トレードは選手やチームにどんな影響を与えるのか?

Michael C. Wright, NBA.com

トレードは選手やチームにどんな影響を与えるのか? image

「彼がトレードされるなら、僕ら全員あり得る」

ベテランたちは、それも仕事のうちだと言う。だが、一部の選手にとっては、初めて友人がどこかに去る落胆とショックを味わう機会だ。2月6日(日本時間7日)のトレード期限が迫っている。

ミルウォーキー・バックスのカイル・コーバーは『NBA.com』に「これがNBAにおける緊張感なんだ」と語る。16年のNBAキャリアでトレードを4回経験した彼が最初に衝撃を覚えたのは、フィラデルフィア・76ersで4年目の2006年だった。コーバーは「本当に目を見張った最初のトレードは、アレン・アイバーソンがトレードされたときだ」と振り返る。

「(アイバーソンは)キャリア序盤における重要な存在だった。アドバイスをくれ、励ましてくれた。僕は彼をフィリーのアイコン、NBAのアイコンと思っていた」。

76ersは2006年12月20日(同21日)、得点王4回のアイバーソンをデンバー・ナゲッツにトレードした。コーバーは「彼がトレードされるなら、僕ら全員あり得る」と、安全な選手はいないと感じたと明かす。

「僕にとって最初のタフな時期だった。今は17年目で、たくさんのトレードを経験してきたし、シーズン中にコーチたちが解任されることもあった。GMもね。残念ながら、すべてビジネスの一部だ。バスケットボールは素晴らしいスポーツで、多くの点で素晴らしい仕事だけどね。GMたちやチームがわざと選手を(紙に名前が書かれているだけの存在と)見ているわけではないと思う」。

その上で、コーバーは「だけど、これは彼らの責任だ」と続けた。

「彼らの仕事はギリギリなんだ。ベストなチームを作るためにやるべきことをやらなければいけない。だけど、ベストチームというのはケミストリーがあるもので、そのケミストリーはコート内外の関係を通じて築かれるものだ。一定の時間を一緒にプレイしてこそ関係が築かれるんだ。プレイオフや直近の敗戦、うまくいかない時期や勝利、厳しい時期など、すべてを通じて素晴らしい絆が築かれる。もっと若いときは、シーズン中にコーチが解任され、選手たちがトレードされると、大変なことだと感じていた。でも、NBAである程度の時間を過ごすと、それもこの世界の一部だと気づくんだ。個人的なこととしては捉えない。誰もがそれぞれ仕事を保とうとしているということだ」。

NBA全試合配信! 無料トライアルも実施中

サンアントニオ・スパーズのデマー・デローザンは、トレードを巡る状況をよく理解している。2018年7月、彼はカワイ・レナードやダニー・グリーンと引き換えに、ヤコブ・パートルや2019年ドラフト1巡目指名権とともに、退団を望んでいなかったトロント・ラプターズからトレードされた。

タイトルを狙うために自分を手放し、レナードを獲得するという賭けに出たラプターズの決断に、当初デローザンはショックを受けた。NBA入りから9シーズンをトロントで過ごし、親友となったポイントガードのカイル・ラウリーと密な関係を築いていたからだ。

デローザンにとって、トロントで2シーズンを一緒に過ごしたルディ・ゲイは、スパーズに溶け込む助けとなった。2017年にフリーエージェントでスパーズに加わったゲイは、2013年に2度のトレードを経験している。

デローザンは「ルディとカイルはいつも近くにいた」と振り返った。

「(最初の頃は)カイルとまったく話さなかったんだ。でも、僕と彼はブラザーになった。だから、今でも連絡して、バスケットボール以外のこともお互いに話す。(トレード後は)最初にカイル、それからルディに連絡した。彼は笑っていたよ。でも、それは友情からだ。彼は『また一緒になったから笑っているのさ』みたいな感じだった。別のチームにトレードされたと言ったら、彼は僕と同じくらいに怒ったはずさ」。

デローザンは「キャリアの早い段階で(トレード)されていたら、どう受け止めていたか分からない」と続けている。

「今は、リーグのたいていのことを見てきた。ここにきて、アシスタントコーチのひとり(元スパーズ選手、アシスタントコーチで、昨夏フィラデルフィア・76ersのスタッフに加わったアイミ・ウドカ)とも対戦した。リーグのあちこちでこういうコーチたちとのいろいろな関係がある。移籍をしても、僕のことを知っているし、僕も相手のことを知っている。それがトレードをだいぶ楽にしてくれた」。

 

「家族にとっては大変だよ。特に小さい子どもがいればなおさら」

それでも、トレードで強烈な悲しみを覚えることはある。

2017年2月、ラプターズでデローザンやパートルとプレイしたテレンス・ロスが、サージ・イバカと引き換えにオーランド・マジックへトレードされた。知らせが届いたとき、チームは遠征準備中だった。

当時ルーキーだったパートルは「突然、彼がそばに立って『みんな、僕は去る。トレードされた』と言ったんだ」と回想する。

「本当に衝撃を受けたのは、あれが初めてだ。僕は『ワオ』という感じだった。あっという間だったんだ。つらかったよ。僕ら選手は仕事だと思うようにしなければいけないからね。仲良くなって、一緒に時間を過ごしたいと望む人たちといたいじゃないか。でも現実は、そんな人や自分がいつトレードされてもおかしくない。突然、まったく別のロッカールームになるんだ」。

