NBAファイナル第5戦で分かった5つのこと

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6月10日(日本時間11日)にスコシアバンク・アリーナで行なわれたトロント・ラプターズとゴールデンステイト・ウォリアーズのNBAファイナル第5戦は、106-105でウォリアーズが勝利し、シリーズ成績を2勝3敗とした。この一戦から我々が学んだことが5つある。

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1. デュラント抜きでの勝利ではなく、彼のための勝利

誰でも、ケビン・デュラントのことを気に掛けるボブ・マイヤーズGMのように自分のことを気に掛けてくれる上司が必要だ。マイヤーズGMは、保護ブーツを着用したウォリアーズのスター選手、デュラントがゆっくりと用意された車に乗り込むのを手伝ったあと、試合後の記者会見に応じた。

アメリカ東部時間では深夜に及ぶ時間帯の記者会見でマイヤーズGMが口を開くと、その声は震えており、涙をこらえながら話していることは明らかだった。「人間だ、スポーツは人間だ」とマイヤーズGMは語った。

「ケビンが多くの批判を受けることは理解しているが、彼はとにかくバスケットボールがプレイしたいだけなんだ。そして今、彼はそれができない。彼はバスケットボールのおかげで人生を歩むことができた。それが彼にとってどれだけ重要なことなのか、我々が完全に理解するのは難しいことだろう。彼はとにかくチームメイトと一緒にバスケットボールをして、競い合いたいんだ」。

デュラントのその想いは、NBAファイナル第5戦の第2クォーター序盤に潰えてしまった。スピンムーブでボールを失うと、足を引きずったのちに座り込み、右脚下部を掴んだ。デュラントはこのプレイオフ中、ウォリアーズの直近の9試合を右ふくらはぎの負傷で欠場していた。第5戦のケガはアキレス腱のものと発表されており、11日(同12日)にはMRI検査が行なわれる予定だ。

マイヤーズGMは誰かが責任を負うべきなのであれば自分であると名乗りを上げ、第5戦にデュラントが出場可能であると判断したウォリアーズのメディカルスタッフを庇った。しかし責任の追求は時間の無駄だ。ウォリアーズとNBAファイナルへの影響は優先度で言えば2番目と3番目であって、最も優先すべきはデュラントの短期的、そして長期的なプレイキャリアへの影響だ。

勝利の瞬間、彼のチームメイトとコーチ陣の感情は複雑なものだった。試合結果への喜びはありながらも、それに伴う絶望的な出来事だったからだ。スティーブ・カーHCは「彼らがとても誇らしい」と話した。

「とてつもないハートとガッツを見せてくれた。その一方で、ケビンのことでひどくショックを受けている。だから今は全員複雑な心境だ。素晴らしい勝利と、ひどい損失が同時にやってきた」。

ステフィン・カリーも、自身の友人、この状況、デュラントのタフさ、そして機会を奪われてしまったことについて語った。

試合終盤に2本の貴重な3ポイントショットを決め、第5戦の勝利を呼び込んだクレイ・トンプソンは、今後チームがどう前に進んでいくか問われると、「ケビンのためにやる」と述べている。

「K(ケビン)のためにやるんだ。これだけは言える。彼は我々に最も高いレベルで戦って欲しいと願っている。だからコートに立つたびに、我々は彼のことを想うだろう」。

もはやこれはここ5週間ほど議論されてきた、ウォリアーズがデュラント抜きのほうが「強い」のかどうかという問題ではない。全てのウォリアーズの選手は、すでにその論を否定している。

デュラントが残りの試合に出られないことで、ウォリアーズの戦略の選択肢が減ってしまったことは間違いない。デュラントがコート上にいることで、ラプターズのディフェンスの上から打てたり、チームメイトをオープンにできるほどディフェンスを引きつけることができたりと、ウォリアーズが受けるメリットについてカーHCとラプターズのニック・ナースHCはたびたび触れてきた。

しかし、ここからはウォリアーズの感情的な面も注目されることとなる。もうデュラントがいつ出場するのか、出場できるのか、といった疑問はなくなった。ウォリアーズの選手たちはこのケガから受けた複雑な感情を、ひとつの目標へと切り替えていく必要があるのだ。

カリーは「立て直すというだけでも、とても厳しいものになる」と話した。

「これまでは、彼がプレイできるかもしれないという希望と、このシリーズを生き延びるという感情があった」。

しかしカリーが話したこの感情的なジェットコースターは、全速力で終点に向かっている状態だ。12分で11得点を獲得した選手抜きで、ホームで1試合、(もしあれば)アウェイで1試合を戦わなければならない。しかし第5戦が始まったときよりは、逆転優勝の可能性は上がっている。

今、自分に問いかけてみよう。この状況は、ディフェンディングチャンピオンのウォリアーズをより恐ろしいチームにするだろうか?

