【NBAダンサーへの挑戦 Vol.2】寺田智美インタビュー「夢を叶える第一歩は覚悟を決めて信じ抜くこと」

YOKO B

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寺田智美(キャブズ・パワーハウス・ダンスチーム)

2021-22シーズンはNBAダンサーとして活躍する日本人女性が過去最多の5人となった。ベテランの平田恵衣(オクラホマシティ・サンダー)と寺田智美(クリーブランド・キャバリアーズ)に加え、今シーズンからは新たに、小笠原礼子(デトロイト・ピストンズ)、渡辺あんず(デンバー・ナゲッツ)、大西真菜美(アトランタ・ホークス)の3人がアメリカに渡り、夢の舞台に立っている。

夢を叶えた日本人NBAダンサーに焦点を当て、彼女たちのNBAへの挑戦について話を聞くシリーズの第2弾は、元サンアントニオ・スパーズのシルバーダンサーズで、現在はクリーブランド・キャバリアーズのキャブズ・パワーハウス・ダンスチームで活躍し、NBAダンサー5年目を迎える寺田智美(以下、トモ)の挑戦を紹介する。

トモは高校からチアダンス部に入り、大学まで競技チアを経験したが、「もっと自分のチアを追求したい」と、会社員をしながらアメフトの社会人チームであるオービック・シーガルズでチアリーダーとしての新たな活動を開始した。

アメリカ挑戦のきっかけは、同じチアリーダーの日本人の友人がNFL(National Football League)のチアリーダーに合格したこと。もうひとつの理由は、「スポーツ観戦が大好きで、生まれつき障害を持ち車椅子生活を送る姉を、本場アメリカのスポーツ観戦に連れて行きたいと思ったこと」と彼女は話す。

30歳目前の2016年の夏、オーディションのために渡米したトモは、1つのチームに合格したが、ビザの準備不足で夢に一歩届かず。決意を新たにしたその翌年に、スパーズのシルバーダンサーズに合格したが、1年後にダンスチーム解散という予期せぬ事態に巻き込まれてしまう。

最終的にキャブズに自分の居場所を見つけ、今シーズンでNBAダンサーとして5年目を迎えた彼女に、夢を叶えるまでの道のり、NBAの仕事のやりがいと苦労、クリーブランドで開催されたオールスターゲームを経験して学んだこと、次世代へのメッセージなどを聞いた。

帰りの飛行機で「来年は絶対行く!」と決心

──2016年に最初にNBAに挑戦したときのことを教えてください。

まず、有給休暇で10日間くらい仕事が休める時期にオーディションがあるチームをネットで調べて渡米しました。そしたら、そのなかのミルウォーキー・バックスのダンスチームに合格できたんです。ただ、コーチに「この日までにビザを取って合流できたら正式に合格です」と言われて…。

そのときの私は、ビザの準備を全然していなくて、そのために何が必要かすら知らなかったんです。あとで調べたら膨大な量の書類が必要で、仕事もまだ辞めていなくて、タイミング的に行けるような状態じゃなかったので、泣く泣くそのことをバックスに連絡しました。

でも、自分でもまさか受かると思っていなかったので、それで完全に火がつきましたね。オーディションに参加して、自分のレベルやアメリカ人のレベルもわかりましたし、これが自分が本当にやりたいことだってことも確認できたので、帰りの飛行機では「来年は絶対行く!」って決めていた感じです。

ダンスやトレーニングよりも大きなチャレンジ

──翌年見事にスパーズに合格しましたが、そのときのオーディションの一番のチャレンジは何でしたか?

やっぱり就労ビザの書類の準備ですね。書類はすべて英語で用意する必要があるし、書類も膨大でとにかく時間がかかります。最近合格した人たちも「こんなにあるとは思わなかった」と言うくらいです。私は自分で弁護士を雇って、書類の英訳も自分でやりました。

ビザの次に大変なのは、お金です。ダンスやトレーニングはその後というか、一番最後ですね。とにかく、お金をどうやりくりするかが大変でした。合格後の生活のことも考えて、いくら必要なのかを全部書き出して、節約できるところは節約しました。

──トモさんの合格の決め手はなんだったと思いますか?

