歴史的ペースで量産される高得点試合の背景には選手スキルの向上

大西玲央 Reo Onishi

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2022-2023シーズン、NBAはリーグとして歴史的に高い得点力を記録している。単純にスコアを眺めているだけでも、120得点超え、130得点超えをしている試合が毎日のように行われているのがわかる。

詳細なデータを集計するウェブサイト『Basketball Reference』によれば、リーグのオフェンシブレーティングは113.5を記録しており、歴代トップだった2020-2021シーズンの112.3を1.2も上回っている。オフェンシブレーティングは通常シーズンが進むにつれ少しずつ上昇していくので、ここからさらに伸びていく可能性すらあるのだ。

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そんなリーグ全体のオフェンス力向上を証明するかのように、今季は個人による大量得点も多く見られている。先日、クリーブランド・キャバリアーズのドノバン・ミッチェルがNBA歴代8位となる71得点を記録したのも記憶に新しい。

その試合では対戦相手のデマー・デローザン(シカゴ・ブルズ)が44得点を記録し、さらに他試合でもクレイ・トンプソン(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)が54得点、レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)が43得点、そしてジョエル・エンビード(フィラデルフィア・76ers)が42得点を獲得。ミッチェルの71得点が突出しすぎており、通常なら注目されるような活躍が陰に潜んでいたというのも、冷静に考えてみれば凄い話だ。

現地1月5日までに行われた試合終了時点で、40得点超えを記録した選手がいる試合は90試合もある。最も多いのはミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボによる8試合。アデトクンボは今季32試合に出場しているため、4試合に1回は40得点超えを記録している計算になる。

2022年のクリスマスから数えると、すでに18人もの異なる選手が40得点超えを記録している。10年前の2012-2013シーズンでは、シーズンを通して14人しか40得点超えを記録していない。わずか2週間で、10年前の1シーズン分の数字を上回っているのだ。NBAの得点力がここ数年でどれだけ上昇しているかを物語っている。

さらに50得点超えに絞ると、今季は14試合が記録されている。2023年に入ってからだけでもすでに3試合だ。昨季の50得点超えは19試合だったので、いかに高ペースで高得点ゲームが発生しているかがわかるだろう。

2022-23シーズンの50得点超え試合

現地日 選手 得点
2023年1月3日 ヤニス・アデトクンボ 55
2023年1月2日 ドノバン・ミッチェル 71
2023年1月2日 クレイ・トンプソン 54
2022年12月31日 ルカ・ドンチッチ 51
2022年12月27日 ルカ・ドンチッチ 60
2022年12月23日 ルカ・ドンチッチ 50
2022年12月21日 パスカル・シアカム 52
2022年12月17日 デビン・ブッカー 58
2022年12月11日 ジョエル・エンビード 53
2022年12月4日 アンソニー・デイビス 55
2022年11月30日 デビン・ブッカー 51
2022年11月16日 ステフィン・カリー 50
2022年11月13日 ジョエル・エンビード 59
2022年11月13日 ダリアス・ガーランド 51

選手たちの個人スキルの向上

3ポイントショットの多さや、スター選手のユーセージ率が高まっているなど要因は様々だが、まず言えることは、やはり選手たちのスキルが飛躍的に向上しているということだろう。

近年、ほとんどの選手がオフシーズンにスキルコーチとトレーニングを行なっている。渡邊雄太や八村塁のトレーニング動画を見たことがある人も多いだろう。それぞれの選手が、必要なスキルを身につけるために特化したトレーニングに取り組んでいる。

例えば、3ポイントラインからのプルアップショットが悪手だと考えられていたのはほんの数年前のことだ。しかし、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)らがそれを武器に3P革命を起こしてからは、必要なスキルとして練習されるようになっていった。

カリーがシーズン通算402本もの3Pショットを決め、革命を起こしたとされる2015-2016シーズン、プルアップスリーを平均4本以上放っていた選手は、カリー、デイミアン・リラード、ジェームズ・ハーデンのわずか3人しかいない。それに比べて、今季は18人もいる。

選手たちのスキルアップは、NBA入りしてからだけのことではない。かつては、数少ないNBAのハイライトビデオを擦り切れるほど再生し、スター選手のドリブルやフィニッシュの真似をするのが精一杯だったのが、今ではオンラインでトレーニング方法を学ぶコースなども存在し、若い世代はリーグ入りする前から専門的なトレーニングに取り組んでいる。そういった世代が少しずつリーグに増えているのだ。

リーグのスキルレベルが全体的に上がることで、チームの層はどんどん厚くなっていく。コート上で離すことができない選手が増えれば増えるほど、マークマンを捨ててまでスター選手を止めに行くという守備戦法が取りにくくなる。それもまた、スター選手のユーセージ率が上昇していることに起因しているのかもしれない。

シーズンはまだ半分以上残っており、今後どれだけの高得点ゲームが生まれ続けるのかに注目だ。

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大西玲央 Reo Onishi

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アメリカ・ニュージャージー州生まれ。国際基督教大学卒。NBA Japan / The Sporting Newsのシニアエディター。記事のライティング以外にもNBA解説、翻訳、通訳なども行なっている。訳書には『コービー・ブライアント 失う勇気』『レイ・アレン自伝』『デリック・ローズ自伝』「ケビン・ガーネット自伝』『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』。