ホルムグレンを指名したプレスティGM「彼こそサンダーにふさわしい人材」|NBAドラフト2022

YOKO B

ホルムグレンを指名したプレスティGM「彼こそサンダーにふさわしい人材」|NBAドラフト2022 image

「ドラフトでその人を指名するということは、本質的に、その人を信じていると言っていることと同じです」

6月25日(日本時間26日)にオクラホマシティで行われた新加入選手紹介の会見で、オクラホマシティ・サンダーのバスケットボール運営部代表兼ゼネラルマネジャーのサム・プレスティは、オープニングコメントをそう締めくくった。

「私は今日ここにいる選手全員を信じています」

サンダーは、その2日前に行われたNBAドラフト2022で、チェット・ホルムグレン(全体2位:ゴンザガ大)、ウスマン・ジェン(全体11位:NBLニュージーランド・ブレイカーズ)、ジェイレン・ウィリアムズ(全体12位:サンタクララ大)、ジェイリン ・ウィリアムズ(全体34位:アーカンソー大)の4選手を指名した。

12位指名権を保持したままニューヨーク・ニックスに3つの将来の1巡目指名権を送り、全体11位でジェンを獲得したことも予想外のことだったが、サンダーに影響を及ぼす可能性のある番狂わせは、その日のもっと早い段階で起きていた。1位指名権を持つオーランド・マジックが、当初予想されていたジャバリ・スミスJr.(オーバーン大)ではなく、パオロ・バンケロ(デューク大)を指名したのだ。

オクラホマシティのメディアルームでドラフトを見守っていた現地記者たちは、このニュースににわかに色めきだち、「ジャバリを指名する可能性はあると思うか」「いや、サンダーはチェットで行くだろう」と予想を立てた。そしてまもなく、サンダーは想定通り、全体2位でホルムグレンを獲得している。

ドラフト終了後に開かれた会見で、ホルムグレンを選んだ理由について尋ねられたプレスティGMは「我々は、彼こそオクラホマシティにふさわしい人物だと、サンダーにふさわしい人材だと思ったのです」と答えている。

「今年のドラフト上位組は素晴らしいと思いますし、私の経験上、ドラフトは年々その質が良くなっていると感じています。しかし、我々にとってはチェットがベストでした。彼は我々のやっていることにすぐに馴染んでくれると思います。そして、ここが選手として成長し続けられる素晴らしい場所だということは、彼の中ではっきりしていると思います」

注目は「ボールハンドリングができ、パスができ、決断力も備えた選手」であること

身長213cmで体重88kgとかなり細身のホルムグレンは、ゴンザガ大1年の昨季、1試合平均14.1得点(フィールドゴール成功率60.7%、3ポイントショット成功率39%)、9.9リバウンド、3.7ブロックを記録している。攻守に優れるツーウェイプレイヤーで、リムを守れる選手として知られるが、サンダーが注目したのは「あのサイズでボールハンドリングができ、パスができ、決断力も備えた選手」であることだと、バスケットボール運営部副代表のウィル・ドーキンスは続ける。

「彼はアンセルフィッシュで、チームのために自ら犠牲を払うこともいとわない選手でもあります」

インサイドが守れるリムプロテクターは、昨季のサンダーに欠けていた存在だ。しかし、サンダーは単なるリムプロテクターがほしいわけではない。昨年のドラフト全体6位で獲得したジョシュ・ギディーの優れたコートビジョンとパスのスキルを最大限に生かし、チームのリーダーかつ得点源であるシェイ・ギルジャス・アレクサンダーが自由に動けるスペースを与え、そしてポジションに関係なく全員でボールをプッシュできるバスケットボールに合ったビッグマンがほしいのだ。ホルムグレンは、まさに適材といっていいだろう。

ホルムグレンは新加入選手紹介の会見で、ギルジャス・アレクサンダーとギディーとは「うまくフィットすると思う」と自信を覗かせた。

「試合では、僕は縦にも横にもスペースを広げられるようになると思う。ロブパスの受け手として脅威になり、3Pでスペースを作り、トランジションで彼らを見つけられる。コーチの戦術のどんなことでも実行に移して、より良いプレイができるようにチームメイトを助けられると思っているし、チームメイトも僕を助けてくれると思う」

「今なら正式に、僕が来たかった場所はここだと言える」

プレスティGMが言う通り、ホルムグレンがサンダーに馴染むのにはそれほど時間はかからないだろう。チームメイトとの相性以前に、組織やチームを信頼しているかどうかや、そもそも本人がそこにいたいかどうかが鍵を握ることも多いからだ。プレスティGMの会見中、彼のほうをじっと見つめて話を聞くホルムグレンの眼差しから『信頼』が感じ取れたこと、そして、ドラフト前からサンダーを希望していたという噂を「今なら正式に、僕が来たかった場所はここだと言える」と、笑顔で本人が認めたことは、チームにとってプラスのはずだ。