実はすごい偶然なのですが、スパーズ時代に私のコーチだった女性がクリーブランド出身で、今はキャブズでエンターテイメントチームのマネージャーをしているんですね。私はアメリカ生活5年目ですが、その人とずっと一緒に働いているんです。

それで彼女に一度、「私が(スパーズに)受かったのは奇跡だと思う」と話したことがあって。そしたら彼女が、「正直、トモが何を言ってるかはよくわからなかったけど、でも、トモの人柄の良さや真面目なところがあの面接のときに伝わってきた」と教えてくれました。

英語ができなくても自分ができることをやれば伝わる

バックスに受かったときも英語はまったく話せなかったので、とにかく自分の想いだけは伝えようと思って、個人インタビューのときには手紙を準備してそれを読みました。そしたら聞いていたコーチも泣いてくれたりしたんですね。

スパーズのときもオンライン英会話レッスンを受けてから行ったんですけど、オーディションの一環で行われるブートキャンプ(模擬練習)でも、とにかくすごく集中して、ずっと笑顔でいたり、英語ができなくても自分ができることをやるようにしていたのを覚えています。

──スパーズのダンスチームがその後1年で解散したのは予想外だったと思うのですが、日本に帰ろうとは思いませんでしたか?

チアダンスチームがなくなったことはどうしようもないことだし、このまま日本に帰ってもいいかなとも実は思ったんです。父親には「帰って来い」とすごく言われ、でも母親には「たった1年やっただけで帰ってくるな」と言われて、母親の言葉に私も納得しました。

また、当時サンアントニオでお世話になった人に「まだオーディションがあるチームが残っているってことは扉が完全に閉じられたわけじゃないから、もう1回チャレンジしてみて、本当に帰らなくちゃいけなくなったら帰ればいいんじゃないの」って言われたのも大きいです。

ほかのチームも受けていましたが、スパーズ時代の私のコーチがキャブズでダンスをやっていた経緯もあって、キャブズにチャレンジしようと決めて最後の最後にキャブズに合格しました。

──改めて、トモさんが所属するキャブズ・パワーハウス・ダンスチーム(Cavs Power House Dance Team)の仕事を教えてください。

シーズン中はホームゲームへの出演があり、そのための週2回のチーム練習のほかに、チームのダンスクリニックなどの提供や、コミュニティ・アピアランスという地域貢献活動があります。コミュニティ・アピアランスは、週に2回、多いときは3回あり、ホリデーシーズンには増えますね。

クリーブランドに来て感じたことは、チームが地元に根付いていて基本的にアットホームだということで、サンアントニオもそうでしたが、コミュニティ・アピアランスはすごく多い印象なんです。

あとは、私が所属するダンスチームではないのですが、今シーズンからキャブズのシニアチーム(キャブズのエンターテイメントチームの1つ)のメインコーチもやっています。週に1回の練習と、シーズン中に6回、つまり月1回くらいのパフォーマンスなんですが、そのコーチを担当しています。

寺田智美(キャブズ・パワーハウス・ダンスチーム)
ClevelandCavaliers.com

日本人の私にキャプテンを任せてくれるのは信頼の証

──NBAダンサーとしてやりがいを感じるときは?

今はチームにキャプテンが3人いて、私はヘッド・キャプテンをしているのですが、「これはトモに任せる」と言ってもらえるときや、パフォーマンスでチームの一番前の真ん中のポジションをもらえるときなどですね。

英語も100%完璧じゃない日本人の私にキャプテンを任せてくれるのは、信頼をおいてくれてるからだと思うと本当にありがたいですし、重要な役割を任せてもらえると、やっぱり頑張ってきて良かったなと思います。

キャブズ2年目のシーズンから任されることが増えたんですが、今年になってシニアシームのコーチをやるようになってからは、ダンサーであると同時に、コーチとして裏方にも片足を突っ込んでいるようなものなので、さまざまものが見えてきてやりがいも強くなりました。

キャブズはエンターテイメントチームをとても大事に扱ってくれる気がしますし、私はキャブズの組織がすごく好きなんです。違うセクションの人でも従業員同士でよく声を掛け合っていて、働きやすいなと思いますね。

──これまでを振り返って大変だと感じたことはありますか?

