【インタビュー】ビンス・カーター: NBA22年目を迎えた大ベテランが自らのキャリアを振り返る

Khari Arnold, NBA.com

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NBAキャリア22シーズン目を迎えたビンス・カーター(アトランタ・ホークス)が、『NBA.com』とのインタビューで自身のキャリア、対戦するのが好きだった選手、そしてなぜ最終シーズンで優勝を狙うための移籍をしなかったのかについて語った。

――ドウェイン・ウェイド、ダーク・ノビツキー、コービー・ブライアントなどから、サヨナラツアーのアドバイスはもらいましたか?

カーター: いや、まだだね。会うことがあれば話を聞いてみようとは思っている。でも正直、今は例年通り臨んでいるだけだよ。それでもまだ仕事だからね。終わってしまえば「もっと(最終シーズンを)大切に噛みしめながらやれば良かったな」と思うかもしれないけど、自分が愛することをしっかりとできているという意味では、とても大切にやっていると言えるだろう。本当に愛しているんだ。楽しいからこそ、そういう風にアプローチするのは簡単だ。

――最終シーズンで特に楽しみにしている試合はどれですか?

カーター: 以前所属したチームとの対戦全部だね。古巣との試合はとても楽しい、エキサイティングなものになるだろう。緊張より、感情が上回る。プレイしたチーム全てで良い思い出があるから、感謝の気持ちもあるね。

「あのプレイオフシリーズは、おそらく自分のキャリアでも最高のもののひとつ」

――1998年のドラフト同期が全員引退した今、親しい現役選手は誰ですか?

カーター: カイル・ラウリー(トロント・ラプターズ)は親しいね。ケント・ベイズモア(ポートランド・トレイルブレイザーズ)。ジェイ・クラウダー(メンフィス・グリズリーズ)。ほかにも忘れてる選手がたくさんいるけど、その辺りが一番よく話している現役選手だ。もっといるだろうから、あとで自分のことを恨みそうだな。でもここ2、3週間のことを考えると、今名前を挙げた選手が一番話しているかな。

――ドラフトと言えば、ご自身が大学のチームメイトであるアントワン・ジェイミソンとトレードされたときの心境を教えてください。

カーター: (デイビッド・スターン元NBAコミッショナーと)握手をしながら、写真を撮った。そうしたら彼から「このまま残ってくれ、トレードがある」と言われたんだ。誰かトレードされるのかって思ってたら、階段の下にいるアントワンが見えた。彼は僕らがトレードされることを伝えようとしてたんだけど、僕は「何、何、何?」って状態だった。ステージ上にいたから、いろいろ同時に起きていたんだよ。だから(スターンが)、「トロント・ラプターズが交渉権をトレードし…」と喋り始めたとき、「そういうことか!」って思ったよ。

――2000年のシドニー・オリンピックでフレデリック・ワイス(フランス代表)の上から叩き込んだダンクを一言で表すと?

カーター: 見当もつかない。試合が終わるまで彼の上からダンクしたことに気づいてなかったから、見当もつかなかった。

Vince Carter

――2001年のあの伝説のプレイオフシリーズ(カーターが所属していたラプターズとフィラデルフィア・76ersによるイースタン・カンファレンス・セミファイナル)で、アレン・アイバーソンとやり合うのはどんな感じでしたか?

カーター: 彼との対戦がいつも自分のベストを引き出してくれた。あのプレイオフシリーズは、おそらく自分のキャリアでも最高のもののひとつだった。第1戦は感覚が研ぎ澄まされていたのを覚えている。シーズン中に彼と対戦していたから、全力でいかないといけないことはわかっていた。確か何度か50得点以上やられてたんだ。だから予想はできた。自分らしくないプレイをする必要はないが、良いプレイはしなければならない。彼が76ersの中心だったように、僕もラプターズの中心選手だったからね。自分が得点しないといけないことはわかっていたが、同時にそれが常に張り合うことでないことも理解していた。それができない。アレン・アイバーソンは唯一無二の存在だからね。

もし彼が55、56得点するならば、自分たちが勝つためには自分もしっかりと活躍する必要があった。確か初戦は42得点で、良い試合ができた。第2戦で彼が54得点すると、このチームにはあまり差を開けられてはいけないと感じたね。(どちらのチームも)シリーズ勝者がファイナルに進出できるんじゃないかと考えていた。ミルウォーキー(バックス)を悪く言うつもりはないけどね。(注:カーターは初戦で35得点だったが、第2戦のアイバーソンの54得点に対して、第3戦で50得点を記録した)

――その第7戦の日の心境を教えてください。やはりほろ苦かったですか? 朝は大学の卒業式で学位を取得する喜びがありましたが、試合では決勝ショットを外し、シリーズ敗退となりました。

カーター: 凄い1日だったよ。いろいろあったね。やり直すとしても何も変えない。同じ通りに過ごす。人生の目標、家族の目標を成し遂げることができ、大学生と教育者なら誰しもが楽しみにする日だったんだ。そして最高の1日にしたいという思いがあった。第7戦という最大のステージで、76ers相手に決勝ショットを決めたと言える人はあまり存在しないだろう。

