球団にとって50年ぶりの優勝にあと1勝と迫っているミルウォーキー・バックスは、7月20日(日本時間21日)にファイサーブ・フォーラムで行なわれるフェニックス・サンズとのNBAファイナル2021第6戦で、多くを味方につけている。
4勝先制のシリーズで、バックスは3勝2敗とリードしている。勝てば優勝という一戦を、今ポストシーズンで9勝1敗の成績を残すホームで迎える。また、今シリーズのベストプレイヤーであるヤニス・アデトクンボを擁している。測定するのは難しいが、否定することが不可能な無形の力もある。観衆の熱狂だ。アリーナの中には1万7000人の観客。そしてアリーナの外、「Deer District」には6万5000人のファンが集まる見込みだ。
しかし、サンズにはバックスにないことがひとつある。それは、必死さだ。
バックスのベテランガード、ドリュー・ホリデーは、勝てば優勝という試合についての質問に、追いかける側、つまり負ければ終わりというエリミネーションゲームに臨むチームとしての立場から回答した。バックスがブルックリン・ネッツとのイースタン・カンファレンス・ファイナル(東地区決勝)で2勝3敗と後がなくなったこと、今ファイナルでも0勝2敗と連敗スタートだったことを忘れてはいけない。
ホリデーは「正直、必死にプレイすることが大切だと思う」と述べた。
「シーズン最終戦のつもりで戦うんだ。自分たちにはもう後がないというつもりでね。僕たちは第5戦で良い勝利を収めることができた。でも、まだ仕事は終わっていないんだ」。
実際には、バックスには必要ならもう1試合のチャンスがある。その中で集中を研ぎ澄ますべく、必死になろうとすることはできる。自分たちをそう騙せるかもしれないし、騙せないかもしれない。
一方のサンズにとっては、本当の崖っぷちだ。作りものなどではなく、真の崖っぷちである。
サンズのジェイ・クラウダーは「基本的に異なるのは、勝つか家に帰るかということだ」と話した。
「その言葉がすべてを物語っていると思う。選手として、緊迫感を覚えるよ。それがチーム内に結束を生む。自分たちが何と戦い、どんなことに直面するのかは分かっている」。
サンズがシリーズで追う立場になったのは、今ポストシーズンで2度目だ。ロサンゼルス・レイカーズとのファーストラウンドで1勝2敗とビハインドを背負ったが、そこから9連勝を飾った。レイカーズを沈め、デンバー・ナゲッツをスウィープし、ロサンゼルス・クリッパーズとのシリーズも2連勝でスタートした。
昨季、クラウダーはマイアミ・ヒートの一員としてフロリダ州オーランドのバブルでのNBAファイナルに臨み、サンズと同じ2勝3敗という状況を経験した。そして、ヒートは第6戦でレイカーズに敗れている。
クラウダーは「美しくはならないだろうね」と話した。
「完璧な試合を狙うことはない。勝利をもぎ取ろうとするだけだ。今シリーズのこれまでのロードでの2試合で、僕たちには勝つチャンスがあったと思う」。
第4戦では、ヤニス・アデトクンボがファイナルの歴史でも有数のブロックを見せた。2点リードの残り1分14秒、同点を狙ったディアンドレ・エイトンのアリウープを阻んだブロックだ。そしてバックスは109-103で第4戦を制した。
シリーズで初めてロードのチームが勝利したフェニックスでの第5戦も、終盤は似たような感じとなった。早い段階で16点のビハインドを背負ったバックスだったが、ハーフタイムまでにそのすべてを挽回し、二桁点差をつけて、最後に見事な流れから勝利を手にした。
ホリデーがデビン・ブッカーの両手からボールを奪い取ると、フロントコートにドリブルで運び、大きなリスクのあったロブパスを上げ、アデトクンボのアリウープで122-119とリードを3点に広げたのだ。アンドワンのフリースローはアデトクンボが失敗したが、再びホリデーがリバウンドに絡み、アデトクンボが弾いたこぼれ球をクリス・ミドルトンがキープしてファウルをもらった。
残り9.8秒のFT、ミドルトンは1本目を外したものの2本目を決め、バックスが勝利を収めた。
大きな痛手となった黒星だが、サンズのモンティ・ウィリアムズ・ヘッドコーチは、とにかく1勝しようという情熱を持ってチームは立ち直れると考えている。
