マイアミ・ヒートのマイヤーズ・レナードは、悩みに悩んだ末に国歌斉唱時に片膝立ちをしないことを決めた。8月1日(日本時間2日)に行なわれたデンバー・ナゲッツ戦前の国歌斉唱の際、彼だけが起立し、右手を左の胸に当てて国歌を聞いた。
レナードがこの行動を取った理由、そして心の葛藤を『AP』が伝えている。以下、『AP』記事抄訳。
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マイヤーズ・レナードには、アメリカ海軍兵として2度アフガニスタンに駐在した兄がいる。
「Black Lives Matterの活動を信じている」と語ったレナードだが、国歌斉唱時の片膝立ちは受け入れられなかった。
黒のBlack Lives Matter Tシャツを着て、ジャージーにも“Equality”というメッセージを入れていても、彼は片膝立ちをするチームメイトの中で一人だけ起立していた。
試合前、レナードは『AP』に「ここ3日間で交わした会話は、文字通り今までで一番難しかった」と語った。
「自分はBlack Lives Matterムーブメントを支持している。それと同時に、僕は軍隊と兄、それにこの国での自分たちの権利を守るために戦ってくれている人たちを支持している」。
片膝立ちをしないと決めてから、レナードは眠れぬ日々を過ごした。ナゲッツ戦前には、ヒートのチームメイト、以前チームメイトだった選手にも連絡し、片膝立ちをしない理由を説明したという。
「自分は思いやりのある人間だと思うし、周りにいる全ての人のことが大好きなんだ。どうして自分の国が黒と白にわかれるようになったのか理解できない。超えてはいけない一線がある。もし片膝立ちをしないのなら、自分たちと行動を共にしていないと見なされてしまうは違う」。
「これからも自分のプラットフォーム、声、行動でアフリカ系アメリカ人のカルチャーをどれだけ気にかけているか、全ての人を気にかけているかを伝えていく。僕は、良い形で周りに影響を与えるために生きている」。
レナードと同様に、オーランド・マジックのジョナサン・アイザック、そしてサンアントニオ・スパーズのグレッグ・ポポビッチ・ヘッドコーチとアシスタントコーチのベッキー・ハモンも、試合前の国歌斉唱時に片膝をつかず、起立したままだった。
レナードは「(自分以外にも起立した選手、コーチらがいて)肩の荷が少し下りた。自分もそうだけれど、皆それぞれに異なる理由がある」と話す。
NBA選手会の役員を務めるヒートのアンドレ・イグダーラは、レナードの考えを尊重している。
「こちらが『自分たちの考え方で物事を見てもらいたい』と主張しているのだから、僕も彼の考え方で物事を見ないといけない。彼の出自は理解できるよ」。
チームキャプテンのユドニス・ハズレムは、この数日の間にレナードと何度か話し合った。ハズレムは、できることならレナードにも国歌斉唱時に片膝立ちをしてもらいたいと思っているものの、本人と話し合いを重ね、チームとして仲間の考えを支持している。
ナゲッツ戦前の国歌斉唱が終わると、ハズレムは誰よりも先にレナードに近づき、拳を合わせた。
ハズレムは「彼は自分たちの兄弟で、同じ問題のために一緒に力を合わせて取り組んでいる」と言う。
「どうして周りと同じようにやらないのかと疑問を持たれるだろうけれど、彼は自分たちと共に行動しているし、自分たちをサポートしてくれている。彼は仲間だ」。
レナードは妻と相談し、重犯罪を犯したフロリダの前科者の選挙権を回復させる基金に10万ドル(約1,058万円)を寄付することを決めた。
レナードは「ユドニスから話を聞いたし、彼からは影響を受けている。寄付するお金は、彼が育ったオーバータウンとリバティ・シティのために使ってもらう。これら2つの地域は、マイアミの中でも新型コロナウイルス、それから卑劣な選挙戦術の影響を受けているからね」と話している。
同じNBA選手からも批判される可能性があると元チームメイトから言われたレナードは、悩み、苦しみ、涙を流す日々を過ごした。だが、ナゲッツ戦当日の朝、元海兵の兄、ベイリー・レナードから送られたメールには、こう書かれてあった。
「自分の信念を貫け。最後まで頑張れ。愛しているよ。家族もお前を愛している。お前のコミュニティも愛情を注いでくれる」。
兄からのメールで、レナードの迷いはなくなった。
「兄も自分を誇らしく思ってくれている。兄が誇りに思ってくれて、チームの兄弟たちが自分を支持してくれるのなら、これはやらないといけないことなんだ」。
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