NBA公認の人気バスケットボール・ビデオゲーム『NBA 2K』シリーズの最新作『NBA 2K22』の発表に先駆け、今作の「NBA75周年記念エディション」のカバーアスリートに選ばれたダーク・ノビツキー、ケビン・デュラント、カリーム・アブドゥル・ジャバーの3名がオンライン会見を行なった。
1999年にNBAデビューしたドイツ出身のノビツキーは、身長213cmとセンター並みの身長を持ちながらもロングシュート、ドリブル、パスといったスキルに長けた『万能型ビッグマン』の先駆けと言える選手だ。2019年に現役を引退するまでダラス・マーベリックス一筋で21シーズンにわたってプレイし、2011年には球団史上初となるNBAチャンピオンに輝いたレジェンドが、NBA 2K22のカバーアスリートに選ばれた心境や、マーベリックスという球団への想い、そして愛弟子とも言えるルカ・ドンチッチ(マーベリックス)について語ってくれた。
※この取材はNBAファイナル2021期間中、東京オリンピック開幕前に実施されたものです。
――あなたはNBA 2K22の「NBA創設75周年記念エディション」のカバーアスリートに選ばれました。ドイツ出身のあなたが長きにわたってNBAでプレイし、優勝を手にして、世界的な人気バスケットボールゲームの記念エディションのカバーを飾りました。これまでの道のりを、どのような気持ちで振り返っていますか?
クレイジーで険しい道のりでした。正直、ドイツを離れてからは毎年「この先どうなるんだろう」と思っていました。NBAでどれだけプレイできるか分かっていませんでした。自分がNBAで通用するほど上手くて、強くて、スキルがあるという確証を持てませんでした。
それから約20年後に、私はNBA 2K22の記念エディションのカバーを飾ることになりました。荒々しい旅路でしたが、最高の旅路もありました。こういう形で成果を出せたことを、とても嬉しく思っています。キャリアを通してマーベリックス一筋でプレイできたことも同様です。それは私にとって非常に重要なことです。自分の歴史を振り返ると、私が常にひとつのチームと一緒だったことを再認識できます。私は、そのことを最高に嬉しく、そして最高に誇らしく思っています。20年かけて自分が成し遂げたことですから。
――今の若者はビデオゲームに関心を持つようになりました。NBA 2Kシリーズのようなスポーツゲームは、伝統的なスポーツを若い世代に広める手助けになると思いますか?
きっと助けになるはずです。最近の若者が集中力を保てる時間は、そこまで長くないと思います。彼らはもう2時間半も椅子に座ってバスケの試合を観戦したりしません。だから使えるものは何でも使うべきです。若者に影響力があるソーシャルメディアも積極的に活用すべきです。その点、NBAは上手くソーシャルメディアを活用していると思います。InstagramやTwitterのアカウントで試合のハイライトを配信し続けていますからね。
でも、若者はとにかくビデオゲームが大好きです。NBA 2Kシリーズは世界中で人気ですし、面白いゲームです。『NBA 2K』シリーズが最初に発売されたのは、たしか20年前だったはずです。このゲームは選手の見た目の完成度が高くて非常にリアルなので、正直怖くなるほどです。私はNBA 2Kシリーズはとても面白いと思います。若者たちも間違いなく面白いと思っているはずです。
――あなたは常々「自分の人気を使ってドイツのバスケットボールを支援したい」と言っていました。あなたがNBA 2K22のカバーを飾ることによって、次世代の選手に影響を与えられると思いますか?
そうあってほしいですね。私の目標はバスケットボールを発展させることです。若い選手を次々とバスケットボールの世界に取り込んで、世界中から新しい才能を集めたいと思っています。どの国にも才能の原石が眠っているはずですからね。彼らの才能を磨いてバスケットボールを発展させたです。私がカバーを飾るビデオゲームをきっかけにして子供たちが実際にバスケットボールを始めることを願っています。
私は現役を退いた今でも、バスケットボールに関わり続けたいと思っています。バスケットボールという競技のために生涯をかけて尽力したいと常々考えているんです。私は来年ドイツで開催されるEuro Basketball 2022の大使を務めていますし、FIBAのプレーヤーズコミッション委員長として、競技レベルの向上や、若いファンを取り込んで新たな才能を集めるための活動もしています。全てはバスケットボールという競技に恩返しをするためです。バスケットボールは私に素晴らしい生活とキャリア、そして人生を与えてくれました。バスケットボールが与えてくれたことに恩返しをして、その結果として次世代のスター選手を生み出すことができたとしたら、それは最高なことです。
――あなたは2011年にマーベリックスをNBAチャンピオンに導きました。当時のチームを特別にした要因は何だったと思いますか?
