アディダスはなぜ2億ドルでナイキからJ・ハーデンを奪ったのか?

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先日、アディダスがジェイムズ・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)と推定2億ドル(約238億円)という破格の条件で、今後13年間のスポンサー契約を発表した。

契約をオファーした当時、ハーデンはまだナイキとの契約下にあった。ナイキとの契約には、他社からの契約にマッチする権限が盛り込まれていたため、ハーデンがアディダスに移籍する確証はなかったのだが、結果、ナイキはマッチすることを拒否。アディダスがスター選手の引き抜きに成功する。

いったなぜ、今回の契約が成立したのか、考えられる理由を次の3つの設問に回答する形で探ってみたい。


どうしてジェイムズ・ハーデンだったのか?

NBAで地位と名声を手にしたオールスター選手が、スニーカー契約を結ぶブランドを変更することは滅多にない。新人時代に契約を結ぶ選手が多く、ましてやハーデン級の選手に成長すれば、シューズブランドの移籍は簡単に容認されないものだ。

昨季、シーズンMVP候補にもあげられる大活躍を見せたハーデンは、リーグを代表するアンストッパブルな存在の実力者であると、改めて証明した。彼のように果敢にアタックし、フリースローラインに立つ選手は少なくない。しかし、接触のある状態から得点を決め、高確率で3ポイントシュートを決めるなど、オフェンス時のポゼッションの大半でボールを手にしながら、意のままに得点を決め続けるハーデンのようなタイプは稀だ。

アディダス・バスケットボールGMのクリス・グランシオは、NiceKicksのインタビューで、ハーデンを広告塔に起用した理由について聞かれた際、こう語っている。

「彼がコート上で見せるプレーについて考えたとき、(アディダスが現在契約している選手とフィットすると思う要素が)いくつかあった。まず、彼はチームの中心としてボールを保持することが多い。そして、毎試合で注目されている。予測不可能なプレーをする。独特で、予測不可能なプレーをする選手だ。率直に言って、われわれが契約している選手とは異なる」。

「われわれは素晴らしい選手たちをパートナーにしている。たとえばジョン・ウォール、デリック・ローズ、ダミアン・リラードは、コート上を駆け回るタイプの選手だ。ジェイムズのスタイルは彼らと異なる。そこが好きなところで、われわれのファミリーに素晴らしい要素をもたらしてくれるだろう」。

コート上のプレーセンスに加え、ハーデンはファッションセンスもある。つまり、ハーデンはファッションブランドとしても成功しているアディダスにとってフィットする存在なのだ。オリジナルのアパレル商品、そしてナイキでは実現しなかったフットウェア開発に携わる機会も与えられるだろう。アディダスなら、それらの商品を求める顧客に流通させられる。

これらの要素も、ハーデンがアディダスと契約した要因ではないだろうか。


なぜナイキはマッチしなかったのか?

簡潔に言えば、ナイキにとってハーデンは“ブランドの顔”ではなかった。少なくとも、そういう扱いはされていなかった。

もしナイキが、アディダスから提示された巨額の契約金にマッチするとしたら、ハーデンのシグネチャーモデルを販売していた場合に限られただろう。しかし、ナイキのシグネチャーモデルのシューズを持てている選手の数は、極めて少ない。

ナイキはNBAと42年の付き合いになるが、シグネチャーモデルが製作された選手の数は、これまでに契約した選手の1%未満で、現役選手の中ではコービー・ブライアント、レブロン・ジェイムズ、ケビン・デュラント、カイリー・アービングのみだ。アスリートのシグネチャーモデルが生産ラインに乗り、人気商品になるまでの年数を考えれば、キャリア7年を誇るハーデンのシグネチャーモデルが現在までに製作されていないということは、将来的な発売もないと言える。

ハーデンは昨季、ナイキの“Cレベル”商品と言われるハイパーチェイス、そしてラン・ザ・ワンを履いてシーズンをプレーしたが、両シューズともにナイキのハイパフォーマンスシューズとは呼べない。そして同ブランドのトップセールスシューズでもない。

昨夏、アンダーアーマーがデュラントに高額の契約をオファーした際、ナイキは10年2億6500万ドル(約316億8800万円)という契約にマッチした。これは、デュラントが一昨季のシーズンMVP選手だったからだけでなく、すでにナイキから7作目のシグネチャーモデルが販売されるなど、同ブランドを代表する存在になっていたからだ。8作目のシューズ製作に取り掛かっていた時期でもあり、セールスの観点から考えても、ナイキはデュラントを残すというビジネス的決断を下した。


両ブランドへの影響は?

先述したとおり、アディダスはローズ、ウォール、リラード、そしてハーデンという、NBAでも爆発的な力を持つアスリートをブランドのロスターに加えることに成功した。最近発表されたBoostテクノロジーを搭載した、魅力的なシグネチャーモデルを製作できるかどうかは、デザイナーの腕にかかっている。

一方ナイキは、レブロン、コービー、デュラント、アンソニー・デイビスに加え、今年のドラフト全体1位、2位指名を受けたカール=アンソニー・タウンズ、ディアンジェロ・ラッセルと契約を結び、さらに2017-18シーズンからはNBAの公式オンコートアパレルプロバイダーになるなど、安泰だ。

少なくとも、ハーデンを失ったことによるナイキの損失と、ハーデンと契約したことでアディダスが得るリターンの度合いはイコールでない、ということのようだ。

原文: Why did adidas pay James Harden $200 million to leave Nike? by Brett Pollakoff/Sporting News

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