優勝候補ニックス相手の3連敗を回避させたトニー・クーコッチのウイニングショット
シカゴ・ブルズのドキュメンタリー番組『The Last Dance』(邦題『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』/Netflix)の第7話では、1993-94シーズンが取り上げられる。
この年、優勝を逃したブルズだが、マイケル・ジョーダンの引退で多くの人が予想していた以上の成功を収めた。ジョーダン不在のなか、スコッティ・ピッペンがMVP候補となる活躍を披露。プレイオフのカンファレンス・セミファイナルでは、レギュラ-シーズンでアトランタ・ホークスと並んでイースタン・カンファレンス最高の成績を収めていたニューヨーク・ニックスを相手に第7戦まで競った。
ただ、ニックスとの対戦で活躍したのは、ピッペンだけではない。0勝2敗で迎えた第3戦、勝利を決めるショットを沈めたのが、トニー・クーコッチだった。1990年代後半のブルズの成功に必要不可欠だったクーコッチは、この時素晴らしいショットを決めている。
On this day in 1994: Tied at 102 with 1.8 seconds left in Game 3 of the Eastern Conference Semifinals against the New York Knicks, Toni Kukoc hit the game-winner.
— Chicago Bulls (@chicagobulls) May 13, 2018
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状況解説
クーコッチ、スティーブ・カー、B.J.・アームストロング、ホーレス・グラントがフリースローラインで並ぶ状況で、ピート・マイヤーズがインバウンドパスを入れる。クーコッチはグラントとカー、そしてアームストロングを挟むように立っていた。
グラントがアクションを起こし、反対側に向かって走り、クーコッチを軸に周るようにバスケットのほうへ向かう。
グラントがクーコッチのそばを通ると、クーコッチ、カー、アームストロングはそれぞれ異なる方向に別れる。カーが3ポイントラインのトップ、アームストロングは右ウイングだ。
102-102と同点で迎えた残り1.8秒、ブルズの選手たちをフリーにしたくない守備側は、一歩一歩ついていく。
グラントがバスケットの下、カーがハーフコートライン近く、アームストロングがウイングに位置し、クーコッチはフリースローラインに残る。ディフェンダーはアンソニー・メイソンだ。クーコッチはメイソンを抑え、マイヤーズからのパスコースを作る。マイヤーズは6フィート8インチ(約203cm)のチャールズ・オークリーの上からロブでパスを出した。
1997年のオールディフェンシブ・セカンドチームに選ばれたメイソンは、タフなディフェンダーだ。だが、その身長は6フィート7インチ(約201cm)とクーコッチより4インチ(約10cm)小さい。それが、クーコッチに反転してショットを打つ自信を与えた。
簡単なショットではなかった。だが、クーコッチには打てるショットだった。彼は、特にそのサイズにしては堅実なシューターだったのだ。
試合後、クーコッチは「どうやったかって? 簡単さ。シュートを打って、決まるのを願ったのさ」と話している。
「ボールが手の中に届き、考えることは多くなかった。かなりよくバスケットが見えたんだ」。
なぜ重要なのか
このプレイについて知っておくべきことがいくつかある。
まず何より、ブルズがこのプレイを使ったのは初めてではなかったということだ。この数か月前のインディアナ・ペイサーズ戦、残り0.8秒という場面で、フィル・ジャクソン・ヘッドコーチはまったく同じプレイを指示していたのである。唯一の違いは、ボールを入れるのがマイヤーズでなくピッペンだったことと、クーコッチが打ったのは3ポイントショットだったということだけだ。
ニックスがこのプレイを知っていた可能性はある。セットアップやグラントの動きに対する反応から、知っていたと考えられる。だが、クーコッチはそれでも状況を考えて堅実なショットを打つことができた。
次に、このシーズンのクーコッチが決めたクラッチショットは、これだけではなかったということだ。
1993-94シーズンの確認できるスタッツは限られているが、勝利を決めるブザービーターのショットを複数回決めたのは、リーグでクーコッチしかいなかった。しかも、彼はそういうショットをほかに少なくとも2本決めている。1本目は、ミルウォーキー・バックスに勝利したシーズン4戦目の3P。もう1本は、オーランド・マジック戦でシャキール・オニール相手に決めたクリスマスのショットだ。
また、1993-94シーズンのクーコッチはルーキーだった。25歳のオールドルーキーだったことは確かだが、新人に変わりはない。ブルズほど注目されるチームで、ルーキーながら多くのビッグショットを決めたのだから、信じられないほどに素晴らしい。
さらに、この試合でクーコッチが決めたのは、このショットのほかにもう1本しかなかったということも知っておくべきだろう。このウイニングショットまで、第3戦の彼は13分間のプレイでフィールドゴール5本中1本成功だったのだ。ブルズが彼を最も必要とする場面で見事なまでに結果を出し、シーズン最低のパフォーマンスのひとつになりそうだった試合を覆したのである。
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そしてこれが、最後のポイントだ。クーコッチがこのショットを決めていなければ、ブルズのシーズンは終わっていた、ということだ。
最終的にシリーズを落としたブルズだが、開幕前に優勝候補だったニックスを相手に、ジョーダン抜きで第7戦まで持ち込んだ。クーコッチのこのショットが決まらなくても、オーバータイムの末にブルズが勝つ可能性はあったかもしれない。だが、チームのベストプレイヤーが怒っていたこと(※このプレイの直前にピッペンが自分にラストショットを託されない戦術に腹を立てて出場を拒否していた)、そしてニックスに勢いがあったことを考えれば、ブルズは敗れていたのではないだろうか(ニックスは第3クォーターで最大22点差というビハインドを跳ね返して同点としていた)。そしてその場合、ブルズは3連敗となっていたのだ。3連敗からシリーズを逆転したチームは、NBAの歴史に存在しない。
繰り返すが、いずれにしてもブルズがシリーズを制すには至らなかっただろう。だが、このクーコッチのショットがいかに重要だったかを考えれば、コートに立たないというピッペンの決断が呼んだ論争の影にその存在を薄められるべきではないショットだ。
原文:One Play: Toni Kukoč's game-winner against the New York Knicks deserves to be more than a footnote in NBA history by Scott Rafferty/NBA Canada(抄訳)