【バーチャルファン体験記】実際に参加してわかった遠隔観戦の仕組みと楽しみ方(YOKO B)

YOKO B

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7月30日(日本時間7月31日)、オーランドのバブル(隔離施設)でファンが待ち望んだNBAのシーズンが再開された。そのバブルにファンは足を踏み入れることはできないが、シーディングゲームからは、コートサイドにバーチャルで参加できるようになっている。

NBAがスタートさせたのは、Microsoft Teamsの新機能である『Together Mode』(トゥギャザーモード)を活用し、ベンチ裏のコートサイドおよび両ゴール裏に用意された、高さ17フィート(約5メートル)のLEDスクリーンに、バーチャルファンを映し出すという新しい取り組みだ。このTogether Modeでは、背景がイスになり、参加しているファンがあたかも観客席に座って応援しているように見せることができる。

7月30日(日本時間7月31日)のロサンゼルス・レイカーズ対ロサンゼルス・クリッパーズの試合には、クリス・ボッシュが映し出されていた。

さらに7月31日(日本時間8月1日)のダラス・マーベリックス戦ではダーク・ノビツキーが、そして8月2日(同8月3日)のボストン・セルティックス戦では、ポール・ピアースとジェイソン・テイタムの息子がバーチャル観戦していた。

その後も、元選手や選手の家族、チームマスコットなどがコートサイドにいる姿が、毎日のように映し出されている。

今回は、8月1日(日本時間8月2日)と3日(同4日)、9日(同10日)に行なわれたオクラホマシテ・サンダーのホームゲームに実際に参加した私の体験も踏まえながら、『Michelob ULTRAコートサイドエクスペリエンス』という、NBAの新しい取り組みを紹介してみたい。

バーチャル観戦の参加方法

まずは気になる参加方法だが、現在のところ、その方法は大きく分けて2つある。ひとつはNBAの各チームを通しての参加。もうひとつはスポンサーとなっているMichelob ULTRAの抽選に応募する方法だ。

チームを通す場合には、サンダーやセルティックスのように、チームがシーズンチケットホルダーを中心に参加者を募るパターンと、マイアミ・ヒートやインディアナ・ペイサーズ、ニューオーリンズ・ペリカンズのように、チームの公式サイト上でオープンに参加者を募集しているパターンがある。

現時点では無料なので、特定のチームの応援に参加してみたい場合には、一度公式サイトを覗いてみる価値はありそうだ。ただし、特定の地域外からの参加ができるかどうかはチームによって異なる可能性がある。ちなみに、先ほど紹介した抽選は、アメリカ国内在住であることが条件となっている。

希望の試合に参加することが決まったら、同意書にサインをし、事前にMicrosoft Teamsをパソコンにダウンロードして、当日ログインするために必要なユーザーネームとパスワードが送られてくるのを待つ。スマートフォンやタブレットでも参加可能だが、バーチャルファンを満喫するためには、パソコン(カメラ付き)がベストだ。

ほかにも、参加にあたってのルールがいくつかある。

たとえば、試合を通してできる限り席についていること(パソコンの前に座っていること)や、ひとつの席に一人で参加すること、不適切な言動はしないこと、NBA以外の提供した物を身に付けないこと、サインなどを出さないこと、などなど。アリーナ観戦をする場合に適用される通常のルールは当然のこと、バーチャルというテクノロジーを使い、TVに映る可能性が高いがゆえに用意されたルールもあるという印象だ。

これらのルールは同意書に細かく書かれているし、試合前にログインしたときにも説明がある。システムの説明もあるため、試合開始45分から遅くとも30分前にはログインすることが推奨されている。しかし、ここで一点注意しておきたいのは、ルールに違反すると自分の姿が観客席から消されてしまう場合があることだろう。

バーチャルシートは、全部で約300席あると言われている。その参加者全員を、一体誰がどうやってチェックしているのだろうか。

バーチャルシートを管理しているのは…?

