の質問をさせてください。試合前にはどういったものを食べるんですか?

渡邊: 基本的にはパスタです。大学のときもプレゲームは絶対にパスタが出るんですよね。大学の授業でも、アスリートが試合何時間前にどういうものを食べたら良いのかというリサーチが発表されていて、そこでもパスタは良いということでした。まあそのクラスに出る前から食べていたんですけど。

――試合前に聴く音楽は?

渡邊: 最近は音楽あまり聴かないんですよね。昔は試合前、音楽聴いていたんですけど、今はYouTubeで「すべらない話」とか聴いてますね。

――えっ、NBAのロッカールームで「すべらない話」を?(笑)

渡邊: 「すべらない話 聞くだけ」みたいので検索すると出てくるんですよ。イヤホンでそれをずっと聞いています。ロッカールームでもたまに一人で笑ったりしているで、チームメイトからはヤバい奴だと思われているかもしれません(笑)

――それはリラックスするための方法として自分で考えたんですか?

渡邊: 大学のときは試合前ずっと音楽を聴いていたんですけどね。聴く音楽は基本的に変わんないんですけど、プロになってからは試合が多いんで、ほぼ毎日聴いているとその音楽でテンションが上がらなくなってしまったんです。それでほかに何かと思ったときに、ちょうど「すべらない話」を見つけて聴き始めて。昔からお笑いは好きで、見たり、聴いたりしていたんです。ただ、それもまた飽きていずれ何か別のものを聴きだすとは思います。

――ちなみに大学時代は何を聴いていたんですか?

渡邊: 日本の曲だと湘南乃風とか、こっちだとドレイクとか、リル・ウェイン、ポスト・マローンとかですかね。

――好きな映画は?

渡邊: 『ルディ』(邦題『ルディ/涙のウィニング・ラン』)です。アメリカン・フットボールの。あれはヤバいっす。

――チーム内で仲良くしている選手は?

渡邊: やっぱり同期のJJ(ジャレン・ジャクソンJr.)ですね。

――小学校2、3年のときに渡邊選手が「コービー・ブライアントみたいになりたい」と言ったというのはよく知られる話になっています。プロ入り前はケビン・デュラントが好きだと話していました。今、見るのが好きな選手っていますか? 対戦する側になってしまったので難しいでしょうか?

渡邊: そうですね、今はそういう目線では見られなくなっています。

――空いている時間はどうやって過ごしていますか?

渡邊: これまでと変わらないですね。部屋でずっとリラックスして、ご飯を食べて、時間になったらまた体育館に来て、練習して。でも最近はリラックスする時間はあまりないんですよ。(NBAとGリーグで)試合が続くとなかなか自分の時間というのはなくなってしまいます。

――大学時代とNBAに入って以降で、食事の内容は変わりましたか?

渡邊: そんなに変わってないです。大学時代からめちゃめちゃ健康に気を遣っているわけではなかったですが、もともと身体に悪いものは食べないので。チーム側からは「カロリーを摂るように」とは言われますけど、最近はシーズンに入っても体重が減ることはなくなってます。むしろたまにちょっと増えたりもしています。

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。