サンダーのダニーロ・ガリナーリが語った「あの夜」と母国イタリアの現状

大西玲央 Reo Onishi

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オクラホマシティ・サンダーのダニーロ・ガリナーリは、イタリア出身ということもあり、ほかのNBA選手に比べて早い段階から新型コロナウイルスの猛威については理解していた。さらに、ウイルスの影響がNBAにまで及んだとき、初めて中止となったサンダー対ユタ・ジャズ戦にも出場する予定だった彼は、まさに当事者となったのだ。

The Players' Tribune』に寄せた手記で、ティップオフ前のコートにいつも一番に出てくるガリナーリは、その時点で何かがおかしいことに気づいた、と語っている。

「いつもコートに行くと、3人のレフリーは決まった場所に立っているんだ。ひとりはハーフコート、そして各フリースローラインにもひとりずつ。しかしあの夜は、レフリーが見当たらなかった」。

混乱が生じ、チームに何も情報を与えられないままロッカールームに戻るよう指示されるなか、ガリナーリは真っ先にコロナウイルスではないかと疑ったという。イタリアは最もひどく影響を受けている国のひとつで、この試合が行なわれた3月11日(日本時間12日)より1か月以上前から、母国が苦しんでいるのを彼を見てきていたのだ。

ガリナーリは多くの家族や友人がイタリアに住んでいることもあって、そのメッセージ性は強烈だ。数週間前に大の親友から、彼の祖母が亡くなった一報を受けたときの描写は、イタリアの厳しい状況が伝わってくる。

「僕もよく知っている、彼の祖母がウイルスの影響で亡くなったと伝えられた。彼女は80歳で、感染するまでの健康状態はとても良好だったんだ」。

「彼の祖母が亡くなった後、家族は最後のさようならを言うことすら許されなかった。向こうの病院は、亡くなった患者を埋葬のために隔離された場所に運び出す。誰にも近付いて欲しくないため、家族にすらどこに連れて行かれているのかは伝えられないんだ」。

自身の家族からはまだ感染者は出ていないようだが、不安なことに変わりはないだろう。そして、イタリアでは医療崩壊を起こしていることから、骨折や盲腸など、違う原因で病院に行っても治療をするための医師や場所が足りておらず、新型コロナウイルス以外の原因でも死者数が激増しているという。

そんな厳しい現状でも、ガリナーリはポジティブに、前向きに進もうと尽力している。チームのグループチャットや『FaceTime』によるテレビ通話などを例にあげ、そうしてチームで一体感を得られることがとても助けになっているようだ。

「ビデオ通話をするときは、試合をプレイするときと同じような流れになる。なぜならCP(クリス・ポール)がいるからね。彼はコート上だけのリーダーではない。FaceTimeの会話でもリードしてくれる」。

「それ以外でもCPとは毎日話している。彼は素晴らしい人間だ。本当にね。イタリアで大変になり始めたとき、彼は地域や地域の病院を支援したいと申し出てくれ、いくつか手助けしてくれたんだ。感謝しきれない。イタリアという国は、クリス・ポールという素晴らしい友人を持っている。それだけは自信を持って言える」。

Danilo Gallinari Chris Paul Thunder

この手記のなかで、ガリナーリは逆境を乗り越える様子をスポーツに例えている。このような状況下で、スポーツやエンターテインメントはまずいらないものとして分類されがちだが、ガリナーリはスポーツで学んだことを今に活かしているという。

「バスケットボールでは、大きな逆境に直面しても諦めないチームこそが最高のチームだ。最後までお互いの背中を支え合うような選手たちで構成されており、厳しい状況を共に戦い抜く」。

「イタリアという国、そして人々の情熱、愛情、決断力を知っているからこそ、躊躇なく、あの国は最高のチームだと言えるんだ」。


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大西玲央 Reo Onishi

大西玲央 Reo Onishi Photo

アメリカ・ニュージャージー州生まれ。国際基督教大学卒。NBA Japan / The Sporting Newsのシニアエディター。記事のライティング以外にもNBA解説、翻訳、通訳なども行なっている。訳書には『コービー・ブライアント 失う勇気』『レイ・アレン自伝』『デリック・ローズ自伝』「ケビン・ガーネット自伝』『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』。