数字で読み解く新ルールの効果

大西玲央 Reo Onishi

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2021-22シーズンから、シューティングファウルを吹く基準が変更となり、その効果がすでに大きく見られ始めている。これまでは、シューター側がディフェンダーとの接触をわざと誘発することで、相手のファウルを引き出して多くのフリースローを獲得していたが、今季は明らかにシューター側が不自然な動きで接触しに行った場合はファウルを取られなくなっているのだ。

その新ルールが、リーグ全体にどのような影響を与えているのか、数字を使って読み解いてみよう。

フリースロー試投数激減

まずは単純なフリースロー試投数を見てみよう。10月27日(日本時間28日)現在、Basketball-Reference.comによるとリーグ全体の平均フリースロー試投数は1試合19.9本。歴代で最も少ないどころか、平均20本を切っているのも初めてのことだ。

平均フリースロー試投数がリーグ28位タイの15.0本であるアトランタ・ホークスは、昨季の24.2本から大きく数字を落としている。一方でリーグトップの平均25本を打っているバックスは、逆に昨季の21.4本から増えている。

この差は、トレイ・ヤングのようなアウトサイドシューターを主体としているホークスと、ヤニス・アデトクンボのようなインサイドを主戦場としているエースを擁するバックスが受ける影響の差と言えるだろう。

実際にファウル数を基準に見てみると、今季の平均ファウル数19.6回は昨季の19.3回とほぼ同じだ。ファウルが発生している場所が外から中にシフトしているのだ。

オフェンスのなかでどれだけフリースローを獲得しているのかを測る数値のFTr(フリースローレート:フリースロー試投数 ÷ フィールドゴール試投数)も、今季の0.168はリーグの75年の歴史で最下位に位置している。

選手への影響

特にシューティングファウルを受けてフリースローを打っている印象がこれまで強かったのは、ジェームズ・ハーデン(ブルックリン・ネッツ)やトレイ・ヤング(アトランタ・ホークス)だろう。実際ふたりのスタッツには新ルールの影響が大きく表れている。

ハーデンは平均フリースロー試投数が昨季の7.3本から今季はわずか3.0本と激減。ヤングも昨季の8.7本から今季は5.3本と平均3本以上少なくなっている。

リーグ全体を見ても、昨季の平均フリースロー試投数トップ10に、ガードと呼べる選手が7人いたのに対して、今季はわずか3人しかいない。

ハーデンに関しては、さらに顕著な変化として表れている数字がある。ピック&ロールのボールハンドラーになった時に、フリースローを獲得する頻度を測るFT FREQが、昨季の15.8%から今季はわずか6.0%まで落ちており、数字から見てもプレイスタイルに変化が起きていることがわかる。


もちろん、まだ今季は多くても4試合ほどしか行なわれておらず、サンプル数として少ない。ルールも導入されたばかりで、レフリーも手探りな状態で吹いているところはあるだろう。シーズンが進むにつれ歴史的に低い数値が通常に戻っていく可能性は大いにある。

しかしハーデンやヤングなど、明らかにこれまでとのプレイスタイルからの変化が見られる選手がいることも事実だ。

ルール変更が導入されるたびに、リーグのトレンドが大きく変わることも多い。ハンドチェックファウルの基準が厳しくなった際には、より多くのドライブが生まれた。そしてドライブが増えることによってフリーで打てる3ポイントショットが増加していった。

今回の新ルールは逆にオフェンス側を規制するものとなっているわけだが、今後どのようにそれぞれの選手たちが対応していくのか、そしてディフェンス側もそれに合わせてどう変化していくのか注目だ。


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大西玲央 Reo Onishi

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アメリカ・ニュージャージー州生まれ。国際基督教大学卒。NBA Japan / The Sporting Newsのシニアエディター。記事のライティング以外にもNBA解説、翻訳、通訳なども行なっている。訳書には『コービー・ブライアント 失う勇気』『レイ・アレン自伝』『デリック・ローズ自伝』「ケビン・ガーネット自伝』『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』。