17年前の夏、ビンス・カーターはトロントのバスケットボール史上に残る重大な決断を下した。大方が『The Lower 48』(アラスカとハワイを除いた米国48州)に拠点を置く球団と契約すると考えていたなか、カーターはトロント・ラプターズとの延長契約を選択したのだ。バンクーバー・グリズリーズ(現メンフィス・グリズリーズ)が本拠地を移転させたタイミングと重なる時期に、彼はカナダに残って力を尽くすことを決めたのだった。
今年の夏、ラプターズのマサイ・ウジーリ球団社長は、生え抜きエースのデマー・デローザンをサンアントニオ・スパーズにトレードする決断を下した。カワイ・レナードを獲得するため、カーターと同じく球団に力を尽くしてきたデローザンを放出したのだ。
カーターは、今回のトレードに関して、落ち着いた口調ながらも驚きを隠さなかった。
「『Wow』と言ってしまうくらいのトレードかな。そういうことだよ」。
カーターが所属していた当時と比べて、ラプターズも様変わりした。トロントに忠誠を誓っていたデローザンがスパーズにトレードされて感じているフラストレーションを、カーターは理解している。その上で、チームマネージメントについて、こう語った。
「GM(ゼネラルマネージャー)というポジションともなれば、本拠地や選手について周りとは異なる考え方を持っているものだ。それぞれの状況次第だね。デマーは、トロントでたくさんのことを成し遂げてきた。もし彼が望めば、ラプターズでキャリアを終えるのに値するだけの資格を持つ選手だ。ただ、球団の考えは違ったというだけのこと」。
「今回のトレードが機能するかは誰にもわからない。もし上手くいけば誰もが今回の件を忘れるし、もし失敗したらラプターズに批判が集中するだろう」。
カーターがラプターズからニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)にトレードされたのは、14年も前の話だ。来年の1月に42歳になるカーターは、10年前のように1試合20得点を記録する選手ではなくなったが、今も現役を続けている。そして、今夏アトランタ・ホークスと1年契約を結び、NBA21年目のシーズンを迎える。
来季が現役最終年になる可能性を理解しているカーターだが、まだキャリアに終止符を打つ準備は整っていない。
カーターは「来季が最後になるかもしれない。だから、毎日が闘いになる」と言う。
「友人も、家族からも『どうなるかんて誰にもわからないだろ』と言われる。たしかに、自分でもどうなるかわからない。それでも、来季が最後になると思っているよ。コンディションは良い。ただ、いつが最後になるかは自分で決めることだから」。
「でもね、もし先月に同じ質問をされていたら、きっと『来季が終わっても、次のシーズンもやれる』と答えていたと思う。今の時点では、90%以上の確率で来季が最後になると思っている。ただ、来シーズンが終わってから決断するよ」。
カーターは、すでに引退後のキャリアの準備を進めている。解説者、リポーターとしての仕事もこなしているカーターは、来週開催される第1回 Jr. NBA世界選手権を中継する『Fox』で解説者を務める予定だ。また、昨季のプレイオフ、NBAサマーリーグ期間中も中継の仕事をこなしていた。
カーターは「バスケットボールについて教えるのは好きだけれど、指導者にはなりたくない」と話す。
「(テレビの仕事は)指導する一つの形。ただ、その対象が観客になる。試合をテレビで見ているファンはいろいろと疑問に思っているし、自分の意見を持っているファンもいる」。
「自分はNBAの中にいる人間として、彼らの意見を尊重できる。プレイヤーとしての立場ではなく、観客としての立場から疑問に思うことについて答えられる。自分なら試合中の数時間、毎日だってやれるよ。これは、ヘッドコーチというポジションに就かなくても指導者になれる一つの方法だと思うんだ」。
現役選手を続けるカーターに寄せられることの多い質問の一つは、“どうして優勝を狙えるチームと契約しないのか?”になるだろう。『再建途中のホークスでは優勝を狙えないのでは?』と聞かれたカーターは「アトランタは優勝を狙っているよ」と答えた後、笑顔で「冗談だよ。話を続けようか」と話した。
「僕はチームでプレイしたいんだ。出場時間が短くて、メンターの役割だけを担うのなら、どのチームでだってやれる。でも自分はプレイしたい。何分でもいいからプレイしたいんだ。教えるのも好きだし、どのチームでだって教えられる」。
「(優勝候補と契約しないのは)それが自分だから。僕は、今とは異なる時代の選手で、その当時の考え方が染みついてしまっている。(優勝候補と契約する選手については)何の問題もない。ただ、自分の考え方ではない、というだけ」。
17年前に延長契約を結んでラプターズ残留を決めたカーターは、当時のNBAでは新しい考え方を生み出したイノベーターだった。今オフ、低迷期にあるホークスと契約した彼は、自分自身の原点に立ち返ったのだ。
原文:Vince Carter on shocking Raptors trade, possible retirement and ring-chaser mentality by Sean Deveney/Sporting News(抄訳)