「僕はカメラの前で、こうやって質問に答えるのがあまり好きじゃないんだ。苦手とすることだ。今すぐにホテルに戻りたいぐらいだ」。
そう言ったのは、NBAオールスターウィークエンド中に行なわれたダンクコンテスト(Verizon スラムダンク)に出場したラリー・ナンスJr.(クリーブランド・キャバリアーズ)。コンテスト前のメディアセッションで、確かに多くのカメラやリポーターに囲まれていた。それでも、いつも取材に協力的で、的を射た真摯なコメントをするナンスJr.がそんなことを言うとは、少し意外だった。
もっともナンスJr.は、だから取材を避けたいと言いたかったわけではなかった。彼はこう続けた。
「でも、僕は自分のコンフォートゾーン(快適な場所、安全地帯)の外に出ようとしているんだ。いつもとは違うことだから楽しい。こうやって(カメラやマイクの前で)コンフォートゾーンを出たことをやることも自分には必要なんだ。ショーマンシップは僕にとって得意なことではないからね。今夜、それもやってみるつもりだ」。
ダンクコンテストで父のジャージーに着替えて登場
その夜に行なわれたダンクコンテストで、ナンスJr.はNBAアリーナで人気のハーフタイムショー『クイック・チェンジ』の助けを借りて、観客の前でウォームアップからフェニックス・サンズの背番号22番のユニフォームに着替える寸劇で、場を盛り上げてみせた。
サンズの22番は、元NBA選手のナンスの父、ラリー・ナンスSr.が1984年にNBAダンクコンテストで優勝したときに着ていたユニフォームだ。短いショーツとハイソックスも、当時の父の姿のままだった。そして、34年前の父と同じ格好をした息子は、父がそのときに披露したのと同じ『ゆりかごダンク』を決めた。
結局ナンスJr.はコンテスト決勝でドノバン・ミッチェル(ユタ・ジャズ)に敗れて準優勝に終わり、父と同じように優勝とはいかなかったが、それでも、改めて父の足跡を追う誇らしさを感じたオールスターウィークエンドだった。
「僕はラリー・ナンスJr.で、そのことをとても誇りに思っている。すべてのステップで父のようになりたい。そして、今、こうやってダンクコンテスト出場者としてここにいる。その確率を考えただけで、すごくクールなことだ」。
そんなナンスJr.にとって、オールスター前の2月8日には、驚きの、そして嬉しいニュースがあった。ルーキーのときから2年半所属していたロサンゼルス・レイカーズからクリーブランド・キャバリアーズにトレードになったのだ。キャブズは、優勝を狙えるチームという以上に、かつて父が7シーズン所属し、背番号が永久欠番になるほどの実績を残したチームだ。
「僕は父が現役だったときのことはまったく覚えていないんだ。僕はまだ1歳ぐらいだったからね。でも、僕の両親の古くからの友人たちから『オーマイゴッド、何てクールなの。お父さんもダンクコンテストに出たように、あなたもダンクコンテストに出て、お父さんもトレード期限当日のトレードでフェニックスからクリーブランドに移ったように、あなたもトレード期限の日にLAからクリーブランドにトレードになって、同じようにキャブズでプレイすることになるなんて!』と言われたりした。僕と父の状況はいろいろと似たところがあるんだ。みんなからそう言われた」。
もっとも、背番号だけは同じにはしなかった。ナンスJr.がキャブズで選んだ背番号は24。父の背番号は永久欠番になっているからなのだが、その父自身は、息子が22番を着てくれることは大歓迎だと言っており、障害はない。それでも22を選ばなかったのには息子なりの理由があった。
「父の背番号を選ばなかった一番の理由は、永久欠番のユニフォームを下ろしてほしくないからだ。父のユニフォームの下でプレイしたい。父の永久欠番(のバナー)が掲げられた下でプレイすることは僕にとってとても名誉なことなんだ」。
1980~90年代前半にかけてNBAで13シーズン過ごしたラリー・ナンスSr.
オールスター後、クリーブランドに戻ったナンスJr.は、少し考えを変えたようで、移籍後初のホームゲーム前に地元メディアの取材に対し、背番号については今シーズン後に再検討すると語っている。
「もし父の永久欠番を残す方法があるのなら、たとえば僕が名前から“Jr.”を省いて、“Nance”として22番を着るとか、そういうことができるのなら、喜んで22番を着たい。夏にまた考えようと思う」。
来季、ナンスの22番が復活するのか、それとも24のままなのか。どちらの番号をつけるにしても、息子が父の背中を追いかける旅は続く。
※追記:ナンスJr.は2月22日の試合前に、ユニフォームの準備ができ次第、父と同じ22番の背番号をつけることを発表した。父ナンスSr.の22番の永久欠番のバナーは、これまで通り天井から掲げられる。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji