ネブラスカ大学を好転させた富永啓生がマーチ・マッドネスにその魅力的なプレイを持ち込む

Mike DeCourcy

大西玲央 Reo Onishi

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富永啓生がネブラスカ大学でキャリア最後のホームゲームを戦った日、『Big Ten Network』の配信チャンネルであるB1G+が彼の功績を称えるビデオを作成した。それには彼のキャリアのハイライトと、父親が出席したシニアデーの祝賀会の短い映像が含まれていた。

コーンハスカーズ(ネブラスカ大学の愛称)で活躍した富永のハイライトを90秒にまとめるのがどれほど大変だったか、想像できるだろうか。彼が生み出してきた数々の劇的な瞬間の中から選ぶのは至難の業だ。

テキサス州のレンジャーカレッジから転校してからの3シーズンで、通算1053得点を挙げた富永は、その得点力によってネブラスカ大学に息を吹き込み、10年ぶりに同校をNCAAトーナメント出場へと道いた。しかし彼のパフォーマンスが観る人の記憶に残るのは、そのスペクタクルの度合いである。

NCAA男子バスケットボール界で、富永ほど多様な方法でボールをリングに入れることができる選手はいない。

富永が最も注目されるのは、センターコートのロゴからでも放たれる3ポイントショットと、それに続くドラマティックなセレブレーションだろう。もちろんどちらも素晴らしいが、ゴール下やペイント内で長身選手の間をくぐり抜けながら、誰にも見えていない隙間を見つけてショットを放ち、スピンをかけてバックボードやリングに当てながら得点するなど、さらに息を飲むような場面を連発する。

富永はそのスタイルと3ポイントシューターとしての有効性から『和製ステフィン・カリー』と呼ばれているが、正直なところ、彼のゲームにはピート・マラビッチを彷彿とさせるものがある。

マラビッチは、1960年代から1970年代初頭にかけてLSU(ルイジアナステイト大学)でプレイし、その後NBAのキャリアでも、『ピストル・ピート』の愛称で巧みなドリブルや様々な小技を駆使し多くを魅了した選手。そしてそれに似たような技術が、富永をネブラスカ大学で最も際立たせているのだ。

関連記事:富永啓生のネブラスカ大学での成績・スタッツまとめ

ラトガース大学のスティーブ・パイケル・ヘッドコーチは、「我々は常に彼の3Pショットとチャンスを制限しようとしているが、彼は本当にいいバスケットボール選手になった」と語る。

「彼がやって来た1年目は、3Pかゼロかだった。今ではあらゆることができるようになっている。感情的なプレイも見せるようになった。とにかく守るのが難しい選手だ」

富永率いるネブラスカ大学は、日本時間3月23日(土)の朝に行われるテキサスA&M大学との試合で2024年のマーチ・マッドネス(NCAAトーナメントの異名)を開始させる。そして、もし歴史が繰り返されるのであれば、その日が彼らのシーズンを締めくくる日となる。

ネブラスカ大学はNCAAトーナメントで一度も勝利したことがないのだ。モー・アイバがヘッドコーチだった1986年に初めてNCAAトーナメントに進出し、その後1991年から1998年の間にダニー・ニーHCの下で5回、そして2014年にティム・マイルズHCのチームが一度NCAAトーナメントに進出している。

しかし、当然ながらその頃のネブラスカ大学は富永を擁していなかった。

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今季はフレッド・ホイバーグHCの5シーズン目であり、23勝9敗という成功を収めたのは富永が2022-2023シーズン終盤から試合を支配できる能力を見せ始めるようになったことに直接起因しているのがわかる。7試合で6敗を喫し、ビッグテン・カンファレンスでの成績が借金6と苦しんでいたときに、富永は試合をひっくり返すパフォーマンスを見せた。

5本の3P成功を含むフィールドゴール18本中12本成功で、大学キャリア初となる30得点を叩き出したのだ。その試合でネブラスカ大学はNCAAトーナメント出場をすでに決めていたペンステイト大学に勝利したことで好転し、シーズン終盤を6勝2敗の成績で終えて勝率を5割にまで戻した。ホイバーグHCの下で、初めて負け越さないシーズンとなった。富永が30得点をマークしたあの試合以降、ネブラスカ大学は7割近くのペースで勝利を重ねており、2023-2024シーズンはビッグテン・カンファレンス3位という、同大学にとっては30年以上ぶりの好成績を残したのだ。

リンカーンにある本拠地のピナクル・バンク・アリーナにて、ネブラスカ大学は富永の30得点ゲーム以降、24試合で22勝している。

「ネブラスカは自分にとって第二の故郷です」と富永はネブラスカ大学のビデオで話した。

「もう何年も過ごしていますが、多くの人が僕のことをサポートしてくれ、最高です」

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ネブラスカ大学を好転させたのはもちろん富永だけの力ではないが、それでも彼の左手は多くを生み出してきた。多くの3ポイントスペシャリストは、その精度を維持するために、コート上の特定の場所だったり、特定のアクションや動きからショットを放たなければならないのに対し、富永はドリブルから、ハンドオフから、あるいはキャッチ・アンド・シュートからとあらゆる場面で効果的で、それこそが彼が特別な存在である所以だ。ホイバーグHCは自身のラジオ番組で、富永は自身がこれまで指導してきたシューターたちの中でも「トップクラスだ」と語った。

「アイオワステイト大学で3Pで全米をリードするチームを指揮していたが、そのチームには多くの優れたシューターがいた」とホイバーグHCは話す。

「その後NBAでプレイしたマット・トーマス、その年に全米トップ3Pシューターとなったタイラス・マギー、リーグ屈指のシューターとなっているジョージ・ニアン。シュートを決められる選手がたくさんいた」

「今の啓生を見てみると、ネブラスカに来た当初、明らかに適応を必要とする時期があり、フィジカルの強さに苦しむような試合もあった。私が彼を高く評価しているのは、自分よりも大きくて強い相手とやりあえる強さを手に入れた上に、多くの対戦相手にフェイスガードされながらもショットを決める能力を身につけたことだ。啓生の進歩には目を見張るものがある」

原文:Nebraska's Keisei Tominaga brings his dazzling style to March Madness after helping spark Huskers' turnaround

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Mike DeCourcy has been the college basketball columnist at The Sporting News since 1995. Starting with newspapers in Pittsburgh, Memphis and Cincinnati, he has written about the game for 35 years and covered 32 Final Fours. He is a member of the United States Basketball Writers Hall of Fame and is a studio analyst at the Big Ten Network and NCAA Tournament Bracket analyst for Fox Sports. He also writes frequently for TSN about soccer and the NFL. Mike was born in Pittsburgh, raised there during the City of Champions decade and graduated from Point Park University.

大西玲央 Reo Onishi

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アメリカ・ニュージャージー州生まれ。国際基督教大学卒。NBA Japan / The Sporting Newsのシニアエディター。記事のライティング以外にもNBA解説、翻訳、通訳なども行なっている。訳書には『コービー・ブライアント 失う勇気』『レイ・アレン自伝』『デリック・ローズ自伝』「ケビン・ガーネット自伝』『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』。