[宮地陽子コラム第88回]2ウェイ契約プレイヤーたちの現実

Yoko Miyaji

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2ウェイ契約選手がいたからこそ達成できている勝率5割

今シーズンからNBAで始まった『2ウェイ契約』(Two-Way Contracts)の恩恵を、どこよりも受けているのはロサンゼルス・クリッパーズかもしれない。開幕直後から主力に故障が続いたこともあり、戦力として2ウェイプレイヤーに頼る試合が多いからだ。

2月4日時点で、2ウェイプレイヤー3選手(1月6日にジャミル・ウィルソンの契約が打ち切りになり、同日にタイロン・ウォレスと契約)の合計出場試合数はのべ57試合、そのうちのべ23試合がスターターとしての出場だ。

*2ウェイ契約:各チーム同時に2人まで契約できる。Gリーグ選手でありながら、シーズン中、最大45日までNBAチームに所属することができる。NBAのロスター枠15選手にカウントせず、サラリーがサラリーキャップに計上されることもない。サラリーはGリーグ契約75,000ドルに加え、NBAチーム所属日数に応じて、NBAルーキー最低サラリーの日割り分が支払われる。

クリッパーズのドック・リバースHCは、「2ウェイ契約は、私たちにとって、神からの贈り物だ。2ウェイとGリーグチームがなかったら、私たちは今頃、最下位だったかもしれない。大げさではなく、本当にそう思う」とまで言う。

今シーズンのクリッパーズは2月3日までの計51試合で、故障による選手ののべ欠場は158試合。しかも、そのうち、開幕戦のスターターだった5選手の欠場試合は通算126試合を占めている。2ウェイ契約がなければ、少ない人数で体力を消耗して負け続きの泥沼にはまっていたかもしれない。そんな状況で、チームが26勝25敗と5割を超える成績をあげることができている大きな理由が、2ウェイ選手の貢献なのだ。

中でも、リバースHCが高く評価しているのが23歳のウォレス。2016年ドラフトの2巡目最後でユタ・ジャズに指名され、昨シーズンをジャズ傘下のDリーグ(現Gリーグ)チーム、ソルトレイクシティ・スターズで過ごしたウォレスは、今季はクリッパーズ傘下のGリーグチーム、アグアカリエンテ・クリッパーズでシーズンをスタート。1月に入って、NBAクリッパーズでボールハンドリングできる選手が必要となり、ジャミル・ウィルソンの2ウェイ契約を打ち切り、かわりにウォレスと2ウェイ契約を交わした。

ウォレスはそれ以来、15試合に出場(うち10試合がスターター)。平均11.8点、3.7リバウンド、2.6アシストとチームに貢献している。リバースHCはウォレスを、「ポジションの枠を超え、ポイントガードもできるし、3番もできる。彼は『いいNBA選手』をさらに上回る可能性がある。多くのスキルを持っているし、自信もある」と絶賛する。

また、故障で現在欠場中だが、シーズン前半でチームに貢献したのがCJ・ウィリアムズ。ウォレスと違うのは27歳と、すでに中堅選手の年代だということ。大学を出て5シーズンのうち2シーズンをDリーグで、3シーズンをヨーロッパでプレイしている。

去年夏にジェフ・バンガンディのもとでアメリカ代表としてFIBAアメリカップを戦い、そのキャンプを毎日視察に来ていたクリッパーズのフロントの目に留まり、開幕前から2ウェイ契約を勝ち取った。経験があることで、対応力があるのが強み。リバースHCは「彼はうちに来たときからすでにNBAプレイヤーだった。特にディフェンスではそうだ。コーチたちとワークアウトして、さらに自信をつけてきた」と評価する。

チーム側からすると、2ウェイ契約はサラリーの縛りも少なく、戦力として必要ないときはGリーグに送ったり、契約を打ち切ることもできる、ある意味使い勝手がいい契約なのだが、選手のほうから見たらどうだろうか。

ウォレスとウィリアムズの2人に、2ウェイプレイヤーとしての経験について聞いてみた。

Clippers Tyrone Wallace

「本物のプレイタイムを得るいい機会」――タイロン・ウォレス

──今シーズンをGリーグ選手として始めたわけですが、他の選手が2ウェイ契約でプレイしているのを見て、2ウェイ契約についてどう感じていましたか?