もちろん、社交辞令の可能性もある。だが、ドラフト当日に現地で取材していた『The Oklahonan』のジョー・ムサート記者は、ホルムグレンがサンダーに指名されたことに喜びを隠せなかったと伝えている。取材に答えたホルムグレンは、その時点で数々の写真撮影やインタビューを終えていたにもかかわらず、サンダーの帽子を被ったままで「こんなに心地いい帽子を被ったのは初めてだ」と、満面の笑みで言ったという。

「この帽子はたくさん被ることになると思う。興奮しっぱなしだよ」

その言葉通り、ドラフト翌日の24日(同25日)も彼はそのサンダーの帽子を被ってプライベートジェットに乗り、オクラホマシティにやってきた。プレスティGMの待つ空港に到着してタラップを降りるときも、その帽子をしっかり被っていた。ところが、そこでアクシデントが起こる。

「その日は風がとても強くて、彼の被っていた帽子が風に飛ばされてしまってね」と、プレスティGMはそのときのことを嬉しそうに『NBA Japan/スポーティングニュース』に話してくれた。

「彼は手にボールを持っていたんだが、それを放り出して、帽子を掴みに行ったんだよ」

咄嗟の出来事に、ホルムグレンがボールよりもサンダーの帽子を選んだことを笑顔で振り返るプレスティGMは、どこかとても満足気に見えた。サンダーはドラフトロッタリーで、球団がオクラホマシティに移転して以来最も上位となる2位指名権をやっと手に入れ、そして、彼が高校2年生の頃から追いかけてきた「ユニークな選手」であるホルムグレンを獲得したのだ。NBAにおいて、お互いに望む相手と良いタイミングで結ばれることは意外と難しい。それを思うと、プレスティGMの笑顔にも納得がいく。

上位指名のプレッシャーに対し「自分の期待や目標を達成するために精一杯努力するだけ」

再建モードに入ったサンダーは、2シーズン連続でプレイオフ進出を逃したどころか、2021-22シーズンはウェスタン・カンファレンスでワースト2位、リーグ全体でもワースト4位と低迷が続いている。念願の上位指名に、チームやファンの期待が高まるのは無理もない。

歴史を振り返れば、サンダーで活躍した上位指名の選手には、ケビン・デュラント(全体2位:2007年当時はシアトル・スーパーソニックスが指名)、ラッセル・ウェストブルック(全体4位:2008年)、ジェームズ・ハーデン(全体3位:2009年)という、MVPを受賞した一流の選手が名を連ねるのだ。

「みんな偉大な素晴らしい選手たちで、この組織でも、ほかの場所に移ってからも、特別なことを成し遂げたことはよくわかっている」と、ホルムグレンは言う。

「でも、必ずしもそれがプレッシャーだとは感じていない。僕には自分自身への期待や自分の目標があって、それを達成するために精一杯努力するだけだ」

新しいチームに期待するのはサンダーをカバーする現地メディアも同じだ。新加入選手の会見場で、ホルムグレンをはじめとする4選手を初めて目の当たりにした記者たちは、誰もが彼らのサイズとその長さに目を見張り、サイズのある多才な選手が多数加わる来季のサンダーが楽しみだと口を揃えている。

ホルムグレンの線の細さを懸念する声もあるが、「なにをやっても他人はとやかく言うものだ」と、囲みインタビューで本人はそれを一蹴した。育成に定評のあるサンダーが新人たちにかなりの出場時間を与えることは確実で、特に将来のチームを担う主力選手になることを期待されるホルムグレンが、フィジカルなNBAでどこまで通用し、何を見せてくれるのかも見逃せない。

長身で長いウィングスパンを持ち、ボールハンドリングやパスに優れるユニークな選手を新たに加えたことで、昨季すでにその片鱗を見せていたサンダーのポジションレスなバスケットボールが、来季はさらに加速することは間違いないだろう。それが凶と出るか吉と出るかはシーズンが始まってみないとわからないが、新生サンダーが一体どんな戦いをするのか、一見の価値はあるのではないだろうか。

NBA全試合ライブ&見逃し配信 最高の瞬間を『NBA Rakuten』で

YOKO B

YOKO B Photo

静岡県出身。大学卒業後渡米し、オクラホマ大学大学院修士課程修了。2014年よりオクラホマシティ在住。移住前にNBAのオクラホマシティ・サンダーのファンとなり、ブログで情報発信を始める。現在はフリーランスライターとして主にNBA Japan/The Sporting Newsに寄稿。サンダーを中心に取材するかたわら、英語発音コーチも務める。