経験豊富な“メンター”から多くを学ぶ若手NBA選手たち

Michael C. Wright, NBA.com

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ロッカーに寄り掛かったミルウォーキー・バックスのカイル・コーバーは、6チームに渡ってプレイしてきた自身の17年のキャリアを笑いながら振り返った。

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元オールスター選手(2015年)で、NBAスポーツマンシップ賞の受賞者でもあるコーバーは、決して自分だけの力でここまで来れたわけではないのを理解している。だからこそ、今月の全米メンタリング月間は、彼やNBAの数々のベテラン選手にとって共感できるものなのだ。

コーバーは「NBAでプレイできるのは光栄なことで、リーグで年数を重ねれば、若手にプロとはなんたるかを教えてあげる責任が生まれる」と『NBA.com』に語る。

「それは年齢と共に来るもので、バスケットボールだけでなくどんな人生であろうと、皆ができていることだと望む」。

1月は全米メンタリング月間として知られており、2014年以降、NBAは『MENTOR』と手を組み、あらゆるコミュニティで若手を指導することの重要性の認知度を上げる活動を行なっている。

NBAという小さな世界では、目まぐるしい勢いで多くの選手たちがリーグを出入りしている。長年リーグでプレイしている選手たちのほとんどが、コート内外でNBAの落とし穴をどう避けていくのか、真のプロフェッショナルになるには何が必要かを、ベテランのチームメイトが教えてくれたと話す。

だからと言って、ベテラン選手がいずれ自分の仕事を奪うかもしれない若手選手に、レッドカーペットを敷くような対応をしているというわけでもない。

 

「アーロン・マキーが僕の面倒を見てくれていた」

だからこそ、コーバーは自身の経験を振り返って笑ったのだ。コーバーがリーグ入りしたとき彼は22歳で、フィラデルフィア・76ersのチームメイトだったアーロン・マキーは10年目のベテランである31歳だった。

Allen Iverson, Kyle Korver

コーバーは「フィリーでの最初の数年間、アーロン・マキーが僕の面倒を見てくれていた」と語る。

「若い選手たちの面倒を見て、プロになる手助けをすることに誇りを持っている選手がいる。僕にとっては、彼が初めてのそういう存在だった。練習コートに行くまではね。練習が始まった途端、全然彼の代わりに出ることを許してくれないし、僕に出場時間を奪われたくないから全力でやっつけにくるんだよ。でも、プロとしてどうあるべきかを教えてくれながら『だからといって俺の仕事を明け渡すわけじゃないぞ』っていう、とても良いバランスのとれた指導だった」。

アレン・アイバーソンも「僕のキャリア序盤の重要な存在だった」とコーバーは付け加えた。

「僕に自信を与え、選手として伸ばしてくれたよ」。

 

「教えてくれる人はいなかった」

サンアントニオ・スパーズでは、殿堂入り間違いなしと言われているティム・ダンカンがチームの利他的なカルチャーを確立することに大きく貢献した。今ではパティ・ミルズとラマーカス・オルドリッジがその役割を担っているが、彼らはベテラン選手から指導を受けたわけではない。

ミルズもオルドリッジもスパーズに移籍する前は、ポートランド・トレイルブレイザーズでキャリアをスタートさせている。

オルドリッジは「今は自分でやっているが、リーグ入りしたときは特にベテラン選手から指導とかは受けていなかった」と語る。

「移り変わりの早いチームに入ったからね。若いチームだった。Z-Bo(ザック・ランドルフ)たちが去っていった。だから初っ端から自分たちでトライアル&エラーで学んでいく必要があった。『こうやってやるんだよ』って教えてくれる人はいなかったんだ」。

ミルズもリーグ入りし、ブレイザーズでの最初の2シーズンは同様の気持ちだったという。

しかし、2011-12シーズンにスパーズと契約してからは、全てが変わった。ダンカン、トニー・パーカー、マヌ・ジノビリという3人の殿堂入り間違いなしと言われる選手がロッカールームに揃っていたのだ。

Patty Mills, Manu Ginobli

本人は「サンアントニオに来るまで、そういった経験はしておらず、ベテラン選手からプロフェッショナルになるための指導を受けるというのがどういうことかは理解していなかった」と話す。

「ここでは間違いなくそれがあり、恩恵を受けたよ。ティミー、トニー、マヌ、全員が同じ影響を与えてくれたけど、それぞれが違う形で見せてくれた。ティミーはお手本となる。マヌはコート外でいろいろと話をしてくれ、トニーはコート上で様々なことを教えてくれた。この3人についてはいくらでも話せるよ。でもそれと同時に、マット・ボナーみたいな選手もいてくれた。彼もとても長いことリーグでプレイしていたから、試合の準備をするには何が必要かを熟知していた。スパーズは様々な角度からそう言ったことを教えてくれる選手がいたから、できるだけそこから得ようとしていたよ」。

2013-14シーズンには優勝を経験し、8年間スパーズでプレイしたロサンゼルス・レイカーズのシューティングガードであるダニー・グリーンも、スパーズでジノビリから学んだ過去を振り返った。

「初日から、スポンジのように全てを吸収しようとしていたよ」とグリーンは語る。

「彼がやると凄く簡単に見えるけど、実際は簡単じゃないんだ。彼のやってきたことを自分のゲームに加え、相手のディフェンスの隙をついたり、成功するために必要なことを学んできた。あのグループのなかでは彼が先生、教授、問題解決をしてくれる存在だったね。彼はとても情報通で、常に自身が学ぼうとしており、それを教えようともしてくれる。コート内外でとてもIQが高かった」。