――1本のショットが語り口をあれだけ変えてしまうのは凄いことですね。

カーター: そうなんだ。そして多くの人が「ただの学位なのに」とか「学位なんて金で買えるだろ」とか「(ステージ上を)歩く意味なんてあるのか」と言っていたのを聞いたり、読んだりするのが悲しかった。意味がわからないよ。毎日、僕は玄関で卒業証書を見るけど、それはとても誇らしいことなんだ。(バスケットボールが)終わっても、僕にはまだこれがある。僕は教育者の家族で生まれ育った。僕の家族はみんな教師だったり、教育の現場で何かしらやっている人たちばかりなんだ。

――キャリアを通して対戦するのが一番好きだった選手は誰ですか?

カーター: T-Mac(トレイシー・マグレディ)。コービー(ブライアント)。彼らとは一緒にプレイしていたからね。コービーと僕はAAU(アマチュア・アスレティック・ユニオン)で一緒にプレイした。T-Macはもちろん親族だから、スーパースターの従兄弟と対戦する感覚は最高だよね。あれに勝るものはない。

「あれは僕にとってもうひとつのチャンスだった」

――2003年のオールスターゲームで、最終シーズンをプレイしていたマイケル・ジョーダンに先発の座を譲ったときのことを教えてください。

カーター: オールスター・ウィークエンドを迎えたときに、デイビッド・スターンと少しそれについて話したんだ。でも個人的には話し合う必要もないと感じていた。MJに先発してもらうことは、自分にとっては迷うことでもなかった。問題は、リーグ側が彼を説得できるかだって伝えたんだ。彼(ジョーダン)が納得しないんじゃないかって感じていたんだ。彼に少しそれを伝えたとき、彼は「いや、先発はお前だ。お前が勝ち取ったものじゃないか」と言った。

だからラインナップが発表される直前に、僕は「MJ、あなたが先発です。以上。あなたが先発です」って伝えたんだ。彼が先発せざるを得ないように僕は一番後ろに下がっていったんだ。お互いに譲り合いだったね。そしてようやく彼が出て行った。名前を呼ばれたらさすがにやるだろうって思ったんだ。


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――今シーズンは名誉枠でオールスターに選ばれたいという気持ちはありますか?

カーター: いやいや。もしそれに値するプレイができていれば受け入れるけど、そういうのは僕じゃないな。悪い風に受け取らないで欲しい。僕はそういう人間なんだ。僕はオールスター選出や投票リーダーになることをとても大切に思っているから、ちょっとわからないな。受け入れるのは難しいかもしれない。でも、少し時間が経てば考えも変わるかもしれないね。

――アロンゾ・モーニングの上からダンクしたのを、自身の歴代ベストダンクとして挙げていました。そのときのことを教えてください。

カーター: とにかく飛び上がったことを覚えている。彼がゴール下にいたので、もし彼より先に飛び上がればチャンスがあると思ったんだ。そこで当たられても、身体はリムのほうに向かっていくからね。でも彼は、上がりながら身体を当ててきたから、僕はよりリムに近い位置まで上昇したんだ。いつもと違う角度からリムを見ながら、これは外せないなと思った。クールに装おうとしていたけど、内心、7歳の少年のような気持ちだったよ。だって相手は史上最高のショットブロッカーのひとりであるアロンゾ・モーニングだったんだよ。

――ご自身のキャリアで最大の「あのときもしも」という瞬間は何ですか?

カーター: もし(76ers相手に)あのショットを決めていたら? もし決めていたら? 次はどうなるんだろう? わからない。もしT-Macと僕がもっと長いこと一緒にプレイしていたら? もうひとつあるな。もし僕がオーランド(マジック)でプレイしていたときに、6戦でボストン(セルティックス)に敗退していなかったら? チャンスはあったからね。彼らは結局ファイナルに進出した。あれは僕にとってもうひとつのチャンスだったから、それも「もしも」って感じる瞬間だ。いつも考えていた。

スティーブ・スミスが深堀り!  ビンス・カーター「ザ・インタビュー」

――ニュージャージー(ネッツ)を去って、地元のオーランドでプレイすることがわかったときはどんな気持ちでしたか?

カーター: この話はあまり知られていないかもしれないけど、僕がオーランド・マジックにトレードされた日は、マイケル・ジャクソンが亡くなった日と同じなんだ。2009年6月25日のことだ。その日はバスケットボールキャンプを開催していて、弟から電話があったんだ。(トレードのことを)彼が教えてくれて、とても興奮していた。そして夕食のときも、友人たちが「地元に帰ってくるなんて最高だよ」と話していた。

とても喜んでいたら、レストランで隣に座っている女性が「なんで喜べるのよ」って言ってきたんだ。当時はまだ今みたいにソーシャルメディアが流行っていなかったから、誰も知らなかったんだ。僕らはトレードについて興奮していただけだった。だから友人が「ニュースを聞いたの?」って聞くと、彼女は「なんでそれで喜べるの? 世界中が悲しんでいるのよ」って答えるんだ。友人は「何を言っているんだ? 俺のダチがマジックにトレードされたんだぞ」って言うと、「マイケル・ジャクソンが死んだのよ」って言われて、全員が「えっ?!」ってなったよ。