ウォレス:うちのチーム、クリッパーズでは2ウェイの選手たち、CJ(ウィリアムズ)やジャミル(ウィルソン)のプレイタイムが特に多いのに気づいていた。だから、このチームなら2ウェイ契約はプレイするいい機会だと思っていた。他のNBAチームでも2ウェイ選手が出場機会を得ていることもあるけれど、うちではジャミルやCJがスターターとして出たりしているのも見ていたからね。

2ウェイの選手がNBAのスターターという機会をもらえることはそれほど多いことではない。クリッパーズに故障が出て、僕にとっての機会が開かれた。クリッパーズから連絡をもらったときに、ここに来て、本物のプレイタイムを得るいい機会だと思った。

──試合の合間のたびにGリーグのアグアカリエンテ・クリッパーズとの間を行ったり来たりしていますよね。Gリーグに戻されたときは、実際にオンタリオ(ロサンゼルス郊外にあるACクリッパーズ本拠地の街。ロサンゼルスから約60kmの距離)に行かなくてはいけないのですか?

ウォレス:毎回ではない。基本的にGリーグに派遣されたら、チーム(NBAクリッパーズ)といっしょに練習するわけにはいかず、チームがコート上にいるときはコートに出るわけにはいかないというのが決まりなんだ。でも、(NBAクリッパーズの練習場で)トリートメントを受けることはできるし、ウェイトをすることもできる。だから、実際に毎回行ったり来たりしているわけではない。基本的にはチームといっしょに行動できないというだけだ。

──実際にオンタリオに行くときは、自分で車を運転して行くのですか?

ウォレス:そうだね。時々行くときは自分で運転して行く。先週も行って、試合を見ていた。書類上では(Gリーグに)派遣されていたけれど、でも試合には出場しなかったので、応援するためにチームが試合をするのを見ていた。

──2ウェイ選手であることのいいことと悪いことを挙げると?

ウォレス:さっきも言ったように、好きなように(チームといっしょに)練習できないこと。バスケットボール選手としてプレイすることが仕事だから、自分のゲームを磨きたいのだけれど、それができないときがあるのは困る。

あとは移動が問題になることがある。移動だけで1日使ってしまうから、チームといっしょに移動できないときもある。チームとは別に、試合当日に移動しなくてはいけないこともあった。それがきつい。

逆にいいことは、機会を得られるということだ。NBA選手としてNBAの試合でプレイする機会を得られる。それはいつでもプラスだ。それが一番重要なことだ。

Clippers C.J. Williams

「リスクを取るだけの価値はある」――CJ・ウィリアムズ

──2ウェイプレイヤーの生活はどうですか?

ウィリアムズ:少しクレイジーだ。行ったり来たりしていて、常にフロントオフィスと連絡を取り合って、毎日、自分がどこに行くのか、何をするのかを確認している。これまでとは違う毎日だ。

──これまでに何回オンタリオに行ったか覚えていますか?

ウィリアムズ:多すぎるぐらいだ。

──2ウェイ契約はNBAでも新しい契約方式ですが、この契約スタイルによってチャンスが与えられたと感じますか?

ウィリアムズ:そうだね。間違いなくそうだ。今シーズンは僕にとって大きな年だった。夏にアメリカ代表としてFIBAアメリカップでプレイし、(代表HCの)コーチ・バンガンディからいろいろと教わったところから始まり、大きな1年になっている。

2ウェイ契約ができたことで、NBAでプレイしやすくなったと思っている。しばらくの間、NBAに入るかどうかの境界のあたりにいた自分に機会を与えてくれたのだからね。(いつ契約が打ち切られるかわからないという)リスクはあるけれど、そのリスクを取るだけの価値はある。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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