12月2日(日本時間3日)に実現したヒューストン・ロケッツとワシントン・ウィザーズのスターポイントガード同士のトレードは、バスケットボールのビジネスという意味で両チームにとって理に適っている。
ウィザーズはオールスター選出5回のジョン・ウォール(と将来のドラフト指名権)を手放した。ウォールはロケッツでジェームズ・ハーデンとタッグを組む。ロケッツは元MVPで長年オールNBAチームに選ばれているラッセル・ウェストブルックを放出した。ウェストブルックはブラッドリー・ビールと組むことになる。両チームにおいて、希望の兆しを見つけ出すのに時間はかからないだろう。
ロケッツは優勝を目指すなかで、以前はクリス・ポール、次にウェストブルックと、ハーデンと合う選手を探そうとしてきた。そこにフィットし、ヒューストンでタイトルを追い続けるようにハーデンを鼓舞できるか、次はウォールの番だ。
ウィザーズにとっては文化的な変遷となる。元ドラフト1位指名のウォールは、球団の顔であり、ワシントンDCのコミュニティで愛されてきた。10年を過ごしてきたそのウォールとの感情的な別れだ。
4日(同5日)のZoom会見で、ウィザーズのトミー・シェパードGMは「ラッセルのことは彼の経歴が物語っている」と話した。
「素晴らしい功績の数々とリーダーシップのクオリティをチームにもたらし、ウィザーズをより良い球団にする機会になる」。
シェパードGMは「NBA有数のポイントガードを獲得するには、NBA有数のポイントガードをあきらめなければいけない」と述べている。
「私は、まったく軽く見ていない。ウィザーズをできる限り今季成功できる状態にできたと感じている」。
ウェストブルックはレブロン・ジェームズ、ケビン・デュラント、ポールとともに、9回以上のオールNBAチーム選出を誇る現役4選手のうちのひとりだ。NBAの歴史を見ても、それを達成したのは28選手しかいない。
旧友ハーデンとのフィットに不満の声があったが、新型コロナウイルスのパンデミックで3月にシーズンが中断するまでのウェストブルックは良かった。オーランドのバブルでシーズンが再開されるまでに、ウェストブルックはコロナ検査で陽性となり、大腿四頭筋の負傷に苛まされた。
その後、シーズンを終えたロケッツはマイク・ダントーニHC、そしてダリル・モーリーGMが退任。1試合平均27.2得点、7.8リバウンド、7.0アシストを記録したウェストブルックは、プレイオフで勝てないという、ハーデン時代にずっと陥ってきているのと同じ状況に終わったロケッツにとって、便利なスケープゴートにされた。
ウェストブルックに責任がないということではない。彼が最も効率的な選手だったことはなく、非常に限られた関係以上にチームメイトたちと友情を育んでこなかった。ウィザーズのスコット・ブルックス・ヘッドコーチは、2008年から15年までサンダーを率いた際に直接その姿を見ている。
つまり、ウェストブルックは他選手やメディアと仲良くすることがあまりない、断固たる競技者ということだ。ビールは「チームメイトであるときはチームメイトだ」と、キャリアの最後にウィザーズに来て、ウォールとビールに重要なリーダーシップの特徴を伝えたポール・ピアースと比較している。
「ピアースも同じだっただろう? 死ぬまで愛してくれる。でも反発すれば、すべてが帳消しだ。こちらが路上の能なしかのように振る舞う。それがコートに立つときの彼のメンタリティだ。相手を見下し、攻撃する」。
それが、長年にわたってウェストブルックに役立ってきたクオリティだと信じているのがブルックスHCだ。そして、NBAでの経験が3年以内という選手が13人いるウィザーズのロスターに、ウェストブルックがそれをもたらすと考えている。
ブルックスHCは「ラッセルは13年目だ」と話した。
「我々には若い選手が多い。中にはラッセルがキャリアを始めた頃にまだ13歳、14歳だった選手もいるかもしれない。だから、彼は注目を求めるだろう」