私たちのチームは、私が入った1年目は女性らしいジャズなどのスタイルのチームだったのが、2年目(2019年)から男女混合のチームに新しく変わったんです。ヒップホップ中心になり、私はヒップホップが好きなのでダンススタイルとしては合ってるんですが、実はすごく大変でもありました。

新しいスタイルのチームに変わることになってチームメイトのほとんどが辞めてしまって、私とあと2人しか残らなかったんです。その結果、ほとんどがルーキーになり、新しいコーチもNBAでのダンスコーチは経験したことがなかったので、とにかくすべてが新しいところから始まって本当に大変でしたね。

その大変だった2年目の年に、私はキャプテンにも任命されたんです。さらに、その年のプレシーズンにはNBAジャパンゲームズにも行かせてもらったり、アトランタで開催された(ホークス主催の)ジャパンナイトのイベントにも行かせてもらったりしました。

いろいろな経験をさせてもらってありがたかったのですが、とにかくキャブズのダンスチームとしては一から組み立てていくのが大変で、なんとか乗り切ろうと思ったシーズン後半にコロナでNBAが中断したんです。

それで、コロナ禍の昨シーズンは少人数で集まって踊ることが増えて、その結果、練習などの活動人数が少なくなった分、コミュニケーションが取りやすくなりました。ダンサーとしての出番は少なかったけれど、そういう部分では良かったかなと思います。

住んでみなければわからなかった異国の地で暮らすことの大変さ

大変だったときは、チームメイトとコミュニケーションで日本語が話せたらどんなに楽だろうと何百回も思いました。キャプテンになってから、英語の言い回しを考えなくちゃいけない状況が増えましたね。

それまでは、単語を並べて話せばなんとなく伝わるレベルで終わっていましたが、私の知っている単語だけではストレート過ぎてきつくなってしまって、婉曲的な言い方を勉強しなきゃいけないなとか、違う形で伝える方法を考えなきゃとか、そういうことを考えるようになりました。

それ以外に、寺田智美という一個人としては、異国の地で1人で生活するのが本当に大変です。英語も含め、すべてがここまで大変だということは、住んでみなければわからなかったですね。いっぱいサポートしてくれる人も周りにいるんですけど。

今は1人暮らしなのですが、それも結局良し悪しで。ホストファミリーと一緒だと、話せる相手はいるかもしれないけど気を遣わないといけないし、1人で生活する場合は、たとえば水漏れがあったときなんかも、1人でなんでもこなさなきゃいけないんですよね。

そういう小さなことが、日々サバイバルというか、1日も気持ちが休まるときがないと感じることはありますね。

支えてくれる人やわかってくれる人がいることが励みに

──大変なときのストレス解消方法は?

ひたすら日本のバラエティ番組を見ることです。日本のバラエティ番組ってめちゃくちゃ楽しいし、頭でなんにも考えなくていいので。

あとは、日本にいる友達に電話して話を聞いてもらったり。ただ、時差があってなかなか時間が合わないときは、つらいなーって思いますね。これは自分で解決しなきゃって思うときが多いです。

ほかにもすごく周りで支えてくださってる人がたくさんいて、愚痴りたいときは電話しちゃうんですが、それこそ、ケイさん(サンダーガールズ/オクラホマシティ・サンダー)とかにもたまに電話して話を聞いてもらったりしています。

私とケイさんは経験年数も似ていてほぼ同じような経験をしているし、日本語で話せるのが本当にありがたいですし、そうやってわかってくれる人がいるっていうのはすごく励みになりますね。

将来何があるかわからないからこそ、どのシーズンも常に全力で

──5年目のシーズンに達成したいと思うことはありますか?