ウィリアムズHCは「昨日、飛行機で、選手たちは同じ目をしていた」と話した。
「今朝、私がミーティングに来たとき、選手たちは朝食をとりながら話していた。見ていて良い気分だったよ。ああいう黒星はキツいものだ。だが、何か大きなことをするには、そういうキツさを乗り越えなければいけない。ふらりと優勝したチームなど、私はひとつも知らない」
「我々はそのことを話した。プレイオフでは深い傷を負うこともあり、そこから立ち直る力が大切なのだとね」。
サンズが改善したいと望む、あるいは少なくともバックスにうまくやらせたくないと願う点のひとつが、トランジションだ。第5戦では速攻からの得点でバックスが21-12とリードした。ここまでの5試合で合計86-45とバックスが優位に立っている部分だ。サンズはハーフコートオフェンスだが、12得点以上はほしい。そして、バックスはハーフコートで苦しんでいるようであり、サンズはもっとハーフコートの攻撃をしたいと望んでいる。
ただ、それだけではない。シーズン中に3ポイントショット試投が平均34本超だったサンズは、勝利した第1戦と第2戦で74本の3Pを放ちながら、第5戦では19本試投にとどまっている。バックスの功績であると同時に、ブッカーやポールのミドルレンジに頼りすぎたサンズのせいでもある。
ポールは「もっと3Pショットを打つ方法を見つけなければいけないと思う」と話した。
「僕らはシーズンを通じてそうやってプレイしてきた。試合に負ければ当然振り返り、分析する。そして『もっと3Pを打たなければ』と思うんだ」。
もっとボールを動かし、もっとアシストを記録し(第5戦は23アシスト)、もっと相手を止め、もっと勤勉にリバウンドを拾いにいき、もっと終盤に正確にプレイを実行して、もっとハッスルプレイをしなければいけない。バックスはここ3試合でそうして自分たちの流れを引き寄せた。
だが、レギュラーシーズンのロードゲームで最高成績(24勝12敗)を残したサンズは、このシリーズで少なくとも1勝をバックスのコートであげたいと望んでいる。今が、ラストチャンスだ。
今ポストシーズンのサンズの成績は、14勝7敗。彼らにとって、バックスとの第6戦は今季初のエリミネーションゲームだ。少なくとも、アドレナリンは出るだろう。
サンズのミケル・ブリッジズは「僕らはこの立場が初めてだ。受け止めなければいけない」と話した。
「それを前向きに捉え、誇りに思わなければいけない。こうやってビハインドを背負ったけれど、2連勝することで素晴らしい気分になれる。追い詰められたのも良い気分だよ。プレイオフを通じてなかったことだからね」。
バックスは、サンズと立場を入れ替えたいとは思わないだろう。だが、少しの重圧もある。第6戦に勝てなければ、フェニックスに戻ることになるからだ。球団にとって50年ぶりとなる優勝リングをつかむ機会を無駄にすればどうなるか、彼らは分かっている。
厄介だが、バックスは必要なら第7戦があると考えて第6戦に臨んではいけない。だが、第6戦でうまくいかなかったことを思い出しながら第7戦を戦わなければいけなくなることを望んでいないのは明らかだ。
アデトクンボは「先走らないようにするのは難しい」と話した。
「でも、ここが最も自分を律しなければいけないときだ。僕はそう努める。興奮しすぎないことだ。今すぐに試合を戦うことはできない。だからそのことを考えもしないようにする。でも、難しいことだ。寝ていて試合のことを夢見るときもある」
「でも、ここは僕らがそれぞれ自分を律しなければいけないときなんだ。僕も、クリス(ミドルトン)も、コーチ(マイク・ブーデンホルザー)も、ドリューも、ブルック(ロペス)も、チームとして全員に規律が必要だ。それを心配してはいけない。お祝いの計画も気にしてはならない。終わるまでは何もなしだ」。
第6戦のテーマは、「必死さ」vs「規律」だ。
原文:It's desperation vs. discipline in Game 6 of The Finals by Steve Aschburner/NBA.com(抄訳)