「私はジュリアス・アービングが好きだった。そしてフィラデルフィア・76ersでプレイする機会を得たとき、『人生最高の日だ』と思ったものだ。そのチームでプレイするのだから、彼を失望させたくなかった。彼が見ていると分かっていたからだ。ラッセルも同じだよ」。
「選手たちは、彼に大きな敬意を払うだろう。彼がいかにハードにプレイしてきたかを見ているし、これからも見るからね。一晩で良い選手になるものではない。多くの仕事が必要だ。ラッセルは私が見てきたなかでもハイレベルなアスリートだ。我々の全選手にとって素晴らしい模範となるはずだ。彼とビールには似たところがたくさんある。楽しみだ」。
ビールとウェストブルックの共存は、ウィザーズにとって鍵となる。だが、ビールにとって、ウォールを失った痛みはまだ新しすぎる。彼はウォールを「生涯の兄弟」と考えている。
4日(同5日)、ウォールがいない、そしてウェストブルックがいる初めてのトレーニングキャンプの練習を終え、ビールは「感情的な1週間だ」と述べた。
「間違いなくキツい状況だ。ジョンは僕の兄弟だし、僕らの関係はバスケットボールを越えるものだからね」
「僕らは僕が高校にいたときから絆を作ってきた。一緒に素晴らしい年月を過ごした。ニュースを見たときは、もちろんショッキングだったよ。でも、ビジネスだと分かっている。これがバスケットボールのビジネスだ。シェパードはGMであり、彼はこういう厳しい決断を下さなければいけない。おそらく、球団にとってこれまでで最も厳しい決断のひとつだっただろう」。
「僕にとってもつらい事実だった。でも裏返せば、元MVPで“歩くトリプルダブル”であるラスみたいな選手が加わるんだ。彼はチームに火花を、街にエネルギーをもたらすだろう。それで空白が埋まることはないと思うけどね。ジョンはワシントンDCの街に、僕と僕の家族に大変な影響を与えたんだ」。
「僕らの兄弟のような関係は続く。この数日、ジョンと話したけど、ポジティブなことばかりで、素晴らしい話だった。僕が最も望んでいるのは、彼が幸せでいることだ。ただ、今日はキャンプ初日だし、自分の集中をウィザーズのことに移さなければいけない。ラスが来て、彼を歓迎し、彼がやりやすいようにして、先に進まなければいけない」。
デュラントはウェストブルックがポイントガードだった2014年にMVPを受賞した。ポール・ジョージがオールNBAファーストチームに選ばれ、MVPレースで3位となったベストシーズンを過ごしたのは、ウェストブルックと一緒だった2019年だ。
デュラント、ウェストブルック、ハーデンが若い頃にタッグを組み、2012年のNBAファイナルに進出(レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュを擁するマイアミ・ヒートに敗れた)したのは、高いレベルでウェストブルックがアンサンブルを見せられることの証だ。
ビールは「彼がいつもプレイするときのエネルギーや集中力に満ちてやって来ることを願っている。彼がその意欲やリーダーシップでプレイできるようにしなければいけない。MVPのときみたいにね。僕らには若い選手が多いからだ。才能があり、勝利に、さらなる向上に飢えている選手たちだよ」と話した。
「そして、ラスのエネルギーやアプローチ、試合へのメンタルアプローチは、僕らにとって完璧だと思う。僕もそれを生かしていくよ。彼から学ぶことは多い。彼は僕より年上だ。MVPで、オールNBAに9回選ばれている。すべてがあるんだ。ピースを一緒にできるかは、僕らの問題だ。僕は決して見かけで判断しない。彼とプレイするまではね。僕は彼の攻撃性、攻撃的なメンタリティが大好きだ。待ち遠しいよ」。
原文:Wizards ready for fresh start with Bradley Beal, Russell Westbrook culture shift by Sekou Smith/NBA.com(抄訳)