3月と言えば、アメリカでは大学バスケットボールが盛り上がる時期だ。3月中旬に開幕されるNCAAトーナメントを中心に『マーチマッドネス』と銘打たれ全米が熱狂する。
ここまでNBAで活躍する選手たちがプレイした大学とそのカンファレンスを、ハイメジャー編とミッドメジャー編に分けて紹介してきたが、今回はNCAAトーナメントと大学MVPに焦点を当てる。
毎年最も注目されるのがNCAAトーナメントで、そこだけ見るという人も多いだろう。まずはNCAAトーナメントで活躍した現役NBA選手をチェックしてみよう。
NCAAトーナメントMVP
NCAAトーナメントMVPは、大体優勝チームから選出される。最後に優勝チームではない選手がMVPを受賞したのは、1983年のアキーム・オラジュワン(ヒューストン大学)だ。
以下は2000年以降のNCAAトーナメントMVPだ。
年 | 選手 | 大学 |
---|---|---|
2000 | マティーン・クリーブス | ミシガンステイト |
2001 | シェーン・バティエ | デューク |
2002 | フアン・ディクソン | メリーランド |
2003 | カーメロ・アンソニー | シラキューズ |
2004 | エメカ・オカフォー | コネティカット |
2005 | ショーン・メイ | ノースカロライナ |
2006 | ジョアキム・ノア | フロリダ |
2007 | コーリー・ブリュワー | フロリダ |
2008 | マリオ・チャルマーズ | カンザス |
2009 | ウェイン・エリントン | ノースカロライナ |
2010 | カイル・シングラー | デューク |
2011 | ケンバ・ウォーカー | コネティカット |
2012 | アンソニー・デイビス | ケンタッキー |
2013 | ルーク・ハンコック | ルイビル |
2014 | シャバズ・ネイピアー | コネティカット |
2015 | タイアス・ジョーンズ | デューク |
2016 | ライアン・アーチディアコノ | ビラノバ |
2017 | ジョエル・ベリー二世 | ノースカロライナ |
2018 | ドンテ・ディビンチェンゾ | ビラノバ |
2019 | カイル・ガイ | バージニア |
2020 | 新型コロナウイルスの影響で未開催 | |
2021 | ジャレッド・バトラー | ベイラー |
2022 | オチャイ・アバジ | カンザス |
2023 | アダマ・サノゴ | コネティカット |
必ずしもNCAAトーナメントで優勝してMVPに輝くことが、NBAで活躍できることに直結していないことが見てわかるだろう。この中からオールスター選手になったのはカーメロ・アンソニー、ジョアキム・ノア、ケンバ・ウォーカー、アンソニー・デイビスの4人しかいない。
ワン&ダン(大学で1年だけプレイしてNBA入りすること)が主流となり、数年間かけて強いチームを作ることが難しくなったことがその要因のひとつだろう。1年生としてチームの主軸となり、チームを優勝へと導くのはかなり困難なことだけに、アンソニー、デイビス、タイアス・ジョーンズが成し遂げたことはかなりの偉業と言っていい。
MVPにはなっていないが、トーナメントで記憶に残る活躍をした選手も当然多い。NBAのトップスター選手となったステフィン・カリーもその1人だ。2008年のトーナメントで10位シードだったデイビッドソン大学を率いて、ゴンザガ大学、ジョージタウン大学、ウィスコンシン大学を相手にアプセットを起こしエリート8(8強)まで勝ち進み、NBAプロスペクトとして一気に注目を浴びた。
2010年にバトラー大学をファイナルまで導いたゴードン・ヘイワード、MVPに輝いたジョアキム・ノアとコーリー・ブリュワーと共にフロリダ大学の連覇を支えたアル・ホーフォード、ビラノバ大学の優勝でMVPを獲得しているライアン・アーチディアコノとドンテ・ディビンチェンゾの他にミケル・ブリッジズとジェイレン・ブランソンの活躍も忘れてはならない。
八村塁は2016-17シーズンに1年生としてNCAAトーナメントに出場しており、日本人初の同トーナメント出場選手となった。その後2、3年生時も出場しており、最高でエリート8まで勝ち進んでいる。
今年は富永啓生がネブラスカ大学の一員としてNCAAトーナメントに出場することが期待されている。ちなみに女子ではルイビル大学で3年生時に準決勝まで勝ち進んだ今野紀花や、ロバートモリス大学の一員として出場した池松ほのかなどがいる。
ジョージワシントン大学で4年間プレイした渡邊雄太はNCAAトーナメント出場経験はないが、NCAAトーナメントに出場できなかった大学で行われる32校によるナショナル・インビテーション・トーナメント(NIT)に2016年の2年生時に出場し、チームの優勝に大きく貢献している。
大学MVP
トーナメントとは別に、シーズンを通して活躍した大学生選手に与えられるのが大学MVPなのだが、アメリカの大学MVPはそれぞれ異なる組織が選出する賞が6つ存在する。
最も歴史が古いのが1943年から表彰されている『スポーティングニュース男子大学バスケットボール最優秀選手賞』だ。その他に、『オスカー・ロバートソン・トロフィー』、『AP通信大学バスケットボール最優秀選手賞』、『ネイスミス大学最優秀選手賞』、『NABC最優秀選手賞』、『ジョン・R・ウッデン賞』がある(設立順)。
1976-77シーズン以降は毎年最大6人が選出される可能性があるわけだが、ほとんどの場合は1、2人にまとまることが多い。大学MVPが6つになってからの47シーズンのうち、29回が同一選手による大学MVP6冠達成となっている。
1976-77シーズン以降の大学MVP
年 | 選手 | 大学 |
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1976-77 | マーケス・ジョンソン | UCLA |