 

2. タイムアウト、諸刃の剣

プレイオフの最初の3ラウンド、そしてファイナルでの4試合で、ナースHCはNBAのカジュアルファンに好意的に受け止められてきた。彼の気取らない性格は人を惹きつける。試合前のメディアセッションで、彼はいつも記者陣に「じゃあ試合を楽しんでね」と伝えて終わるのだ。各対戦相手にしっかりと対応できるその能力を持つ彼をリスペクトすることは容易だ。

バスケットボールのインテリ層の反応を気にすることもなく、ナースHCは前に進む姿勢をここ数週間見せてきた。カリー相手にボックス&ワンを仕掛けるという戦術は、この戦術が大学や高校レベルのものであると考える批評家から失笑を買った。それでもナースHCは気にすることなく、ラプターズを勝利へと導き続けた。そしてあと3分5秒を乗り切れば、優勝トロフィーを手にすることができるところまで来ていたのだ。

そこで事態は起きた。

ラプターズ、いや、正確にはカワイ・レナードが連続10得点を奪い、ラプターズは103-97のリードを奪った。スコシアバンク・アリーナに集まったファン、そして野外の『ジュラシック・パーク』に集まった何万人ものファンはチーム史上初のNBA制覇を目前にしていた。

しかし、試合残り3分5秒でナースHCは2つ続けてタイムアウトを取った。そこで勢いは失われ、ウォリアーズに立て直す機会を与えてしまったのだ。NBAのルール上、残り3分を切るとラプターズはその2つのタイムアウトを自動的に失うことになるため、彼はそれを行使したわけだが、使わなければならないわけでもない。

ナースHCは「(ハーフコートラインを)超えた時点で、少し選手たちを休ませようと判断した」と説明した。

「少し休ませることでエナジーを回復できると思ったんだ」。

問題は彼の選手が休んでいるなか、カーHCの選手も休んでいたことだ。ドレイモンド・グリーンは「自分たちを落ち着かせる良い機会を得ることになった」と話している。

ウォリアーズはそこから連続で9点を獲得し、ラプターズはカイル・ラウリーのショットをデマーカス・カズンズがゴールテンディングしたことで得点するのがやっとだった。

ナースHCがあそこがタイムアウトを取っていなければ、これらのことが起きなかったかどうかはわからない。しかし、彼がタイムアウト2度も取らなければ、カーHCに最後のタイムアウトを取るようにプレッシャーをかけることができたかもしれない。最後のタイムアウトを使わないといけないような状況に追い込まれることを、コーチは嫌がるものだ。

ちなみに、会場のラプターズファンがデュラントのケガを喜んだ件に関して、少しみんな冷静になったほうがよくはないだろうか? リスペクトし、恐れている対戦相手がキャリアに影響するとは思われていなかったふくらはぎのケガを再発させてサイドラインに下がっていったことに対する、反射的なリアクションだったのだろう。客席からは、それくらいしかわからなかったはずだ。

ファンはその瞬間、ギアチェンジをする必要があった。2015年のNBAファイナル第1戦でカイリー・アービング(当時クリーブランド・キャバリアーズ/現ボストン・セルティックス)がひざを負傷したときにウォリアーズのファンがしたのと同様に。ギアチェンジ後、ラプターズファンは励ましの喝采を送り、「KD! KD!」とチャントを送っていた。デュラントが痛み苦しんでいることを喜んでいた人はいないだろうし、彼に取って最悪の事態であるよう願っている人なんていなかったはずだ。

 

3. ファイナルMVPは誰の手に?

選ばれたメディア関係者がファイナルMVPの投票を提出しないといけない時間がやってきたとき、レナードはちょうどひとりで連続10得点を獲得している真っ最中だった。一枚の紙に、ひとりの名前を書くスペースしかなく、ラプターズがこのまま勝利すれば、間違いなくレナードが選ばれていただろう。

この口数少ないフォワードは、ファイナルの最初の4試合で素晴らしい活躍を見せてきた。そして第5戦でも、勢いに乗り始めている状態だった。ただ、レナードの第5戦はそれまであまり良い出来ではなかったのだ。終盤に活躍するまでは、18本中13本のショットを外し、わずか16得点にとどまっていた。最終的にはフィールドゴール24本中9本成功、3ポイントショットは7本中2本成功、5ターンオーバー、26得点、12リバウンド、6アシスト、2ブロックという成績だった。

ウォリアーズのクレイ・トンプソンとアンドレ・イグダーラに追い込まれた最終ポゼッションで、彼が最後のショットを打たなかった選択肢は間違いなく正しい。あそこで無理やり何か打とうものなら、「ヒーローボール」が最悪な形で表現されることとなっていただろう。だからこそ、シュートするかドライブするか選ぶことができたフレッド・バンブリートへとレナードはボールを回したのだ。

しかし、バンブリートはさらに左コーナーにいるカイル・ラウリーにボールを回し、彼のショットが放たれるやいなや、ボールはドレイモンド・グリーンの指先をかすめて外れることとなった。

確かにレナードは周囲からの援護をもっと必要としているだろう。ラウリー、ダニー・グリーン、ノーマン・パウエルのフィールドゴール成功率は合わせて38.8%だ。パスカル・シアカムはこのファイナルで3Pショットが15本中2本しか決まっておらず、さらにさかのぼるとフィラデルフィア・76ersとの第1戦終了以降、72本中15本しか決められていないのだ。