 

「初めて話す相手には『助けが必要なら言ってくれ』と伝える」

ブレイザーズとスパーズで全く違う経験をしてきたミルズとオルドリッジだからこそ、ふたりは今のスパーズでメンターという役割をしっかりと担うことの重要性を感じているのだ。

スパーズのガードであるブリン・フォーブスは、チームに加入した初日にミルズから「何か必要なときはいつでも自分のところに来てくれ、と伝えられた」と説明する。ミシガンステイト大学からドラフト外で2016-17シーズンにチームに加入したフォーブスは、ジノビリとルディ・ゲイからも多くを学んだと言う。

ミルズは「新しい選手、若い選手の顔を見ると、やってやるぞという意志が伝わってくる」と述べる。

「しかしその前に、初めて門をくぐったときには、頭の上にハテナマークがついているのがわかるんだ。周りがどう接してくるかもわからない。だからこそ、初めて話す相手には『助けが必要なら言ってくれ。君の立場であったこともあるからわかる。なんであろうと、正しい道を進めるように助けてあげられるよ』と伝えるようにしている。それは特に最初の数週間、数か月とも言えるかもしれないけど、とても助けになるんだ。初めてやってきて、自分が主要選手じゃない環境は威圧的に感じることがあるからね」。

 

「若い選手にそれを伝えられるのであれば、やるようにしている」

フィラデルフィア・76ersのセンターであるアル・ホーフォードは、2007年のNBAドラフトでアトランタ・ホークスに全体3位で指名された主要選手ではあったものの、同じような経験をし、「ザザ・パチューリア、マイク・ビビー、あとはアンソニー・ジョンソンが僕にとってそういう存在だった」と説明する。

「キャリアの初めは彼らに頼っていた。ザザはとにかくプロフェッショナルで、自分自身のケアの仕方を熟知していた。彼がどう振る舞っているのか、プレイしているかを見ながら勉強したよ。マイク・ビビーからはピック&ロールについてや、どこでシュートを打つべきか、何をすべきかなど多くを学んだ。とても重要な存在だったよ」。

Mike Bibby, Al Horford

「僕はとてもラッキーだった。多くのベテラン選手が周りにいたからね。とても影響があった。リーグ入りして、プロになる方法、正しい方法を学ぼうとしていた。彼らは長年NBAでプレイしてきた。高いポテンシャルを持った選手は多くいるが、このリーグである程度の年数を重ねるにはポテンシャル以上のものが必要だ。プロフェッショナルでなければならないし、良いチームメイトでなければならない。正しいやり方があるんだ。だから今、若い選手にそれを伝えられるのであれば、やるようにしている」。

 

「どの選手からも学んだ一番重要なことは…」

コーバーの現チームメイト、エリック・ブレッドソーも同様だ。

ケンタッキー大学出身で、ドラフト1巡目指名選手としてキャリア最初の3年間をロサンゼルス・クリッパーズで過ごしたブレッドソーは、クリス・ポール、バロン・デイビス、モー・ウィリアムズ、グラント・ヒル、チャウンシー・ビラップス、ラマー・オドム、カロン・バトラーといったチームメイトとのプレイを経験した。

ベテラン選手から受けた恩恵について説明する際に、ブレッドソーは目を大きくしながら「素晴らしいベテランたちから学べた」と語った。

「あのクリッパーズチームは殿堂入り選手だらけだった。全員から本当に多くを学んだよ。でもどの選手からも学んだ一番重要なことは、忍耐強くいることだ。いずれ自分の番がやってくるから、忍耐強くやっていくように言われた」。

実際にブレッドソーの順番はやってきて、今ではチームメイトのドンテ・ディビンチェンゾやスターリング・ブラウンに同じアドバイスを与えている。

現在10シーズン目をプレイしているブレッドソーは「あのふたりとはよく話すよ」と述べた。

「スターリングは今あまりプレイタイムをもらえていない。苛立ちはあるだろうが、僕も同じ経験をしている。僕の周りの選手たちは、勝っていようが負けていようが、コートに立ったら全力でプレイするように言っていた。ただ順番を待つ忍耐強さも必要であることを教えてくれたよ」。

 

「しっかりと発言して、彼らを助けなければならない」

14シーズン目をプレイしているゲイも、メンフィス・グリズリーズでルーキーとして似たような経験をしている。

Rudy Gay

当時まだ20歳だったゲイがグリズリーズに加入したとき、チームメイトには12シーズン目をプレイする33歳のデイモン・スタウダマイアーがチームがいたのだ。スタウダマイアーは、エディ・ジョーンズの後ろでプレイしていたゲイのメンターとなったのだ。

その経験をした今、ゲイは次の世代のNBA選手を育てることの重要性を感じている。

「少しでも知識があるのであれば、それをしっかり伝えていくのが自分の責任だ。特に若手の多いチームで勝とうとしている場合、彼らに成長してもらうことが大切だ。しっかりと発言して、彼らを助けなければならない」。

バスケットボールだけではない。アメリカの若者を形成するのは、上の世代の重要な役割でもあるのだ。

原文:How young NBA players find motivation through their veteran teammates by Michael C. Wright/NBA.com

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