数週間前、ハミドゥ・ディアロはシカゴにあるインターコンチネンタルホテルの豪華な椅子に腰かけ、ミシガン・アベニューを見下ろしていた。いつも通り、愛嬌のある楽しそうな表情を浮かべていた。その直前までNBAチームの能力試験に参加していた彼は、この1年間でどれだけの変化があったのかを見せつけた。彼は昨年、ドラフト前のコンバインにおいて、113センチの垂直飛びのほか将来を期待させる運動能力を多く見せ、旋風を巻き起こしていた。もし彼が大学に残留せず、ドラフトが順調に進めば、全体3位以内での指名もあり得るのではないかとも言われていた。
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当時彼は、上位20位までのチームから指名の確約が得られれば、そのままドラフトに参加する意向を示していた。彼は1巡目での指名が確実視されており、1巡目の指名順が遅いチームは、彼を獲得するためにギャンブルをするような心構えでいた。しかし、指名順の遅いチームからの指名に頼ることはあまりにリスクが高く、ディアロは大学に残る選択をした。
それから何が起こったのか。ディアロは昨シーズン、良好なスタートを切った。大学のバスケットボールチームであるケンタッキー・ワイルドキャッツでは、最初の12試合で平均15.3得点を記録した。クイーンズに住む子供たちに向けたドリームゲームでは23得点を決め、対モンマス戦の勝利に貢献した。しかし、その勢いはそれからすぐに衰えを見せた。
テネシー大学との一戦では、わずか5得点で5ファウルを犯し、サウスカロライナ大学戦でも同数のファウルを記録した。レギュラー・シーズン終了間際の10試合では平均5.7得点、シュート成功率は30.2パーセントにとどまり、真っ青に染まった大応援団からは「彼をベンチ送りにしろ」とのヤジが飛んでいた。
シュート成功率が下がるにつれて、(フィールドゴール成功率42.8パーセント、3ポイントシュート成功率33.8パーセントでシーズンを終えた)彼のドラフトでの評判も下降の一途をたどっていった。これを見れば、誰もが大学行きを選択して失敗した選手の典型的な例だと思うだろう。
このことについて尋ねてみると、彼は首を傾けた。以前にも聞かれたことがあるらしい。彼にとって大学残留は単なる失敗ではなく、そうした考えは完全な誤解から生まれているものだという。
「後悔は一切ないよ」と語ったディアロ。「僕は大学に片足を置いた状態で、NBAにもう片方の足を突っ込んだ。NBAに行きたいという100パーセントの確信を持てなかったんだ。そのまま大学に進学するという選択は、最善だったと思っている。何度やり直したとしてもまるっきり同じ選択をするよ。正しい選択をしたんだから」。
「大学では、最高のコーチ陣とアシスタントコーチ陣の下で最高の時間を過ごした。彼らは皆、僕の成功を望んでくれていたよ」
これは、NBAドラフトに関わる人々と、ドラフトに参加する選手たちの大方の意見とは一致しないものだ。高校生の選手が大学に入学し、更に上のレベルに進むチャンスを得て、ドラフト候補に入った。普通の選手ならばNBAに進む。モックドラフト(ドラフト予想)をしている人からすれば、ディアロは大学を選んで失敗したと思うだろう。
しかし、彼は数字では説明のつかない成長を遂げた。身体的にも精神的にも、より良い選手となったのだ。彼は、バスケットボールにおけるプレーの本当の意味を理解せずに大学に進学していたことに気付き、その考えを変える必要に迫られた。称賛を浴びようが批判を受けようが、チームに貢献する方法を模索し続けなければいけないことを学んだ。また、調子が悪い日にそれをチームメイトのせいにしても、言い訳として通用しないことも学んだ。彼は、自分自身に勝つことを学んだのだという。
ディアロにとって大学で過ごす時間は、これから飛躍を果たすための周到な準備を整えるために必要だったのだろう。
「今年大学で学んだことの中で最もためになったのは、自分との戦い方、自分自身に勝つ方法だ」ディアロはそう語った。「自分自身に勝とうとするとき、つまり、物事が思い通りにいかないときは、“自分はどんな選手なんだ?”“自分はどんなチームメイトに見えている?”といった風に、バスケットボールのことに限らず、自分自身を見つめなおすんだ。例えば、朝、目を覚ますと寝坊していたとする。授業に遅れてしまう。バスも逃がした。雨も降っている。朝食も食べられなかった。良い1日とは呼べない日だ。そんな日に練習で良いパフォーマンスができるかい?」
「もし試合当日のルーティーンが崩れたら、その気持ちにどうやって折り合いをつけるんだ? その日は、自分はどんな選手になるんだ? 自分自身に打ち勝つ必要があるときには、そうやって自分に問いかけるんだ」
ドラフトでの評判を落としてしまったディアロ。しかし、彼は自身の短所を把握することで自己認識を高めた。これにより、今年6月21日のドラフトに先立ち、そうした短所に対処するためにより良い心持ちでいられるようになった。
(第2回へ続く)
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