この数年、NBAのビッグマンの役割が大きく変わってきた。3ポイントショットを武器とするセンターが増え、サイズに頼り、攻守にインサイドでしかプレイできない選手は以前ほど評価されなくなった。変化の激しいNBAの時代の流れの中で、ビッグマンも適応を強いられている。
マルク・ガソル(メンフィス・グリズリーズ)も、そんな時代の流れに適応しようとしているビッグマンの一人。昔からシュートの巧いビッグマンだったが、それでもルーキーシーズンに打った3Pは、82試合、2521分でわずか1本。NBAで初めて3Pを決めたのは3シーズン目の2010-11シーズンだったが、まだシーズンを通して7本打って3本決めただけだった。それが今シーズンは、開幕から10試合経過した11月7日時点で、すでに7本以上の3Pを打った試合が3試合もある。
ガソルが3Pを意識して打ち始めたのは昨シーズン。昨季からグリズリーズのヘッドコーチとなったデイブ・フィズデイルに、シュートレンジを3Pまで広げることで、マイク・コンリーらチームメイトが攻撃しやすくなると勧められたのがきっかけだった。フィズデイルHCは、アシスタントコーチをしていたマイアミ・ヒートで、クリス・ボッシュが3Pを決めるようになったことで、レブロン・ジェームズやドウェイン・ウェイドの攻撃オプションが増えたことに目をつけ、同じようなことがグリズリーズでもできるのではないかと考えたのだという。
必要に合わせて年々進化しているガソルに、ビッグマンの目から見たNBAの変化について聞いてみた。
常に3Pを守れる状態でないといけない
──NBAにおけるビッグマンの役割はこの数年でかなり変わってきましたよね。
そうだね。完全に変わったと思う。
──あなたも昨シーズンから3Pを武器にするようになってきましたが、3P以外にビッグマンがこの数年で新たにやる必要に迫られていることはありますか?
スイッチしてほかのポジションの選手を守ること。今のNBAでは3ポイントライン(外からのシュートを守ること)がとても重要で、スイッチすることで相手の3Pを防ぐことができる。
その一方で、ピック&ロールでスイッチしたら、それによって後ろで別のアクションが起こる引き金となり、味方が(ビッグマンの)ヘルプなしに自分のマークマンを守らなくてはいけなくなるけれど。
3Pが2ポイントシュートより多くの得点となることは、今に始まったことではない。でも、今の選手たちのほうが以前よりもずっとそれを活用するようになってきた。だから、常に(3Pを守るように)準備できた状態でいなくてはいけない。
──そういった変化が起こり始めたと感じ始めたのはいつ頃ですか?
みんな優勝チームの真似をして、同じやり方を取り入れようとするものだ。マイアミがクリス・ボッシュを5番で起用して、フロアを広く使うようになったところから始まって、最近ではゴールデンステイト(ウォリアーズ)が、試合の終盤にドレイモンド・グリーンを5番に使うラインナップで、ほとんど5アウト(5選手全員が外に位置)のスタイルでプレイしている。クリーブランドも、レブロン・ジェームズとケビン・ラブがいて、同じようなスタイルだ。そういったチームがこの10年ぐらい優勝しているわけで、それに合わせて変わる必要があった。
──ビッグマンとして、そういったスタイルに適応できないと生き延びられないと感じますか?
いいや、そうは思わない。ビッグマンはいつでも重要な存在だ。特にディフェンスでは、ビッグマンが試合をどう見て、どう判断するかによって、試合で起こること、起こらないことに影響を与えることができる。(オフェンス時の)スクリーンでもそうだし、ビッグマンはバスケットボールにとって重要な存在だ。ただ、今の傾向が少し変わってきているだけのことだ。年月がたてば、この先、またさらに変化していくだろう。
米国外では以前から起きている変化
──アメリカ国外でも、そういった変化は起きていますよね?
ずいぶん前から起きている。
──海外のほうが先に変化して、そこからアメリカに来たと感じますか?
アメリカ国外では、必要に迫られてのことだったと思う。ヨーロッパでは普通は、たとえばザック・ランドルフのような、いわゆる"パワーフォワード"(ポジションとしてのパワーフォワードというだけでなく、力でまわりを圧倒する選手)はいない。だから、ずっと前に適応しなくてはいけなかった。20年ぐらい前に、すでにどうやってサイズを小型化して戦えるのか考え始めていた。2008年の(北京)オリンピックを振り返ると、出ていた多くのチームが、ほとんどスモールラインナップで戦っていた。アメリカもドワイト・ハワード(現シャーロット・ホーネッツ)や、時にはクリス・ボッシュがセンターだったこともあった。
──となると、ヨーロッパのビッグマンのほうが新しいスタイルに有利だと思いますか?
どうかな。有利かどうかはわからない。(アメリカには)デマーカス・カズンズやアンソニー・デイビス(ニューオーリンズ・ペリカンズ)のように、すばらしいスキルを持っていて、ドリブルからでもキャッチからでも使える多くのツールを持っている選手がいる。しかも、彼らは運動能力もとても高い。
僕としては、ただ、チームが成功するために自分が何をしたらいいかだけを気にかけている。取り残されることなく、自分がなれる最高な選手になるためにどうしたらいいかをいつも考えている。
子供の頃から、自分がうまくなったとか、完成したと考えてしまったら、若い選手に追い抜かれると考えてやってきた。そういうことにならないように努力しているんだ。
──今、さらなる成長のために上達しようとしていることはありますか?
ひとつはドライブ。今は足首の状態がよくないので難しいのだけれど、相手も僕が効率よく3Pも打てるとわかってきたから、ドリブルしてプレイをクリエイトするようにしたい。スペースがどれだけあるかを理解して、ドリブルからプレイをクリエイトするように試みている。それは僕にとって新しい試みなんだ。ペイント内が混みあってしまうから、ポストアップからだけプレイするというのは難しいからね。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji