メンフィス・グリズリーズと無保証のエグジビット10契約を結ぶ河村勇輝(23)がプレシーズン戦でまずは好スタートを切っている。
最初の2戦では第4クォーターにプレイタイムを得ると、12日、敵地でのシカゴ・ブルズ戦では第1クォーターにコートイン。不出場の主力が多かったこともあって23分48秒をプレイし、2得点(FG 0/5, 3P 0/5, FT 2/2)、8アシスト、1スティール、4ファウル、2ターンオーバーという成績を残した。
この日はショットこそ決まらなかったものの、アシストはチーム最多。チームは最大21点差を逆転して124-121で接戦を制し、プレイメイカーとして貢献した河村は勝利の立役者の1人になった。
その試合後、グリズリーズの公式サイトなどにコンテンツを供給する地元メディア『グラインド・シティ・メディア』のマイケル・ウォレス記者に意見を求めた。2016年10月以降、グリズリーズを見守って来たベテランアナリスト、ウォレス氏の目に河村の現在、未来はどう映っているのか。
Daisuke Sugiura
――ここまでの河村をどう見ていますか?
マイケル・ウォーレス(以下、MW):ユウキが出場すると、コート上のエナジーが変わる。その存在は“ダイナモ”という形容が相応しい。これまでのところは優れた結果も出し、チームにインパクトを与えている。恐れを知らず、ペースを効果的に変えるのがうまく、スピードを活かしてボールをプッシュする。
12日のブルズ戦ではザック・イディーのダンクを鮮やかなパスで演出し、敵地シカゴのファンをもどよめかせていた。自信に満ち、自分のやるべきことがわかっているという印象。まだシューティングに磨きをかけなければならないし、ゴール周辺のフィニッシュを上達させる必要がある。ただ、司令塔としての力量、チームにスパークを与える役割はすでに上質なものがあることを示して来ている。
――事前に予想していた以上のプレイをしていると言えるのでしょうか?
MW:私はパリ五輪でのユウキのプレイを見ていたから、彼がどんな選手になれるのかをある程度は予測できていた。そこでの成果を見て、正当な機会さえあれば結果が出せる選手だと思っていた。
確かでなかったのは、ユウキにプレシーズンでどれくらいの出場機会が与えられるのかという点だ。ジャ・モラント、マーカス・スマートが復帰し、スコッティ・ピッペンJr.もいるグリズリーズではプレイタイムを得るのは難しいかとも考えた。ところがプレシーズンではこれまでのところ、一定の出番を得られている。
“プレイの方法を知っている選手”という印象自体は変わったわけではない。予想外のことがあったとすれば、ユウキがチームメイトたちからすぐに受け入れられたこと。また、英会話に積極的に取り組み、アメリカのカルチャーに適応しようと努めていることには感心させられている。コート外のことに関しては少し驚かされている。
――河村の長所と短所を改めて挙げるならどういった部分でしょう?
MW:長所はスピードと視野の広さだ。良いパスが出せ、他の選手たちがどこにいるべきかも理解している。それらの能力によって、オフェンスの指揮を上手に執ることができる。常にエナジーに満ちていて、恐れを知らないプレイにも好感が持てる。身体ごと飛び込んでいくことを恐れず、小柄ではあってもディフェンス時にはオフェンシブファウルも取れる。
一方、弱点を挙げるとすれば、まだシューティングが安定していないこと。対戦相手はユウキのスピードに気づき始めていて、今後もある程度の確率でショットを決められなかった場合、マッチアップするディフェンダーは正対した時に距離を詰めず、離れて守ろうとするだろう。そのためにはミッドジャンパー、3ポイントショットの精度を上げる必要がある。NBAレベルでも安定した形で3Pを決められるようになったとき、ユウキの可能性はさらに広がる。
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――サイズ不足ゆえに、ディフェンスも難しいものになるでしょうか?
MW:ディフェンスは簡単ではないはずだ。ユウキはほぼ毎夜、身長にして7インチ(18cm)、体重で45パウンド(20kg)のハンデを背負うことになる。それをどう克服していくかという点が注目ポイントになり、そのためにはハートの強さが必要になる。ユウキは聡明で、クイックネスがあり、ビッグハートを持っている。サイズの不足を心配するよりも、自身にできることが重視していく方が大切なのではないかと思う。
――河村を取材し、チームメイトと交流する姿も見て来たと思いますが、その性格、キャラクター面をどう見ますか?
MW:とても外交的で、現代の若者という感じがする。どうやってアピールすれば良いのかをわかっている。笑顔を浮かべ、喜びを持ってプレイし、コミュニケーションを取ることの大切さもわかっている。オフコートでもチームメイトたちに愛されているのは見て取れる。また、メディア対応の義務も十分に理解している。日本メディア、米メディアの両方のニーズを認識していることには感心させられて来た。それらは彼のキャリアの助けになるだろう。
――昨季まで2度にわたってグリズリーズに所属した経験がある渡邊雄太と河村をどう比較しますか?
MW:エナジー、スマイル、魅力には共通点がある。どちらもバスケットボールを楽しんでプレイしたいと考えている。ユウタは6-8(203cm)の身長があり、3Pを得意とし、一定の身体能力があり、カレッジからアメリカでプレイしたおかげで十分な経験も積んでいた。グリズリーズでのプレイを始めた時からアメリカのカルチャー、プレイスタイルにはすでに慣れていた。
ユウキはアメリカに来たばかりだが、五輪でプレイした経験は助けになっているように思う。また、ボールを手に持ってプレイすることが多いユウキはチームを統率することに慣れており、リーダーシップの素養という面ではユウタより上かもしれない。
――昨季苦戦の要因になった故障者が復帰し、グリズリーズの現状をどう見ていますか?
MW:主力選手が健康を保つ限り、リーグ最高級にエキサイティングなチームになるだろう。選手たちは自身の価値を改めて証明したいと思っている。モラント、デズモンド・ベイン、ジャレン・ジャクソンJr.といった主軸が復帰し、育成を進めたおかげで層も厚くなった。ルーキーのイディーもプレシーズン戦で良いプレイをしている。ジェイク・ラレイビアが成長し、GG・ジャクソン、ビンス・ウィリアムズJr.が戻って来れば、戦力は整う。
さらにピッペンJr.、ユウキ、ジェイ・ハフといった若手が伸びれば、より隙のないチームになる。ほとんどのファンは、一昨季まで2シーズン連続でウェスタンの第2シードになったグリズリーズの潜在能力をすでに忘れてしまっている。今季のサプライズチームになる可能性を秘めていると思う。
――そんなチームの中で、現実的に近未来の河村はどうなっていくと予測していますか?
MW:最終的にはユウキがどんなキャリアを築きたいかに委ねられるのかもしれない。彼なら日本に帰って、人気選手としてアメリカで稼げるよりも多くの高給を手にすることもできるのだろう。ただ、NBAでやっていきたいのであれば、まずはGリーグでプレイしなければいけないはずだ。
現在、2ウェイ契約の枠は埋まっているが、ピッペンJr.が本契約を手にすれば、ユウキが2ウェイ契約を得る現実的な可能性はあると思う。その上で、グリズリーズとGリーグのハッスルを行き来して経験を積み重ねていくのかもしれない。2ウェイ契約とはならず、今のままの契約形態なら、ハッスルでプレイすることは他の全29チームに向けたオーディションにもなる。
ピッペンJr.はレイカーズのGリーグで(2ウェイ契約選手として)スタートし、グリズリーズがより安定した形でNBAでプレイする機会を与えた。ユウキにも同じような未来が開けても不思議はないと思う。まずはハッスルでシーズンをスタートさせ、腕を磨き、ラスベガスで開催されるGリーグのショーケースゲームなどで力を見せるのがユウキにとって最善の機会になるのではないかと感じている。
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