もしレナードが自身2回目のファイナルMVPを獲得するのであれば、第6戦(ともすれば第7戦)でそれを勝ち取る必要がある。(ウォリアーズが第6戦で大敗しない限り)両試合で投票は再集計され、彼が大本命であろうことは変わらない。しかし、第5戦では第4クォーターの活躍を除くと、彼がウォリアーズのディフェンスに苦しんでいたことも事実だ。

 

4. 第7戦までもつれるだろう

ウォリアーズがNBAファイナルのホームでの3試合全てを落とすと思うだろうか? 過去4度のファイナル(2015-18)でのオラクル・アリーナでの成績は9勝3敗だ。

ウォリアーズの驚異的なタレントに加え、オークランドの観衆の凄まじさこそが、あの会場を他チームにとって最も恐るべき場所にしてきたのだ。そしてこれは、オラクル・アリーナからチームが移転することが決まる前から続いていたことだ。

第5戦の最後の数分がやってくるまで、ウォリアーズがオラクル・アリーナでの最後の試合を終えていた可能性もあったのだ。しかし、選手たちもコーチたちも、第4戦が終わった時点でそう考えることはしなかった。そう考えるということは、ファイナルがトロントでの第5戦で終わってしまうと考えることと同義なのだから。

そして今、シリーズはラプターズが3勝2敗でリードしており、各チームがホームで勝利した場合と同じ戦績となっている。

カリーは「最大のアドバンテージは、もう一度オラクル・アリーナでプレイできることだ」と話す。

「ファンが全力で我々を応援してくれる。我々は生き残るために、もう48分間必死でプレイしなければならない」。

ドレイモンド・グリーンは「このチームが諦めるのは見たことがない。それは今でも変わらない」と述べた。

第5戦でレナードを守りながら10得点、10リバウンド、8アシストを記録し、ラウリーの最後のショットを止めに行ったグリーンは、まだ終わっていない。デュラントが倒れたあと、ステップアップして14得点を獲得したカズンズも、まだ終わっていない。

衣服にシャンパンを染み込ませ、パレードのルートを決めているはずだったラプターズは、再び3つのタイムゾーンを越えて敵地に乗り込まなければならない。第3、4戦でどれだけ成功を収めたとしても、それはやはり避けたいものだったはずだ。

「ああ、今回(第5戦)の我々の目標は、相手を飛行機に乗せてオークランドに送り返すことだった」とトンプソンは話した。

正直、もし今の段階で第6戦に負けたことにして、このまま16日(同17日)に予定されているスコシアバンク・アリーナでの第7戦を行なえるのであれば、ラプターズはその道を選ぶかもしれない。わざわざカリフォルニアへ戻って試合をすることなく、ケガの可能性も避けられ、相手のホームでウォリアーズの選手とそのファンが振りかざす気迫に脅かされるといったことを避けることができるのだ。

バンブリートは「ああ、優勝するチャンスがあったが、それを逃してしまった」と話した。

「十分に良いプレイができなかった。終盤、勝つに十分なプレイを遂行することができず、その痛みが少しあることは確かだ。でもまだ終わっていない」。

この段階で両チームの体力はどれだけ残っているのだろうか? その問いにドレイモンド・グリーンは「関係ない」と答える。

「(第5戦終了後)全員の体力が尽きていることを望むよ。なぜなら、そうでなければ、出し切っていないということだからだ。けれども、第6戦でコートに立ったときに重要なのは、その事実だ。戦っているのは我々だけではない。相手も戦っている。全員が疲労しているんだ。どちらにせよ、ここにやってきた理由のためにプレイしなければならない」。

 

5. ファイナルがフリーエージェント市場に与える影響

この夏、デュラントが最大の大型契約を結ぶことは変わらないかもしれない。2020-21シーズンに向けて来シーズンをリハビリに当てることになったとしても、多くのチームが大金を準備することは間違いないだろう。しかし、それによって彼と一緒にプレイしたいと考えるフリーエージェントに影響する可能性はある。彼らも1年を棒に振らないといけないと感じるかもしれないからだ。

デュラントが来シーズンの3150万ドルのプレイヤーオプションを行使し、ウォリアーズに残留する可能性もある。身を捧げたチームのお金でリハビリし、2020年に再び市場を試すのだ。

デュラントは9月で31歳になる。これまで多くのシーズン、多くの出場時間を重ねているだけに、アキレス腱のケガが重症であった場合、それが彼の将来的なパフォーマンスにどれだけ影響するかはわからない。

もしかしたら、ルディ・ゲイがアキレス腱を断裂したあとに、機動力を犠牲にしてパワーをつけた選手に生まれ変わったように、オールスターレベルの能力は維持できるかもしれない。結局のところ、デュラントがどこかと契約し、リハビリを始めなければわからないことだ。

レナードの去就、ボストン・セルティックスを出ることが予想されているカイリー・アービング、ニューオーリンズ・ペリカンズで不穏な動きを続けるアンソニー・デイビス、そして4割近くのNBA選手が新たな契約を求めている移籍市場に、またひとつ大きな変数が加わったことは間違いない。

原文:Five things we learned from Game 5 of The Finals by Steve Aschburner/NBA.com


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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