どのシーズンも、このシーズンで終わってもいいっていうくらい常に全力でやっているのであまり後悔はなくて、特にこれを達成したいって意識していることはないかもしれないです。

自分がどれだけ頑張ってたとえ1000%出したとしても、こうしておけばよかったという思いは出てくるものだと思うんです。そういう意味では、コロナもそうですが、たとえば何かが起きて今終わりになったとしても、悔いを残さないように1回1回のパフォーマンスに取り組んでいますね。

──昔からそういう考え方でしたか?

そんなことはないですね。NBAに挑戦して、自分がどこまでできるかわかったんだと思うんです。自分でこれだけやって、それでできなかったらしょうがないと思えるところまで来れたというか。

スパーズのオーディションに受かった1年目は、本当に何もわからなくて、ただただ毎日必死でみんなについていくだけでしたが、それでもみんなに必死についていったら、オフの夏のアピアランスのメンバーに選ばれたんですね。

そのアピアランスのメンバーは、次のシーズンも継続したい人から選抜されていたので、翌シーズンもスパーズに残れる可能性が高いと思っていました。それで、また来年もスパーズでやろうと思っていたら、ダンスチームがなくなってしまった…。

スパーズでの1年も精一杯やったので後悔は全然ないんですけど、将来何があるかわからないという経験をしたことがすごく大きいと思います。

オールスターの経験で『エンターテイメントは生き物だ』と学んだ

──今シーズンはオールスターがクリーブランドで開催されましたが、オールスターではどんな経験をしましたか?

私はジャパンゲームズというNBAのイベントにも参加させてもらっていたので、なんとなくNBA開催のイベントの雰囲気はわかっていたんですが、ここまで大規模なNBAのイベントに携わったのは初めてでした。

さらに今年は、NBA75周年を祝って歴代のレジェンドがクリーブランドに集まったので、規模が普通とは全然違って、こんなに大きい規模のイベントに自分が立てたということがとても貴重で、一生の思い出になったし、楽しんだし、勉強にもなりましたね。

一番学んだのは、エンターテイメントは生き物なんだなということです。最後の最後までいろんなことが確定しなくて、リハーサルでもダンサーが失敗したり、カメラの位置が悪かったり、本当にいろいろな人たちが関わっているのでリハーサルを何十回もするんです。

オールスターイベントは金曜から日曜まででしたが、リハーサルはその週のはじめから始まり、その1週間はずっと、毎日朝7時くらいから夜11時とか12時くらいまでリハーサルなどでスケジュールを拘束されて大変だったんですよ。

それだけリハーサルをしても、最後の最後で変更が起きることもたくさんあったし、人によってAだったりBだったり言うことが違って、どっちかわからないこともたくさんあって、本当に生き物だなと感じました。

規模は全然違うけれど、中学や高校の文化祭がドタバタするのとあまり変わらないなと思いましたね。エンターテイメントをみんなで作り上げるということは、どんなプロフェッショナルでも同じだなと。

ただ、エンターテイメント業界にいる人は、直前に変更があってもすぐ対応できる臨機応変さがプロなんだなと思いました。これだけ大規模のものを体験でき、ドタバタでもやり切るっていうのを肌で感じられたのはすごく良い経験でした。

寺田智美(キャブズ・パワーハウス・ダンスチーム)オールスター
ClevelandCavaliers.com

アメリカで学んだことを日本に持ち帰りたい

──キャブズではいろいろな経験ができているようですが、次のキャリアをどう考えていますか?