ポートランド・トレイルブレイザーズのトレバー・アリーザは「選手が出たいと決めたときと、球団がトレードを決めたときとは世間の風当たりが違うんだ」と指摘する。

「家族にとっては大変だよ。特に小さい子どもがいればなおさらね。このリーグにいる大半の人が、友人がトレードされた経験を持っていると思う。たくさんそういうことがあって、慣れるのさ。僕はもう何にも驚かないよ」。

移籍となれば家族は引っ越しすることになり、別の街に移り住まなければならない。子どもは転校し、新たな友達を作らなければいけなくなる。

 

「良い球団は、そういうことも考慮する」

クリーブランド・キャバリアーズのアシスタントコーチを務めるJB・ビッカースタッフは、「一部の球団の扱い方は違う」と、そういった要素を考慮するのがトップ球団だと述べた。

「家族との関係やどれだけ長くいるかは常に重要だ。人間的なことも含めて決めることだからね。8、9年とその球団に在籍し、子どもがそこで育つのを見てきたら、決める上で重要な側面となる」。

ビッカースタッフは「球団にとって最善を尽くすのがチームの責任だ」と続ける。

「だからこそ、彼らの仕事は難しいんだ。優れないチームにいる優れたベテランに敬意を払い、優勝を競うチームにトレードして、そのベテランが成功する機会を与えるという経験もした。良い球団は、そういうことも考慮すると思う」。

スパーズがそういう球団であることは確かだ。グレッグ・ポポビッチ・ヘッドコーチは、人事に関する決定を下す際に、人間的な側面が重要だと話す。

「選手との関係による。どれほど長くいたか、どれほど重要だったか、そうじゃなかったか、残るチームにどう影響するか、とかね」。

「代わりに誰が来るか、自分が必要と思うことにフィットするか、なども考える。考慮すべきことはたくさんある。ただ、選手を切る際には人間的な側面がある。人生を通じてやってきた選手をチームから外したり、トレードするのだからね。サンアントニオが好きになり、すべてがうまくいっていて、子どもが学校に通っていて……その上で、球団にとって良いことを決める。それでもトレードをしなければいけない。つらいことだ。だから、人間的な側面は常にあるものだ」。

 

「いろいろ経験してきがけど、いつでもつらい」

シーズン中、家族以上にチームメイトたちと時間を過ごす選手たちも同じだ。友人がトレードでユニフォームを変えることになっても、強くて近い関係は変わらない。

ミネソタ・ティンバーウルブズのロバート・コビントンは、親しかったトレイビオン・グラハムとジェフ・ティーグが、1月16日(同17日)にアレン・クラブとのトレードでアトランタ・ホークスに去る経験をした。

コビントンは「普段のルーティンが少し変わる」と話す。

「僕はT.G.(グラハム)とよく練習していた。一緒にいて、人生についてとか、いろいろ話した。彼の家族とも仲が良かった。共通していることがたくさんあった」。

だが、グラハムがホークスに去ってからも、コビントンは「何も変わらない」と述べた。

「彼は僕らが一緒に過ごしたことの一部、このチームの一部なんだ。だから、彼への見方はまったく変わらないよ」。

夏に親友のラウル・ネトが解雇されたユタ・ジャズのルディ・ゴベアも同意する。多くの友人の移籍を経験してきたNBAで7年目のゴベアは「いろいろ経験してきがけど、いつでもつらいよ」と話した。

「僕らは自分たちをファミリーだと感じている。毎晩のように、僕らは戦争に出かけているんだ。それが翌朝起きたときに、トレードされたと知るんだ。(自分たちの関係は)仕事だけじゃない。でも、それも仕事の一部なんだ。自分が家族の一員だと感じるような、密な関係じゃないと優勝できないと思う」。

だからこそ、ゴベアはNBAにおいて「忠誠心は幻想」だと信じる部分があるという。ゴベアは「より良い何かとトレードできるなら、大半の場合、チームはそれをやる」と述べた。

ドノバン・ミッチェルは「アレック・バークスがトレードされたのは、試合直前だった」と話す。

「ダンテ(エクサム)も同じだ。ジェフ・グリーンは試合直後(に解雇された)。予想外のことが何度もあった。そういう選手たちもブラザーで、一緒に戦争にいく人たちだ。だから、愛情を抱く。僕はそういうみんなともかなり連絡を取り続けているよ」。

 

「ただ前進し続けるのみ。それが真実だ」

過去5年でトレードされたすべてのチームメイトたちのことに「何かしら心を痛めた」というジョー・イングルズは、「誰であっても、僕はずっと友人だ」と述べた。

「もちろん、直近ではダンテだ。(移籍したクリーブランド・キャバリアーズと)試合するときはふざけるだろう。でも、毎日彼のことが恋しくなる。僕らはまだ連絡していて、僕は彼と話している。今でも、グリーンとも話すよ」。

2017年に76ersからトレードされたエリック・ブレッドソーは、バックスのプレイをほとんど何も知らなかったが、スパーズとの初戦で13得点、7アシストを記録し、94-87の勝利に貢献した。ブレッドソーは「仕事でしかないんだと気づいた」と話している。

「最初は理解できない。でも、年をとると理解する。キャリアを通じて多くのチームメイトたちとやってきて、アジャストすることを学ばなければいけないのさ。あまりに多くのチームメイトたちに起きたことだから、一番の衝撃がどれかも思い出せない。ただ前進し続けるのみ。それが真実だ」。

原文:How trades affect players, teams in NBA by Michael C. Wright/NBA.com(抄訳)​


初月無料も! NBA観るならNBA Rakuten

Michael C. Wright, NBA.com

Michael C. Wright, NBA.com Photo

NBA.com