「自分らしくないプレイをしてはいけない」

――若い世代とはどうやってコミュニケーションを取るんですか? NFLスターのラリー・フィッツジェラルドが、10年前とはだいぶ違うと話していたのを読みました。

カーター: まずはしっかりと話を聞いて学ぶことが大切だ。そしてバスケットボールについての話が軸にあって、そこから自然と好きな音楽とかの話に広がっていく。年配者として、若い選手たちが僕に合わせると言うよりも、僕が新しいスタイルに合わせる感じだね。我々が対応しなければならない。ラリーや僕、トム・ブレイディなんかは周りに合わせる必要があるんだ。

――若い選手から“ミスター・カーター”と呼ばれることはある?

カーター: 何人かいるね。「ビンスって呼んでくれよ」って言うよ(笑)。考えられないね。

Vince Carter

――ダンカーというレッテルを貼られた状態でリーグ入りしたザイオン・ウィリアムソン(ニューオーリンズ・ペリカンズ)にはどういったアドバイスをしますか?

カーター: 自分を強く持つこと。彼は高校を卒業してからまだ2年も経っていない。NBAにやってくると、選手たちはそれぞれが成長する必要があることを伸ばしていく選手になれることを要求される。僕もダンカーとしてリーグ入りしたんだけど、いろんな人に「多少シュートできるのは知っていたけど、ダンクするのが見たい」って言われた。今も同じだよね。

ザイオンがジャンプショットを打つのは見たくない。自分の応援しているチーム相手じゃなければ、ダンクしてるのを見たい。自分の応援しているチーム相手だったら「ジャンプショットを打たせろ」って言う。でも、ただのファンだったら「ダンクしてるのが見たい。誰が相手でもダンクして欲しい」ってなる。それが現実なんだ。だからそれに捉われず、しっかりと自分のプレイをすることだ。彼が良いハンドリング能力を持っていることを知らない人は多い。良いパサーでもある。

――ショットブロッカーでもありますね。

カーター: そう、いろいろできるんだよ。(ペリカンズと)対戦したとき、彼には自分をしっかりと持って、周りのそういった声はそのうちなくなっていくということを伝えた。自分らしくないプレイをしてはいけない。するとどうなる? 周りは彼を失敗だったと言い始めるんだ。それでもとにかく自分自身でいること。周りのことは勝手に解決する。いずれ周りは僕がシュートできる、得点できる、パスができることを知ることになるとわかっていた。辛抱強くやる必要があったけど、これが全員にとっての解決策ではないと思う。ソーシャルメディアでいろいろ言われているから、自分を証明しないとって考える人もいるだろう。僕はそうじゃなかった。

「プレイすることを愛している」

――キャリアのこの段階でも多くのチームから声をかけられましたよね。カーメロ・アンソニーはなぜチャンスを与えられないのだと思いますか?

カーター: 状況が違うね。ここまでくるともうタイミングの問題だと思う。間違いなく彼はNBAでプレイしているべき選手だと思うよ。彼はリーグ史上、屈指のスコアラーだ。純粋なスコアラー。いずれプレイオフに出られそうなチームが、彼の得点力と能力を必要として獲得すると思う。もし彼がベンチから出場する気があるのであれば、あのスターターとしての気概でプレイしてチームを助けてくれるだろう。

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――キャリア晩年に優勝を追い求めて移籍する選手が多いですが、あなたはなぜそうしなかったのでしょうか?

カーター: それはできない。とにかくできない。僕は自分のキャリアをそういう気持ちで迎えなかった。今はいろいろと考え方も違う。体験している状況も違う。20年前にプレイされ、知られていたバスケットボールのやり方とはもう違うんだ。だから自然とそれに対応している。トレイ(ヤング)が15年目、20年目を迎えたとき、彼の知識はどうなっているだろう? 僕が知っていたこと、当時どうだったかは知らないだろう。彼や、今入ってくる選手たちは今の時代を知ることになる。そういうものなんだよ。

――人々にビンス・カーターをどういうふうに覚えていてもらいたいですか?

カーター: プレイすることを愛している人。人に「なんでこれをしてるの? なんでそうやってるの?」と聞かれることがあるけど、それはプレイすることを愛しているからなんだ。好きじゃなければ、ドリルとか練習とかそういうのはできないよね。ただただ、プレイすることを愛しているんだよ。リーグ入りした若い僕が、笑顔で楽しんでいたのを見てきたと思う。42歳になってもそれは何も変わっていない。今でもプレイをすることを愛している。ここにいることが大好きだ。今年は優勝が厳しいであろう若いチームでプレイしているけど、それでもプレイして競争することが大好きだ。楽しんでいるんだよ。

原文:Q&A: Vince Carter on battling Allen Iverson, his biggest “what ifs” and what he told Zion by Khari Arnold/NBA.com

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