ビザの関係であと1年はアメリカにいられるのですが、現段階ではまだ具体的なことは未定です。ただ、将来的には絶対日本に帰るということは決めていて、日本へはアメリカで私が学んだことを持ち帰りたいと思っています。

そのひとつには、今アメリカで教えているバレエのバーを使ったワークアウトとか、インストラクターをやっている普通とはちょっと違うタイプのピラティスを日本に持っていきたいです。

もうひとつは、日本で振付師か、どこかのチームのディレクターとしてチームのマネジメントに携って、日本のチアリーダーが今ちょっとアイドルみたいになっちゃっているのを差別化したいと思ってます。

それは日本の文化だし、それ自体は悪いとは思っていないんですが、日本とアメリカで違うのは、アメリカではチアやダンサーの人たちを試合のエンターテイメントとして見てくれるけど、日本では『女の子』として見られてしまうところがあることだと思うんです。それはやっぱりちょっと違うなと感じるので、そこを変えていきたいです。

アメリカに来て知った日本とアメリカのダンスへのアプローチの違い

──どうやったら変えていけると思いますか?

まだ全然わからないですが、エンターテイメントの幅を広げるところかなと私は思ってます。

アメリカに来て衝撃的だったのは、日本では子供を対象にしたチアダンス(ポンポンを持ってシャープな動きをするダンス)の教室が数多くあるんですが、アメリカにはそんな教室がひとつもないことでした。

アメリカの場合は、将来NBAダンサーになりたいと思ったら、チアリーディング(人を持ち上げたり飛ばしたりするスタイル)を習う教室に行ったり、バレエ、ジャズ、ヒップホップなどのジャンルをダンス教室で習うのが通常です。

でも日本では、チアのトップチームに行くためにチアダンス教室に入って、膨大なダンスのジャンルのうちのたったひとつのチアダンスだけを練習するので、ほかのジャンルをまったく踊れないことになるんです。

その結果、エンターテイメントの幅を広げたくても、そのジャンルしか踊れない人が多くてそれができないということが起きているんですね。私が日本のチームにヒップホップの振付けなどを提供するときにも、そこで苦労している人が多いと感じています。

ほかのジャンルを踊れる人もなかにはいると思いますが、たとえばチームにヒップホップがすごく上手な子が1人いても、みんなでは踊れない。できることが少ないために、全員ができて揃いやすい振り付けで踊るので、日本のチームはどのチームを見ても踊りが同じに見えてしまうんです。

だから、そういう構造が、日本のスポーツのエンターテイメントにおける原因になっているんだろうなと思っています。

スポーツになくてはならない日本のエンターテイメントを盛り上げたい

──オールスターの経験を通して、日本のエンターテイメントについて思うことは?

今回の経験で、お客様が何を喜ぶかが改めてわかったんですね。お客様はやっぱり選手が良いプレイをするのが一番大事で、エンターテイメントは二の次。でも、スポーツにおいてエンターテイメントはなくてはならない存在だと。

それから、日本のスポーツ界をもっと盛り上げるために重要だと思うのはお金ですね。アメリカでこれだけのエンターテイメントができるのは、アメリカではスポーツが商品になっていて、その商品を買う人がいて、エンターテイメントとスポーツが一緒になっているのが大きいと思うんです。

日本でそういうことを実現するためには、エンターテイメントも盛り上げていかないといけないし、それなりのパフォーマンスができる選手を育てなくてはいけないという2つの課題があると思います。

さらに、それが実現できる箱(会場)がないとダメだなと感じました。日本ではまだ、市民体育館とかで試合をやっているチームも多く、そこでエンターテイメントを盛り上げるのは限界があります。それが日本の現状なんだなと、今回ここまでの大きなイベントに参加させてもらって改めて思いました。

オールスターが終わった翌日は疲れてひたすら眠ったくらい、イベント自体はしんどかったのですが、もう一度やるかと聞かれたら、絶対やるって言いますね。でも、やるなら今度は運営側でやりたいと思います。

そういう経験をアメリカで積ませてもらえるのかは全然わからないですけど、オールスターという今シーズンの目標がひとつ終わって今後の自分のキャリアを考えたときに、最終目標として、日本ではそういうことに関わっていきたいと思いました。

合格者が増えることは日本のエンターテイメントにもポジティブなこと

──今シーズンはNBAダンサーとして日本人女性が5人も活躍していますが、先輩や後輩がいて、そうやって日本人がずっと続いていることをどう思いますか?