実はそのバーチャルシートは、10のセクションに分かれていて、各セクションに32人が参加できるようになっている。セクションは、ホームチームベンチ裏に2つ、コートセンターに2つ、ビジターチームベンチ裏に2つ、さらに両方のゴール裏に2つずつあるのだが、そのうち、ビジターチームのコーチ陣の後ろのセクション1つだけは、ビジターチームのファン用に使われているケースが多い。

セクションは自分で選ぶことはできず、参加が決まると自動的にセクションが割り当てられる。試合前にログインすると、その日一緒に観戦する同じセクションのファンの顔が見え、事前に交流ができるようになっている。そして、各セクションには進行役のスタッフがいて、彼らが、システムの説明や技術的な問題のサポートをしてくれると同時に、約30人の参加者の動向をチェックし、先述のルールに違反すると、彼らの権限で該当者のカメラやマイクをオフにすることができるというわけだ。

実際に参加した印象では、ルールはそこまで厳格ではなかった。試合途中に席を立つ人もいたし、複数で座る人もいた。そのために顔が途中で消えてしまう人もいたが、それは映る枠や顔認識の限界などのシステム上の問題だ。また、パソコンと顔の適正な距離は30cmから35cmとされていたが、皆それぞれに好きな距離で見ていて、近すぎたり遠すぎたりしても特に指摘されることはなかった。スクリーンに映し出されるファンの顔の大きさが揃っていないのは、そういう理由でもある。基本的には、できるだけ多くのファンが席にいて、応援を楽しむことを重視しているのだろう。

バーチャル観戦時の楽しみ方

バーチャルでの応援の楽しみ方や場の盛り上げ方は、各チームで異なる可能性が高いので一概には言えないが、サンダーからは、かなり積極的にファンを巻き込もうとする姿勢が見えた。各セクションには、進行役のほかに、サンダーガールやストームチェイサーなどのエンターテインメントグループのメンバーが数人割り当てられ、アリーナにいるときのように応援を盛り上げていた。

サンダーファンは、声援が大きく、プレイオフで配布されるTシャツ着用率が高いことで知られ、アリーナの熱狂的なファンの存在がホームコートアドバンテージのひとつだ。そのファンのいないバブルの中の、あくまでもスクリーン越しの応援で、いかにチェサピーク・エナジー・アリーナの雰囲気を作り上げるのか。それを考えていたのは、サンダー側のスタッフだけではない。

試合が始まる前に、私が参加したセクションのあるファンが言った。

「チェサピーク・アリーナでは最初の得点が決まるまでずっと立ち続けているけど、それはどうやって表現しようか?」

バーチャルの仕組みでは、立ち上がると映像に不備が出るため、代わりに手を前に出してひらひらと動かし続けようと誰かが提案した。フリースローでの相手チームの選手に対する妨害方法なども、セクションの中で相談した。こうして、どうしたら一体感が出せるかをみんなで考え、応援を作り上げていくのも新しい試みならではのことだ。

日本人ファンもバーチャル観戦

反面、新しいが故に様々な問題が起こることも多い。システムに不備があったり、参加者の誰かが技術的な問題を抱えたりすることは常にある。声援も選手に届くと謳ってはいるが、バーチャルファンの音声が現地に流れている気配はない。

それでも、ここまで3回の体験を通して感じたのは、シーディングゲームの間に試行錯誤を繰り返し、毎回しっかり改善しているNBAの姿勢だ。参加直後には毎回アンケートが届き、参加者の生の声を拾って、今後の運営に活かそうとしている。

ここ数日の間に、日本人ファンが日本からバーチャル観戦をする機会が出てきているのも、新しい取り組みならではの柔軟さの現れだろう。現時点では、海外から参加するためには、直接チームに働きかけて招待を受ける必要がありそうだが、今後その門戸が世界中に広がる可能性もある。

家にいながらにして、同じチームのファン同士で息を合わせて応援し、隣の席の人と擬似ハイファイブをして、共に喜びや悔しさを分かち合えるのは、バブルに行けない今の状況を考えるととても貴重な体験だ。

たとえ実際にオーランドに声が届いてないとしても、スクリーンを通してファンが歓喜する姿や表情が少しでも選手たちに伝わり、ファンも一緒に戦っていることが勝利の後押しになるかもしれないと思えば、バーチャルファンになるのも悪くないのではないだろうか。


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YOKO B

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静岡県出身。大学卒業後渡米し、オクラホマ大学大学院修士課程修了。2014年よりオクラホマシティ在住。移住前にNBAのオクラホマシティ・サンダーのファンとなり、ブログで情報発信を始める。現在はフリーランスライターとして主にNBA Japan/The Sporting Newsに寄稿。サンダーを中心に取材するかたわら、英語発音コーチも務める。