当時の私たちには素晴らしいチームケミストリーがありました。そして、NBAで長年プレイしたベテラン選手が数名いました。彼らはいろいろな球団で成功を収めてきた選手たちでした。彼らはチームメイトを集めて、「俺たちは勝ちたいんだ。あらゆるエゴを抑えて、とにかく優勝を目指したい」と言っていました。そのおかげでチームにケミストリーが生まれたし、それを実現するだけの素晴らしい選手が集まっていたことも間違いありません。
さらに、私たちはプレイオフという絶妙のタイミングでチームを最高潮に持っていくことができました。私たちは、プレイオフを勝ち進むにつれてどんどん調子を上げていったんです。あの当時は、選手、チーム、そしてダラスの街にとって魔法のような瞬間でした。あれから10年も経っていますが、優勝したのが10年前ということが信じられないぐらい素晴らしい瞬間でした。なによりも、かつてない栄誉をダラスの街に持ち帰ることができたのが嬉しかったです。私たちが優勝するまで、ダラスのバスケットボールチームが優勝したことはなかったのですから。だから、マーベリックスに球団史上初の優勝をもたらすことができたのは最高の気分でした。あの当時のことは一生忘れないでしょう。
――マーベリックス一筋でNBAキャリアを終えたのは偶然ですか?
いや、偶然ではありません。もちろん最初は偶然でした。幸運なことに、私はファンや関係者から素晴らしいサポートを受けるようになりました。彼らは私の成功を願い、それが私に大きな自信をくれました。私は、その誠実さに報いたいと常に思っていました。それからしばらくして、マーク・キューバンがチームを買収してオーナーになりました。マークは今も私の友人でありサポーターです。調子が良い時も悪い時も、いつも私をサポートしてくれました。だから、マーベリックスに骨を埋めることは私にとって容易な判断でした。ダラスの街は私にたくさんのものを与えてくれたし、たくさんの愛を示してくれました。チームに残留する決断は簡単にできたし、ダラスに優勝を持ち帰ることは常に私の目標でした。そして私は、その目標を実現することができました。間違いなく、それは私のキャリアにおいて最も偉大な思い出です。
――歴代NBAチームの中で、あなたが所属したマーベリックス以外にお気に入りの球団はありますか?
周知の事実だと思うけれど、私はシカゴ・ブルズのファンとして育ちました。12歳か13歳のときにバスケットボールを始めるようになったのですが、当時はちょうど1990年代初頭でブルズの時代が始まったタイミングでした。ブルズにはマイケル・ジョーダンや、私の大好きなスコッティ・ピッペンがいました。のちにトニー・クーコッチやデニス・ロッドマンもチームに加わりました。だから、お気に入りの球団はブルズだったんです。もちろん今は、私の体にはマーベリックス色の青い血が流れていますよ。この気持ちは変わりません。でも、昔はブルズの大ファンでした。
――アメリカ国外出身のNBA選手の中からNBA史上最高の4人を選ぶとしたら、誰を選びますか?
それは難問ですね。私より以前にNBAで道を切り拓いてくれた素晴らしいヨーロッパ人選手はたくさんいますからね。そして、私の後にも素晴らしいヨーロッパ人選手が数多く誕生しています。私はオールドスクールな人間なので、デトレフ・シュレンプやドラゼン・ペトロビッチのプレイを見るのが好きでした。もちろんクーコッチも好きだし、アルビダス・サボニスも最高です。私と同時期にNBAで活躍したパウ・ガソルも素晴らしい選手です。世界中に素晴らしい選手がいるから、4人に絞ることは難しいですね。NBA選手ではないけれど、バスケットボールの歴史上で言えば、元ブラジル代表のオスカー・シュミットのことも非常に尊敬しています。彼は国際的な選手の代表格だし、素晴らしいキャリアを持っています。
――それでは、歴代のNBA選手の中から最高の4人を選ぶとしたら、誰を選びますか?