1977-78 | フィル・フォード (3) | UNC |
ブッチ・リー (2) | マーケット | |
1978-79 | ラリー・バード | インディアナステイト |
1979-80 | マーク・アグワイア (3) | デポール |
ダレル・グリフィス (2) | ルイビル | |
マイケル・ブルックス (1) | ラサール | |
1980-81 | ラルフ・サンプソン (3) | バージニア |
ダニー・エインジ (2) | BYU | |
マーク・アグワイア (1) | デポール | |
1981-82 | ラルフ・サンプソン | バージニア |
1982-83 | ラルフ・サンプソン (5) | バージニア |
マイケル・ジョーダン (1) | UNC | |
1983-84 | マイケル・ジョーダン | UNC |
1984-85 | パトリック・ユーイング (4) | ジョージタウン |
クリス・マリン (2) | セントジョンズ | |
1985-86 | ウォルター・ベリー (5) | セントジョンズ |
ジョニー・ドーキンズ (1) | デューク | |
1986-87 | デイビッド・ロビンソン | ネイビー |
1987-88 | ダニー・マニング (3) | カンザス |
ハーシー・ホーキンズ (3) | ブラッドリー | |
1988-89 | ショーン・エリオット (3) | アリゾナ |
ダニー・フェリー (2) | デューク | |
ステイシー・キング (1) | オクラホマ | |
1989-90 | ライオネル・シモンズ (5) | ラサール |
デニス・スコット (1) | ジョージアテック | |
1990-91 | ラリー・ジョンソン (5) | UNLV |
シャキール・オニール (1) | LSU | |
1991-92 | クリスチャン・レイトナー | デューク |
1992-93 | キャルバート・チーニー | インディアナ |
1993-94 | グレン・ロビンソン | パデュー |
1994-95 | ジョー・スミス (2) | メリーランド |
エド・オバノン (2) | UCLA | |
ショーン・レスパート (2) | ミシガンステイト | |
1995-96 | マーカス・キャンビー | マサチューセッツ |
1996-97 | ティム・ダンカン | ウェイクフォレスト |
1997-98 | アントワン・ジェイミソン | UNC |
1998-99 | エルトン・ブランド | デューク |
1999-00 | ケニオン・マーティン | シンシナティ |
2000-01 | シェーン・バティエ (5) | デューク |
ジェイソン・ウィリアムズ (1) | デューク | |
2001-02 | ジェイソン・ウィリアムズ (6) | デューク |
ドリュー・グッデン (1) *ダブル受賞 | カンザス | |
2002-03 | TJ・フォード (3) | テキサス |
デイビッド・ウェスト (2) | ゼイビアー | |
ニック・コリソン (1) | カンザス | |
2003-04 | ジャミア・ネルソン (6) | セントジョセフズ |
エメカ・オカフォー (1) *ダブル受賞 | コネティカット | |
2004-05 | アンドリュー・ボーガット (5) | ユタ |
ディー・ブラウン (1) | イリノイ | |
2005-06 | JJ・レディック (6) | デューク |
アダム・モリソン (2) *ダブル受賞 | ゴンザガ | |
2006-07 | ケビン・デュラント | テキサス |
2007-08 | タイラー・ハンズブロー | UNC |
2008-09 | ブレイク・グリフィン | オクラホマ |
2009-10 | エバン・ターナー | オハイオステイト |
2010-11 | ジマー・フレデット | BYU |
2011-12 | アンソニー・デイビス (5) | ケンタッキー |
ドレイモンド・グリーン (1) | ミシガンステイト | |
2012-13 | トレイ・バーク (5) | ミシガン |
ビクター・オラディポ (1) | インディアナ | |
2013-14 | ダグ・マクダーモット | クレイトン |
2014-15 | フランク・カミンスキー | ウィスコンシン |
2015-16 | バディ・ヒールド (4) | オクラホマ |
デンゼル・バレンタイン (2) | ミシガンステイト | |
2016-17 | フランク・メイソン三世 | カンザス |
2017-18 | ジェイレン・ブランソン | ビラノバ |
2018-19 | ザイオン・ウィリアムソン | デューク |
2019-20 | オビ・トッピン (5) | デイトン |
ルカ・ガルザ (1) | アイオワ | |
2020-21 | ルカ・ガルザ | アイオワ |
2021-22 | オスカー・シブエ | ケンタッキー |
2022-23 | ザック・イーディー | パデュー |
ここ4シーズンの大学MVPを見ると、プレイタイムをしっかり貰えている選手はオビ・トッピンのみだ。ルカ・ガルザとオスカー・シブエはNBA Gリーグでのプレイがメインとなっており、ザック・イーディーは今季もパデュー大学でプレイしている。
3パートに分けてNBA選手とNCAAの繋がりを説明してきた。アメリカの大学スポーツは、多くの学校やカンファレンスが存在し、日本人にとって馴染みの薄い文化であるため覚えるのが大変ではあるが、少しでも仕組みや強豪校、選手の出身校などを認識おくだけでも、NBAを観戦する際の解像度が高まることは間違いない。
今年のNCAAトーナメントの結果や、6月のドラフトを新たな視点で見てみることができるだろう。