[宮地陽子コラム第73回]39歳にして存在感を示し続けるビンス・カーター

Yoko Miyaji

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昨季のNBA最年長だった40歳前後の3選手、アンドレ・ミラー、ティム・ダンカン、ケビン・ガーネットがシーズン後にリーグを去って、今シーズンのNBA最年長選手となったのは、ビンス・カーター(メンフィス・グリズリーズ)だ。現在39歳と300日余ながら、ほぼ毎試合、ユニフォームを着て、コートに立っている。

ただ単に試合に出るだけではない。平均26.5分出場し、9.3点、3.9リバウンド、1.8アシストをあげている(現地12月1日時点)。全盛期の頃に比べると、プレイタイムが減った分、数字は落ちているが、たとえばオフェンス効率(100ポゼッション当たりの得点)で比べると、今季のカーターは105点。彼自身がオールスターだった1999~2007の10シーズンにあげた数字(99~114点)と比べても見劣りしない。

カーターは21歳でNBA入りしたとき、まず、その運動能力、豪快でかつ優雅なダンクで人々を魅了した。そのことを思うと、彼が40歳になるまで現役を続けていること自体が驚きでもある。

あの頃、カーターと、彼のノースカロライナ大学のチームメイトで同い年のアントワン・ジェイミソンと、どちらが長いキャリアを送るかと聞かれたら、迷わず、ジェイミソンを選んだことだろう。そのジェイミソンも2年前に引退している。

一方で、カーターは昔から、ダンクだけの選手と思われることを極端に嫌っていた。取材がダンクの話ばかりになることに、居心地悪そうにしていることもあった。それは、自分の選手としての真髄はダンクではないと主張しているかのようだった。ノースカロライナ大では、故ディーン・スミス・ヘッドコーチのもとで、基本を叩きこまれてきた彼にとって、ダンクはオマケのようなものだったのかもしれない。

そう考えると、カーターが年を重ねるごとにプレイスタイルを変えて、スターターから控えにまわり、主役から脇役に転じて、その役割の中で、変わらず存在感を示してきたのは、当然のことにも思える。

もっとも、40歳を目前にして毎試合25分前後出場するためのコンディションを整えるのは、簡単なことではない。

カーターは、言う。

「ずっと長い間、僕にとってゲームは簡単なことだった。少しきつくなってきたときに、さらに練習量を増やすようになった。それによって自分自身も上達することができた」。

時間をかけるのは、試合のない日の練習だけではない。試合当日には、身体の状態を整える準備に、さらに時間をかけるようになった。

「昔からずっと、試合会場には早く到着するようにしてきた。遅いバスに乗ったことはなくて、いつも早いバスに乗っていた(※)。30代後半に入ってからは、以前よりさらに早く来るようにしている。アリーナにまだあまり人がいない頃に来て、ワークアウトをするんだ。以前は、昼寝を2~3時間していたけれど、今は1時間半ぐらい、時には1時間のこともある。アリーナに行く準備をしなくてはいけないからね」。

※NBAチームは通常、遠征先のホテルから会場までのバスを、時間をずらして2台出している。最近のカーターは、1台目のバスより早い時間に、自分でウーバーを呼んで会場に行くようになったという。

大事なのは、毎日、やるべきことを欠かさず続けること。時にさぼりたいと思うこともあると本音を明かすが、それでも、大好きなバスケットボールを続けるため、コートに立ち続けるために、毎日、毎試合、同じ時間にホテルや家を出て、まだ空っぽの会場で一人、時間をかけて準備をするのだという。

「毎日、とにかく自分のルーティンを貫くようにしている。そこから外れることはない。時々、さぼりたくなることもあるけれど、いつも氷で冷やしたり、ストレッチしたりと、いろいろなことをしなくてはいけない。でも、それは構わない。リーグで一番年寄りだとか言われるけれど、それは人に言わせておくだけだ。この仕事にはつきものだからね。年を取っても、まだバスケットボールが好きなんだ。バスケットボールが好きだから、勝つため、あるいはいいプレイをするために必要なことを何でもやるよ」。

実際、今のカーターは、若かった頃よりもさらにバスケットボールを楽しんでいるようにも見える。周りからの過剰な期待や、ダンカーといったような型にはめられることからも解き放たれ、個人の成績も気にせず、ただ、試合に勝つために、自分にできることを最大限にする。

来年1月で40歳を迎えるカーターだが、あとどれぐらい、この生活を続けることができるのだろうか? あと、どれぐらい、ユニフォーム姿を、いぶし銀のプレイを見せてくれるのだろうか。そう聞くと、カーターは答えた。

「それは、1年やるごとに考えるようにしている。実際にそのときにならないとわからないよ。調子はいい。シーズンが終わったときに、自分の身体がどんな状態かは、身体が教えてくれるから、それを元にして考える。今もまだ、ワークアウトすることは大好きだ。夏の間を通して、シーズンの準備を整えることをやることをいとわないうちは、ここからは離れがたい。もし楽しめなくなったら、それは間違いなく、ここから去るときだ」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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