これも難しい質問ですね。ジョーダンは常に私のナンバー1アイドルでした。私はオールドスクールなので、マジック・ジョンソンやラリー・バードも外すわけにはいきません。レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)も偉大な選手になる器を持っています。彼は身体の使い方が上手いし、優勝回数も多いですしね。しかも、彼はまだ現役です。ビッグマンだと、シャキール・オニールは素晴らしい選手だと思います。コービー・ブライアントも素晴らしい選手でした。つまり、4人に絞るのは難しいということですね。
――現役NBA選手の中でお気に入りの外国籍選手はいますか?
それは間違いなくルカ(ドンチッチ)です。ルカは特別な選手です。彼は非常に面白い選手で、彼のプレイを見ていると「次に何をするのか自分でも分かっていないんじゃないか?」と思うことがたびたびあります。今年のプレイオフの試合を観戦していたとき、ルカはドリブルでボールを運んで、そのまま片足3Pシュートを放ったのですが、信じられないことに、そのシュートは決まったのです。彼は会場を盛り上げるプレイをする天才です。
――ドンチッチは、あなたのようにMVPを受賞したり、マーベリックスに優勝をもたらすようなポテンシャルを持っていると思いますか?
もちろんです。彼はまだ22歳ですが、すでに驚異的なレベルでプレイしています。直近の2年間では実際にMVP候補に名前が挙がっていましたし、今年もオールNBAファーストチームに選出されています。しかも、ルカにはこの先も長いキャリアが待っています。彼は最高の選手です。あの若さで素晴らしいオールラウンドプレイヤーになっています。コート上を見渡す視野を持ち、ピック&ロールを上手く使って、自分より小さいガード相手にポストアップすることができます。彼は弱冠22歳にしてすでに完成されたバスケットボール選手なんです。きっとルカはマーベリックスに骨を埋めてくれるはずです。とても長い期間を過ごして、彼はMVPを勝ち取り、マーベリックスを優勝に導いてくれるでしょう。彼はそれを目標にしているはずです。
――あなたはヨーロッパ人NBA選手の先駆けです。NBAでプレイすることにプレッシャーを感じているヨーロッパ人選手に向けて、どんなアドバイスをしますか?
昔と比べたら今のほうが多少プレイしやすくなったと思います。今はバスケットボールに対する考え方も多様化しているし、そこまでフィジカル面に依存していません。だからヨーロッパ人選手もNBAに適応しやすくなっています。ビッグマンのスキルに関しては、『動けてシュートも打てる』ということが必要最低条件になっているから、ヨーロッパ人選手がNBAでインパクトを与えるには最適な状況だと思います。
今では多くのヨーロッパ人選手がNBAでも上位クラスにランクしています。彼らはチームの主軸であり、数名の選手はリーグのスター選手になっています。ヨーロッパ人選手に限らず、世界中の選手が進化しています。彼らの進化を見るのは非常に楽しいものです。私はNBAで約20年プレイしましたが、その間にバスケットボールはかなり国際的になりました。NBAには世界中から素晴らしい選手が集まってきます。最近では、ドンチッチやヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)など数え切れないほど多くの選手がNBAで活躍しています。
昨今のバスケットボールにおいては個々のスキルがとても重要な要素になっています。私がバスケットボールを始めた当時は、フォワードやセンターをプレイする選手のスキルレベルは高くありませんでした。シュートが打てるビッグマンは当時もいましたが、今では全てのポジションの選手がシュート、パス、ボール運び、プレイメイクといったスキルを兼ね備えています。ハーフウェイライン付近からシュートを決める選手もいるぐらいですからね。私がプレイした約20年の間に、NBAのスキルレベルは飛躍的に向上したと思いますね。
――あなたが引退して以降、ドイツにおけるNBAやバスケットボールの人気に変化はありましたか?