すごく素敵なことだと思います。時代が変わってきた感じがしますね。私よりも前の世代の、特に一番最初の世代の方々は、インターネットもなくて、受験の方法も合格したあとに何をすればいいかもわからない状況だったと思うんです。

それに比べて今は情報が入手しやすくなってきているうえに、日本のチアリーダーはダンスのレベルも高いし、日本人の真面目な性格はアメリカにない要素なので、これから合格する日本人が増えると思っています。

アメリカのチームは、NBAでもNFLでもどこもダイバーシティ(多様性)を意識していて、アジア人の需要があると思うんです。特に、カリフォルニア州とニューヨーク州以外の、アジア人が少ない地域にあるチームでは、どちらかというとアジア人は受かりやすい気がしますね。

もうひとつは、やっぱり日本人の真面目さですね。アメリカ人から見たらすごく頑張ってるように見えると思います。言葉も話せないのに渡米して、オーディションのブートキャンプでも一生懸命コミュニケーションを取ろうとしたり、頑張って動こうとしたりする点が好印象に見えると思うんです。

だから、日本人の合格者は増えると思うし、それ自体は日本のエンターテイメントにとってもポジティブで良いことだと思っています。ただ、気軽にチャレンジできるようになってきている分、本気でチャレンジする人が少なくなってしまうのではないかなという懸念があります。そうはなってほしくないなと思いますね。

自分に合うチームや地域を探し、先輩たちにも連絡を取ることが大事

──これからNBAダンサーを目指す後輩に対してアドバイスは?

とにかく、チームの研究をしてくださいと伝えたいです。

すでに自分が憧れているチームがあって絶対そこに入りたいなら、そこのチームの求めるものと今の自分を比べて、足りていない部分をつぶしていくことが大切です。

漠然とNBAやNFLのチアリーダーになりたいのが目標だったら、まずは自分に一番近くて合うチームを探すことが先です。次にそのチームのある地域が好きかどうかを考えること。例えば、ここは日本人は少なそうだけど、初めて住むならもっと多いところがいいかなとか。

私がスパーズを受けた年にチーム選びで意識していたことは、自分がそのチームのユニフォームを着てる姿をいかにすぐに想像できるかってことでした。そのために、チームの踊り方やどういうジャンルの踊りが必要なのかを学び、コミュニティ・アピアランスの頻度もチェックして球団が地域貢献型なのかを調べたんです。

今はSNSが発達してチームの情報も簡単に得られると思うので、そうやって自分に合うチームや地域を探すことを一番やってほしいですね。

──トモさんはその過程で、アメリカに挑戦した先輩たちに連絡を取りましたか?

はい。自分の目指す地域のチームを受けた先輩とか、そこの地域でダンサーをやってた先輩がきっといるので、そういう人たちに連絡するのはとても大事なことです。

私がスパーズを受けたときには、過去にスパーズでアスレティックトレーナーとして働いていた経験のあるダイスさん(山口大輔氏)に話を聞いたんですが、それこそケイさんにダイスさんにつなげてもらって、ダイスさんからホームステイ先を紹介してもらいました。

ケイさんとはその前からつながっていて、ケイさんが一度引退されて日本に戻ってきたくらいの時期が、私がちょうどアメリカに挑戦したいなあと思い始めたところだったので、日本でケイさんのワークショップを受けていたんですね。

オーディションの直前には、ケイさんにプライベートレッスンもやってもらっていて、そのときに「スパーズを受けるんですけど、どなたか知ってる方はいますか?」って相談して、ダイスさんにつなげてもらいました。

