シーズン開幕時、デンバー・ナゲッツのニコラ・ヨキッチに関する懸念があったのを覚えているだろうか。もう遠い昔のようだ。
2度目のプレイオフでなるヨキッチは、再び歴史的な歩みでエリートクラスのひとりという立場を確実にした。ユタ・ジャズとのウェスタン・カンファレンス・ファーストラウンドでは、ジャマール・マレーに1番手の座を譲りながらも、平均26.3得点、8.1リバウンド、5.4アシストを記録。ロサンゼルス・クリッパーズとのウェスタン・カンファレンス・セミファイナルでは、平均24.4得点、13.4リバウンド、6.6アシストと活躍した。
優勝候補の呼び声が高かったクリッパーズに引導を渡し、1勝3敗からの逆転を成し遂げ、ロサンゼルス・レイカーズとのカンファレンス・ファイナル進出を決めた最後の試合で、ヨキッチは16得点、22リバウンド、13アシストとトリプルダブルを達成している。
多くの点でヨキッチは独特な選手となっている。だが、いかにしてリーグ最高峰の守備相手に攻め続けられているのかに光を当てているのが、今季のプレイオフにおける3つのプレイだ。
まずは、このポゼッションから見てみよう。
これはかなりシンプルだ。ヨキッチはNBAでも有数の支配的なポストスコアラーである。
『NBA.com』によると、レギュラーシーズンではポストから平均5.1得点を記録している。フィラデルフィア・76ersのジョエル・エンビード(9.1得点)、サンアントニオ・スパーズのラマーカス・オルドリッジ(5.6得点)に続く数字だ。ポストアップからは1ポゼッション平均で1.06得点をマークしていた。
プレイオフではここまで、ポストアップからの1ポゼッション平均は0.92得点と、これまでに比べると効率性は落ちていた。だがそれでも、攻撃の1/5はポストから生み出しており、リーグ有数の数字だ。
また、ヨキッチはポストエリアで誰が相手であろうと得点ができる。例えそれが最優秀守備選手賞を2回受賞したルディ・ゴベアが相手でも、だ。ヨキッチにスペースを与えれば、バスケットを向いて、ミドルレンジのジャンパーを沈められる。プレスをかければ、あのサイズの選手なら予想しない優雅なターンでバスケットに向かわれる。真っ向からいけば、様々なフェイクでバランスを崩される。
では、どうすればいいのか。1番目の選択肢は、ある程度ヨキッチがここから攻めてくることを我慢すること。これはとてもリスキーだ。2番目の選択肢は、彼にダブルチームにいくこと。ただこれも、同じようにリスキーなのだ。
そこで、2つめのポゼッションを見てみよう。
まず、センターがポストでヨキッチを守るのに苦しんでいるわけなので、マーカス・モリスSr.のようなフォワードに勝機はほとんどないと言っていい。このため、ナゲッツはポゼッションの序盤でマレーなどにスクリーンをかけさせ、ヨキッチに小さいディフェンダーがスイッチで守らなければいけない状況を作り出し、できるだけゴールに近い位置でボールが回るようにヨキッチをよく動かすことが多い。
次に、ふたりにマークされているにもかかわらず、ヨキッチがいかに冷静かということだ。このケースではしかもひとりは、長きにわたってリーグ有数のディフェンダーであるポール・ジョージだ。7フィート(約213センチ)という高さが役に立つ。大半のマークの上から見渡せ、頭の後ろにボールを持ち、とらえにくくするからだ。それでも、あれだけ長くプレッシャーに対峙し、ピンポイントのパスを出すのは、簡単なことではない。
それに、パスフェイクにも気づいただろうか?わずかだが、カワイ・レナードとイビツァ・ズバッツをだまし、ジェレミー・グラントのためにペイントを空けるには十分だった。
最高だ。
そして3つ目、最後のポゼッションだ。
2つ目とそっくりだが、今回はギャリー・ハリスの3ポイントショットにつながっている。
これこそ、同じポジションのその他の選手たちとヨキッチの差だ。多くのセンターは型にはまったパスを出す。だが、ヨキッチは違う。彼は状況を読み、リアルタイムで相手の守備に反応するのだ。レブロン・ジェームズやルカ・ドンチッチ、クリス・ポールのように。ふたりのディフェンダーにプレッシャーをかけられながら、シューターに向けてクロスコートのパスを出せるというだけでなく、完璧なタイミングでそれをやってのけることができる。この場合なら、2つ目のポゼッションみたいなダンクをグラントに許すまいと、ルー・ウィリアムズがスイッチするやいなや、ヨキッチはパスを出した。
1秒早ければ、ウィリアムズはスイッチでグラントにつかなかっただろう。1秒遅ければ、モリスがコンテストに間に合っていたかもしれない。
つまり、ヨキッチは正しいパスを出せるだけでなく、パスで相手チームをバラバラにするのだ。ポストで大半の選手を痛めつけられる能力によって、そのパスのすべてが強力な武器となっている。前述のとおり、ダブルチームにいけばいまいましい思いをすることになり、ダブルチームをしなくても、同じ思いをさせられるのだ。
ジャズとクリッパーズはそれを手厳しい形で学んだ。次は、レイカーズが暗号を解けるかどうかだ。
原文:Pick your poison: Nikola Jokic's offensive brilliance in three possessions by Scott Rafferty/NBA Canada(抄訳)