NBAの影響力は今でも大きいと思います。バスケットボールはアメリカ国外にも普及しているので、文字通りワールドワイドなスポーツです。だから今でもドイツ国内のNBA人気は高いです。現在、NBAには数多くのドイツ人選手がいます。マーベリックスのマキシ・クリーバー、ロサンゼルス・レイカーズのデニス・シュルーダー、ダニエル・タイス(シカゴ・ブルズ)らがそうです。他にもたくさんいますね。ドイツのメディアやファンは彼らのことを応援しているから、NBAは今でもドイツ国内における人気コンテンツなんですよ。
――あなたは『ストレッチ・ビッグマン』という概念がNBAで一般的になる以前から、オフェンスのスペースを広げる能力に長けた選手でした。自分が持つスキルと昨今のNBAのプレイスタイルを照らし合わせた上で、全盛期のあなたなら今のNBAでどれぐらいの平均得点を記録できると予想しますか?
私のプレイは昨今のNBAにも完璧に適合するはずです。チーム全員でコートを広く使うことができればピック&ロールもピック&ポップも思うがままです。コート上には常に少なくとも3人のシューターがいるものです。4人いたり、5人全員がシューターというケースもあります。マーベリックスの先発センターは、アウトサイドからシュートできる(クリスタプス)ポルジンギスだ。だからマーベリックスはコート全体を広く使うことができます。きっと今でも私は楽しくプレイできるはずです。だが私のキャリアは終わりました。21シーズンもプレイを続けたんです。だから流石に文句を言うつもりはありません。とはいえ、もし私が選手として最高の状態だったら、今が最も活躍できる時代なのは間違いないでしょう。きっと大量得点を狙っているはずです。
――ビッグマンの役割は今後も進化していくと思いますか?
私がNBA入りした当時は、フォワードやセンターの多くは昔ながらのビッグマンでした。彼らはゴール下近辺でプレイし、リバウンドが得意で、とてもタフで身体能力が高かった。でも、2000年代初頭にNBAがハンドチェックを規制し、ゾーンディフェンスが部分的に取り入れられたことで、徐々にアウトサイド主体のオフェンスへと発展していきました。そこで重要になったのが優れたシューターでした。その影響で、ビッグマンもプレイメイクやアウトサイドシュートを習得するようになりました。だから、この20年間でバスケットボールは驚くほど進化を遂げたのです。今のセンターは、リバウンドを奪い、ボールを運び、コートを一気に駆け上がってレイアップシュートを決めます。そんなことは20年前では考えられなかったことです。
バスケットボールは素晴らしい境地に到達しました。ガードもビッグマンも含めた、あらゆるプレイヤーのスキルが向上しました。最近では、ほとんどの選手がドラフトで指名された時点でシュートもハンドリングも高いレベルで習得済みです。しかも、彼らは幾つかのオリジナルショットも編み出しています。だからNBAの試合を観るのは楽しいです。
――オリンピックの開幕が目前に迫っていますが、今大会もアメリカ代表が有利だと予想しますか?
アメリカ代表が有利かもしれませんが、予想外のことはいつでも起こりえます。バスケットボールはグローバルな競技になりましたし、世界各国の代表チームが力を付けてきていますからね。どこかのバスケットボール大国が偉大な代表チームを作り、そのチームに素晴らしい世代が現れたとしたら、結果は全く分からないでしょう。
当然ながらアメリカ代表もベストプレイヤーを集めているので、他の国にとっては非常に困難な戦いになるはずです。でも、どの国も興味深い代表チームを作り上げているので、どこが勝ってもおかしくないでしょう。それがスポーツの面白いところです。実際に戦わなければ結果は分からないのです。そして選手は勝つために必死です。トーナメントの組み合わせが決まった時点で優勝チームが確定するわけではありません。それがバスケットボールという競技の醍醐味です。どんでん返しが起こって、面白い大会になることを期待したいですね。そうすれば、きっと歴史に残る偉大なオリンピックになるはずです。