夢を叶えるためには『信じる、楽しむ、感謝する』こと

──そういう周りの人とつながりが大切なんですね。

そうですね。これはNBAダンサーだけでなく、アメリカにチャレンジしたいとか、何か夢に向かってチャレンジしたい人全般に言えることなんですが、とにかく『信じる、楽しむ、感謝する』という3つに尽きると私は思っているんです。

夢を絶対叶えたいと思ったら、まずは覚悟を決めて、どんなことがあってもやると信じ抜くこと。信じてるだけだと叶わないので、私的には『信じる=覚悟する』って感じなのですが、覚悟を決めて最後まで信じ抜くってことがまず最初です。

その覚悟が決まったら、次はとにかく『楽しむ』。覚悟が決まればやることは決まってくるんですが、そのやるべきことをやってる間に落ち込んだりもするんですよ。こんなに頑張ってるのになんでできないんだろうってつらいしきついんです。でも、それは長い人生のほんの一瞬だと思うので、壁にぶち当たることですら「私、頑張ってやってるなー!」って感じで楽しむんです。

そして最後は、なぜ自分がそのチャレンジができているかといえば、周りで応援してくれている人がいるからなので、そういう人たちに『感謝する』気持ちを忘れないこと。

スパーズのオーディションでは最終選考の最後にソロのパフォーマンスがあったんですが、自分の出番の直前に、ケイさんも含めて、それまでにお世話になった人や応援してくれた人たちのことが急にばばばばーって頭に浮かんできたんです。

それでそのときは、オーディション会場にいたお客さんのためとか、ジャッジにアピールしようとかでなく、そのお世話になった人たちだけのために踊ろうと思いました。

もちろん自分のためでもあるんですが、応援してくれている人たちを裏切るようなことはしたくないし、その人たちのおかげでここまで来れたんだと、そういう気持ちを忘れない人が夢に辿り着ける気がしています。

これからNBAダンサーに合格する人がたくさん出てくると思うんです。でも、そこまでの覚悟を決めずに、なんとなく受けて受かっちゃってアメリカに来ちゃうと、それはそれで、その後に壁に当たったときにどうしたらいいかわからなくなっちゃうと思うんですね。

スパーズを受けたときの私は本当に覚悟が決まっていたし、応援してくれる人たちがいるおかげで、壁にぶち当たったときも「ここでへこたれたら、なんのためにあの人たちは私のためにいろいろやってくれたんだろう」と考えると、絶対へこたれちゃいけないなと思うんです。

だから、私は『信じる、楽しむ、感謝する』ということを常に意識しています。それを忘れなければ、『信じて楽しんでいる』過程の中で、もし自分の現実を知って夢が変わって最初の夢が叶わなかったとしても、それはそれで、最後の『感謝する』気持ちがあれば、その先で違う夢が叶うなど、何かしらの形で良い結果がついてくると思っています。


寺田智美(てらだともみ)プロフィール:

高校の部活動にてチアダンスを始める。大学入学以降、チアリーディングのインストラクターとして活動。全国でチアリーディング指導を行う。その後、社会人アメリカンフットボールチームのオービックシーガルズチアリーダーとして3年間活動。2016年度キャプテンを務める。2017年、テキサス州サンアントニオのNBAダンスチームオーディションにチャレンジし、合格。アメリカでプロフェッショナルダンサーとしての活動を開始。現在は、オハイオ州クリーブランドにてNBAダンスチームのキャプテン、シニアダンスチームのヘッドコーチを務め、チームの振付等も行なっている。また、ダンサーとして活動する傍ら、アメリカで人気のフィットネススタジオPure Barreでダンスインストラクター、ピラティスのインストラクター、ダンス講師としても活動している。
Instagram: @tomocheer

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静岡県出身。大学卒業後渡米し、オクラホマ大学大学院修士課程修了。2014年よりオクラホマシティ在住。移住前にNBAのオクラホマシティ・サンダーのファンとなり、ブログで情報発信を始める。現在はフリーランスライターとして主にNBA Japan/The Sporting Newsに寄稿。サンダーを中心に取材するかたわら、英語発音コーチも務める。